表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2286/2685

大戦の始まり、その29~東部戦線⑨~

「・・・黒の魔術士に関しては常識の裏側~。つまり~、理外の理というやつが当てはまると考えます~。機能しなくするのではなく~、この上なく結束する決死隊を作るなら~、帰るところをなくしてやればいいですよね~?」

「俺も今同じことを考えた。そもそも国の内紛という発想が間違っているとすれば、どちらも滅んでしまってもいいわけだよな? なら、和平なんて考えさせないほどに徹底的に相手を追い込んで、それこそ一兵残さず死に絶えるまで戦わせればいいわけだ」

「わかってはいても~そこまでやれる状況を作ることが不可能だと思っていましたが~。アレクサンドリアの精鋭を追い込めば、あり得る可能性かもしれませんね~」


 コーウェンがさすがに神妙な面持ちで腕を組んで考え込んだ。そしてラインの視線は既に地図に移っており、アレクサンドリア本国が既に黒の魔術士の傀儡政権だと仮定して、ディオーレを全滅させる数を揃えるにはどうすればいいのか考えていた。


「嫌な発想だな、くそっ・・・戦争遊戯じゃあたしかに負けたことはねぇけどよ」

「これはアレクサンドリアの地形と強さを知るライン副長に素直に質問しますが~、どのくらいの軍勢がいればディオーレ殿は倒されうるのですか~?」

「ディオーレ様を軍で倒すのは、事実上不可能だ。それは攻城戦だろうが、防衛戦だろうが、軍という単位で戦う限り、ディオーレ様が負けることはない」

「どうしてそう言い切れるのです~?」

「ディオーレ様の本気の魔術を見たことがあるのは、アレクサンドリアの精鋭のごく一部だけだ。ディオーレ様の使う魔術はそれこそ魔法一歩手前の規模だとだけ教えておく。アルフィリースですら、軍を率いるディオーレ様に勝つことは不可能だ」

「私の火砲があっても~?」

「ああ、無理だ。そういう問題じゃない。そもそもあの火砲、まだ未完成品だろ?」

「むぅ~」


 コーウェンはふくれっ面をしたが、ラインの指摘はもっともだったので、何も反論できなかった。

 そもそもコーウェンは完成品を作り上げる発想しかなかったところを、アルフィリースが未完成品でも運用次第で有効に使える戦術を練ればいいと提案したので、この戦争に間に合ったのだ。

 本当の意味での完成品ができるには、あと数年かかるだろう。詳細な検討をしなければ、味方にも大損害を与えかねない兵器となるのだから。

 ラインが地図の上に、兵を並べ終えると唸る。


「アレクサンドリアの軍備が10年前とほぼ変わらず、防備体制も変わらないとして――ディオーレ様の軍が最大5万、アレクサンドリアの中央軍が20万」

「そんなに差がありますか~?」

「ディオーレ様とその派閥と目された領主は、年を追って軍縮を行われていたからな。対して、中央軍の予算は増大していた。いくら大陸最強の矛と盾を兼ねるとしても、大きくなりすぎると自重で潰れるとでも思ったんだろう」

「この事態を見越して準備していたのでは~?」

「ありえる話だ。そして周辺国からアレクサンドリアとの盟約に従って集まる増援がおおよそ15から20万。実質40万と5万の戦いになる」

「それは無謀ですね~」


 だがラインは首を横に振った。


「いや、そのくらいなら確実にディオーレ様が勝つ」

「本当に~? ちょっと信じられませんね~」

「だろう? だから問題なんだ。勝つには勝つ、ただし相手の全滅に近い形をもって。もしそれをやってしまったら、勝っても何も残らない。アレクサンドリアは国としての終わりを迎え、ディオーレ様は責任を取らされて処刑される。少なくとも、精霊騎士としての力を失う。そこまで相手のシナリオだとしたら、本番は次だ。だから俺たちのやることは一つ」


 ラインはとん、と指先をアレクサンドリア本城に置いた。


「俺たちでアレクサンドリアを落とす!」

「! これはまた~」


 コーウェンがふるふると震える。だがその震えが何であるか、ラインは知っている。


「武者震いか?」

「ええ、ええ~もちろんですとも~。策の練り甲斐があろうってなものです~。そうですか~、私の率いる軍が大陸最強の国を攻めるのですか~」

「策を練るのに何日必要だ?」


 ラインの言葉に、少しの間を置いて答えるコーウェン。


「策に3日~、下準備に28日欲しいです~」

「それでアレクサンドリアを崩壊させて、ディオーレ様の軍と合流するのに?」

「一月・・・いえ、半月でやりましょう~。始まったら最後~電光石火の作戦ですよ~」

「望むところだ。だから機動力と隠密性が高い部隊を連れてきているんだからな。負けられない一戦だ。どんな犠牲を払ってもやり遂げるぞ!?」

「無論ですとも~」


 コーウェンはいつになく真剣に、地図を睨めながら何かを考え始めた。夜更けになっても、彼らの天幕から明かりが落ちることはなく、ラインとコーウェンは大陸を動かしかねない作戦を練ろうとしていた。

 ただ一つ、彼らにも読めないものがあるとすれば。それは盤上に現れぬ連中のことだったろう。



続く

次回投稿は、1/5(水)24:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ