表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2285/2685

大戦の始まり、その28~東部戦線⑧~


***


「やっぱりそうだったか」

「エアリアルからの伝令ですか~?」


 東部部隊を率いるラインが呟き、軍師のコーウェンが反応した。ラインはセンサーからの暗号文を灯りの炎にくべると、長くため息を吐いた。


「サイレンスの人形が出たそうだ」

「副長はその存在を疑っていましたもんねぇ~」

「一度死んだと思わせて、奇襲する。戦争での常套手段だ。だいたい人形遣いがレイヤーの前に姿を現して、そして打ち取られるなんて間抜け過ぎらぁ」

「勘が当たりましたね~」

「ああ、嫌な方にな」


 続いてため息を吐くラインに、コーウェンが不思議そうに首を傾げた。


「勘が当たったのだから~、喜んだらいかがですかぁ~?」

「阿呆、これが喜べるかよ。祖国が下手したら何十年も前からいいようにされていたんだぞ? どうやって喜べってんだよ」

「カレスレアル伯爵家の一件も~、やっぱりサイレンスの仕業ってことですかねぇ~」

「テメェ・・・調べたのか!?」


 色めき立つラインに対して、コーウェンはむしろ冷めたような視線を向けた。


「リサさんも知っていますが~当時の事件は割と有名なことです~。私は仕事柄情報を大切にしますから~、もちろん知っていますよ~。私に限ったことじゃありません~。当時は市井の間でも有名でしたし~、どうして知られていないと思っていましたか~?」

「・・・そうかよ」

「市民生まれで成り上がりを果たした若き騎士と~、伯爵家令嬢でもあり将来有望な騎士とのロマンスは~、割と有名でした~。ですが事情はあくまで表面上のことだけ~、本当に何があったかは情報が錯綜していまして~。ぜひとも当事者から真実を窺いたいかと~」

「そういうところだ、お前が嫌われるのは」

「あは~自覚があります~」


 コーウェンが頭を自分でこつんと叩き、舌を出した。コーウェンとしてはお茶目に誤魔かしたつもりだったら、当然ラインはそんな気分にはならない。

 そして釘を刺すように、コーウェンを睨みつけて手短に告げた。


「若き騎士は夢と現実の希望がついていなかった。伯爵令嬢はその有望さに似合わない惨い死に方をした。誰も彼も、あんな死に方をしていい人間たちじゃなかった。それだけだ。彼らの死を詮索して穢すな」

「もちろんそのつもりはありませんが~、私としても一つ確認しておきたくて~」

「なんだ?」

「アルフィリース団長をその伯爵令嬢に重ねていませんよね~?」


 今度はコーウェンがラインを睨み据えた。コーウェンはアルフィリースに傾倒しているといってもいいくらい、忠誠心を抱いている。社会からも学問の都メイヤーからも、そして賢人会からも疎まれたコーウェン。生きる場所とその才能を活かすことなく腐りかけていたコーウェンが、唯一光を見出したのがアルフィリースである。

 アルフィリースは自分のことを危険視しながらも、その才能を認めて有効に使ってくれる。アルフィリースと策を練ったり、武器開発をしたりするのは、コーウェンにとっては至福の時間だった。

 先の火砲の実現だって、アルフィリースの発想と人材関係、それに資金力があって初めて実現できたことである。コーウェンは正直、試作品を作るだけで20年はかかると思っていた。

 対等に話し合える存在の、なんと貴重なことかとコーウェンは人生で初めて感じていた。それが友人とは少し違う形とはわかっていつつも、コーウェンは何としてもアルフィリースを守ると決めている。そのためなら、誰を犠牲にしようが、自分の命すら惜しまない決意を固めているのだ。

 それは、ラインが相手だとして、同様だった。


「アルフィリース団長は~、果たせなかったあなたの想いを実現するための存在ではありません~。彼女をネタにもう一度這い上がろうとしているのだったら~、私にも考えがありますよ~?」

「冗談はよせ。そんなタマか、あれが。それによ」


 ラインはコーウェンの脅しにも近い言葉を一蹴し、ふっと冷笑した。


しとやかさが全然ちがわぁ」

「たしかに~淑やかさはありませんね~。取り繕うことならできそうですが~」

「あれは根が村娘だ。貴族の娘みたいに余計なものに縛られてないんだよ。だからこそ、別の結末を期待している」

「どんな結末を~?」

「見たくねぇか? たかだか20歳そこそこの小娘に出し抜かれて、あんぐりする諸国の王や将軍、それに黒の魔術士の連中をよ」


 ラインがニヤリと笑うと、コーウェンは一つ間をおいてけらけらと笑いだした。それは確かに痛快な光景で、そして実現可能な光景だと思うのだ。


「あははは~! たしかに見たいですねぇ~!」

「そのための策を練る。アレクサンドリアでディオーレ様に付き従う家の連中は、だいたい頭に入っている。奴らを機能しなくするなら、人質をとるはずだと思っていたんだが――」

「今回の動きを見る限り~、皆殺しにしようとしていませんか~?」

「そうなんだよな。それじゃあ反乱軍はより一致団結するだけで、逆効果に・・・」


 ラインの言葉が途切れた時、コーウェンにしては珍しく躊躇いがちに提言した。



続く

正月3日はお休みをいただきます。次回投稿は1/3(月)24:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >コーウェンはアルフィリースに傾倒しているといってもいいくらい、忠誠心を抱いている。 アルフィは相変わらず女性にモテますねぇ …………ちっとも羨ましくないけど >「見たくねぇか? …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ