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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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大戦の始まり、その25~東部戦線⑤~

 気まずくなる暇もないまま、コーウェンがぱん、と手を叩いた。


「仮に、虚ろが沢山生命が死んだ場所や~、精霊のいなくなった土地に発生するとしましょう~。魔術で精霊を意図的に枯渇させることは可能ですか~?」

「可能だ。大規模な魔術や魔法の行使、それに大地を生き物の血や死で穢したりすることで・・・おい、まさか」

「それは悪霊が土地を汚染しても同じだな?」

「一時的かもしれないが、その可能性はあるな――そうか、そういうことだったか」


 テトラスティンがダン、とテーブルを叩いた。


「黒の魔術士に参加してまで知ろうとしたことが、ようやくわかった」

「あわよくば、黒の魔術士を内側から潰そうとしてか?」

「結果的にそうなればよいと思っていたが、一番は奴らの計画の全容を知ってそれを止める手立てがあるのなら、とは思っていた。だが私が入った時には既に計画のための行動が終了していた。奴らがいなくとも、あとは勝手に発動する。そういう段階だったのだ。だから、探ろうとしても無理だったし、無駄だった。ドゥームと組まされたのも、奴が囮そのものだったからだ。奴は計画の断片程度しか知らされていなかった。いや、きっと全員がそうなのだ。計画の断片しか知らされず、全てを組み合わせた計画はオーランゼブルの頭にだけしかなかった」


 テトラスティンが言い放った言葉に、ラインが眉を顰めた。


「囮?」

「奴が派手に動き回って、土地を汚染する。それをアルネリアが浄化して回る。その一連の流れ自体が囮で、本命の行動は秘密裏に、あるいは人間の戦を装ってそうとは思われないほど大々的に行われていた。たとえばこの点は戦場跡だが、大戦が起きたのは200年以上前のはずだ。そうだな?」


 テトラスティンが指した点をコーウェンが説明する。


「ええ~そうですね~。もっと古くには~、人間と魔物の戦も近くで起きていますね~」

「そうして一つ一つは関連のなさそうな事件を重ね、慎重に事を進めた。数百年がかりの計画だ。そうして地脈に沿って何かを作った」

「何かとは、なんだ?」

「魔法陣だろうな、おそらく。大陸全土に描く魔法陣だ。なんと巨大で壮大な計画か」


 土地に描かれた点を結びながら、テトラスティンが言い放った。地図の上には、いつの間にか魔法陣らしき紋様の一部が描かれていた。

 さしものコーウェンも眼鏡を外して天を仰いだ。ここまで壮大な計画を考え実行した者がいる。その事実にコーウェンは感嘆し、リシーもその執念深さに目を閉じて感じ入っていた。

 そしてラインだけが冷静に現実を見つめていた。


「何の儀式か、想定できるか?」

「わからん。だが生物を死滅させるような類のものではないだろう。そうしたいのなら、ブラディマリアやドラグレオ、カラミティを際限なく暴れさせた方が早いだろうしな」

「では聞き方を変えよう。邪魔はできるか?」

「やはり無理だろうな。これは確信に近い」


 テトラスティンは即答した。その答えをラインは予測していたように、さほど残念がりはしなかった。


「あんたの目から見ても、無理か」

「ハイエルフが人間に付け入る隙を与えるような間抜けだとは思えない。そして地脈に沿って作られた魔法陣なら、無理に破壊すれば地脈の流れごと阻害することになる。そうすれば天変地異級の災害が待ったなしだ」

「天変地異?」

「もう一つ大陸を増やしたいか? そのくらいの災害は起きてもおかしくないぞ」


 つまりは大地が割れるくらいの災害ということだ。テトラスティンが真剣な表情で質問したので、ラインは舌打ちした。


「つまり、計画の阻害は無理ってことだな」

「そうだ、だからオーランゼブルも余裕で構えていた。ウッコの復活がそれを邪魔する唯一の事態だったかもしれないが、それは大陸が破滅する程度の事態がなければ阻害できないということでもある。やれることがあるとしたら、せいぜい被害を少なくするように立ち回るくらいか」

「なるほどな、だからアルフィリースはローマンズランドに行ったのか。あいつ、オーランゼブルの計画の全貌に気付いてたのか」

「彼女は御子の素質を持っているからここまでの情報を知らずとも、感じることがあったかもしれない。それに、どのみちローマンズランドが今回の大戦の核となることは間違いあるまい。ひょっとすると、精霊との親和性が高ければ察している人材がいてもおかしくはないが。イェーガーの魔女見習いどもで何も感じていないとなれば、余程の素質がなければ無理だ」

「だから、魔女の団欒で魔女を間引いた?」

「導師はオーランゼブルの言いなり、または中立の可能性があるからな。ひょっとするとどちらに転ぶかわからない魔女は、邪魔だったのかもしれない。オーランゼブルに聞かなければ、わからないことだ」


 テトラスティンの言葉に、ラインとコーウェンが互いを見て頷き合った。


「だが、まだ人間は無力じゃないことを見せてやらないとな」

「そうですね~。人間を舐めっぱなしにはさせませんよ~」

「私も同意見だ。差し当たっては、ローマンズランドの横暴を止めることと、アレクサンドリアでの不穏な内乱を止めることか。魔術協会としては直接的な介入はできないが、お前たちに策はあるのか?」

「ある。どれほど効果があるかはわからないが、やるだけのことはやってみるさ」


 そうしてラインとコーウェン、テトラスティンは何事かを一刻程相談すると、それぞれ分かれて別の行動を起こした。

 ラインはエアリアルを呼び出すと、彼女に別の命令を与えた。そうしてエアリアルは今に至る。



続く

次回投稿は、12/26(日)24:00とします。夜の時間に戻します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] テトラスティン! ドゥームがどんどん真実に近づいてますね スタートは同じくらいだったのにもうびっくりするほど先にいかれてますね、、これはアルフィリース頑張らないと!! そして、登場するた…
[一言] クリスマス更新 ありがとうございます
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