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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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百万の魔物掃討戦、その31~追撃戦①~

「上手くいったわ、あなたのおかげでね」

「そうだろう? 私の経験と知識がなければここまで上手く戦うことはできなかったはずだ。感謝するがよいさ」

「そっかぁ。でもまさか、オークの異常進化の群れが過去にもいたなんてね」


 アルフィリースが安堵したようにはにかんだので、影もふっと笑ったようだ。


「雌のオークというものは、実は一定の割合で発生している。だがオークの群れに突発的に現れる雌だ。発生したばかりの何の力もない雌が、飢えたオーク共の中に放り込まれる。どうなるかわかるだろう?」

「う・・・あまり想像したくはないわね」

「まぁ想像どおりのことが起こるわけだ。そして貴重な雌は使い潰されることになるが、何らかの要因で生き残った場合、とんでもない脅威となる。食べた個体の特徴を取り込みながら強力な亜種を産みまくるという、とんでもない雌が発生するのさ」


 ラインの報告にあった巨大なオークとも竜ともつかない亜種たち。種族の垣根を超えたようなオークが次々生まれるというのであれば、それはそのまま魔王の群れに等しくなる。


「何度、オークの雌が生き延びた群れを経験したの?」

「都合、2度だな。一度はアルネリアが討伐しただろうが、もう一度は他の魔王が連合で潰している。史実には残っていないだろうが、確実に大魔王級だった。そしてその群れの中に――」

「今回のような隠密種と、頭脳が異常に発達した奴がいたわけね」

「そうだ。正確にはそいつが先に発生し、雌のオークを育て上げたわけだ」

「リサがいなければ、どうなったことか」

「うまうまと逃げ延びていただろうな」


 影の話すことに、アルフィリースは唸った。指向進化。生物にはその環境に適応したように変化するという学説があるそうだが、最初から群れの育成方向を操作できれば、確かに強力な群れが短期間で成長する可能性がある。そもそも、死んではしまったがアノーマリーも魔王を発生させる時に同じようなことを取り組んでいたのではなかったか。

 肉体の能力として人間よりも遥かに強力で、成長も早い魔物をそのように育成すれば――


「あとひと月放置したら、どうなっていたかしらね?」

「さてな。負けることはなかったかもしれないが、もっと苦戦した可能性はある。死者は今回の比ではあるまい」

「そう考えるとぞっとしないわ」

「だが倒した。それが全てだ」


 影は言い切ったが、その胸中にある不安をアルフィリースは感じることができる。影はかつて「教官」と呼ばれ数多の魔王を指導しただけあり、最悪の想定に関しては見習うことが多いとアルフィリースも考えている。今回の戦略自体も似たようなことを考えてはいたが、アルフィリース一人でそこまで発想できたかというと、それは甚だ疑問だった。

 

「何が不安なの?」

「うん? ・・・まぁわかってしまうから、隠しても無駄か。もしこれがもっと強力な魔物だと、どうなったかと考えたのさ」

「でも増殖能力でゴブリンやオークを上回る魔物なんて、いる? 虫みたいな連中でも強力になるほどに餌も場所も必要となるから、限界が来るのがオークよりも早いって言ってなかったっけ?」

「飽和の上限は確かにそうだ。だからこそ、カラミティが率いた群れにも限界があった。だがこういった物事には、何か抜け道があるものだ。いつも最悪を想定しておくものさ。特に、お前には仲間が多いだろう?」

「そうね。たしかにそうだけど」


 最悪の発想ならいくらでも思いつく。味方の裏切り、物資の突然の停止、害獣の大量発生や疫病の流行、黒の魔術士の乱入、想定もできない敵の出現などなど。その中からたしかな道を選ぶとは、どのような現実を指すのだろうか。


「とりあえずは、敗北した時の保険はきかせているつもりだけど」

「そうだな。現状で今以上のことができるとは思えない。ここまでは我々で考えた中では上から二番目くらいの出来だな。問題は、次からだが――」

「それなんだけど・・・私の予想を言ってもいい?」

「なんだ、あまり良くなさそうな言動だな。だが予想ではなく、予感があるのだろう?」

「ええ、そうよ。おそらく他の戦線は――」


 傍目には、アルフィリースが一人で考え込んでいるようにしか見えなかっただろう。だがアルフィリースは確かな経験豊富なもう一人の軍師とでも呼ぶべき存在と共に、戦勝の喜びに浸ることなく、次の戦略と戦術について油断なく考え抜いていた。


***


「アルフィ、報告が上がってきました」


 翌日、ラインとコーウェンと共に負傷者と物資の確認をしていたアルフィリースの元に、リサが他の戦線について報告に来た。不可解そうなリサの表情を見て、何が起きていたかアルフィリースには想像がついた。


「私の予感が当たったかもしれないわね」

「どういうことだ?」

「では答え合わせをしましょう。どうぞ予想を言ってください」


 不思議そうにするラインを傍に、リサが意外そうに、そして少々挑戦的に返答した。だがアルフィリースにしてみれば、予想の範囲は超えていないのだ。



続く

次回投稿は、10/25(月)10:00です。

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