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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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百万の魔物掃討戦、その23~前哨戦㉓~

「残念ながら、貴様の相手は我々ではない。やれ、勇者ゲルナデスよ!」


 はっとしたドライアンの側面から、突然疾風のように飛び出してきた黒い塊が大剣を振るう。ドライアンは大剣を受け止めるのは無理だと判断し、爪の一撃で弾き飛ばしに行った。結果、衝撃を受けきれずに互いに弾き飛ばされる格好となり、爪の一部に亀裂。そして腕には切り傷が残された。

 その鋭さにドライアンも驚いたが、兵士たちには動揺が走った。


「王が乱戦以外で手傷を!?」

「・・・勇者を名乗る割には姑息な不意打ちを使うのだな」

「主の命なれば、それも致し方なかろう」


 黒い塊が直垂ひたたれを脱ぎ捨てた。赤い目が爛々と光る、漆黒のオークが大剣を構えていた。見たことがない亜種というだけでなく、発される威圧感からも、只者ではない。不意打ちなどせずとも十分に自分と互角に戦いうる相手だということは、ドライアンもわかっていた。


「(あの直垂が気配を消す何らかの効果があったのか。近寄られるまでわからなかった――いや、むしろあのオークが殺気を発さなければ、もっと深手だったに違いない。襲い掛かる瞬間に殺気を発したのは奴が未熟だからではなく、主の命令と戦士としての気概の狭間でとったぎりぎりの行動、というところか)」

「ゲルナデスのやつ、わざ殺気を放ったな? それさえなければもう少し深手を負わせただろうに」

「あの気性だからこそ進化したとはいえ、もう少し小狡くなってほしかったものだわ。とはいえ、時間くらいは稼いでくれるでしょう。王よ、今のうちに」

「そうだな」


 マクミランとメルセデスが舌打ちをしながら、撤退すべく玉座を立ったその足元に影が差した。その影が飛竜だと気付くと同時に、空から飛来した何かが騎乗していた大亀の魔獣の首を一刀の元に落とした。


「何だと!?」

「この魔獣の首を一撃ですって?」


 魔獣がぐらりと揺れるが、マクミランとメルセデスは玉座に手をつき、かろうじて倒れずに済んだ。だがその直上に、今度は確かな殺気を感じた2人。

 素早く身をかわして飛び降りた直後、玉座が雷撃で吹き飛んだ。雷撃の余波は地面をつたい周囲のオークたちを巻き込んで感電死させると、崩れ落ちた魔獣の上に一つの影が降り立った。


「さすがに雷塊砲トールキャノンでも、一撃で倒すってのは虫が良すぎたかぁ」

「俺まで巻き添えにするつもりか?」


 不満を漏らしたのは、大亀の頭を落としたヴァルサス。地面に着地した瞬間、アルフィリースの魔術の気配を感じて飛び退けて事なきを得ていたが、着地したその場所では雷撃の巻き添えを食らうところだった。

 アルフィリースが手をあげて謝罪する。


「いや、ごめんなさい。思ったよりも魔力の『乗り』がよくて。多分インパルスのせいだと思うんだけど」

「――ああ、なるほど。俺たちはここで戦っていても大丈夫なんだろうな?」

「うーん、多分?」

「おい」


 さすがに不安そうになるヴァルサスだったが、アルフィリースは手を上げてそれを制した。


「ターシャを伝令に寄越したから、間違いはないはずよ。賭け事以外では失敗しない子だから。それよりこっちが大変そうね」

「上位種と、それの亜種まみれだ。特にあの3体は――なんだ? 『ロード』よりも強そうに見えるが」

大王グレートロード女王クイーン勇者ブレイブってところかしら? 3体で済んでよかったってところかな。幸い、どうにかならない相手じゃなさそうね」


 アルフィリースの言葉から、そしてその前に伝えられていたことからアルフィリースの策の全貌をおおよそ察していたヴァルサス。最初から本陣にいるであろう未知の上位種や亜種、あるいは王種の相手をさせるつもりだったのだ。もしいれば、大魔王級の相手も。

 信頼されたものだと感じると同時に、なんと無茶に巻き込む女だとも思う。


「なるほど。お前が自ら来たことで、貸しは無しにしてやろう」

「そりゃどうも」

「俺はあの黒い勇者を引き受ける。それでいいな?」

「んじゃ私はあの女王を。ドライアン王ー、一番生意気そうな大王オークを任せていーい?」


 アルフィリースが大声で暢気に叫んだので、目を丸くしながらもふっと笑うとドライアンはマクミランの方に向かうこととした。その途中で、ゲルナデスに話しかけた。


「使える主を間違えたのではないか?」

「・・・それはまだわからん。少なくとも、選べる立場にはいない」

「堅苦しい考えはよしたらどうだ。あの女はなんでもありだぞ? 降伏すれば、お主ですら受け入れてくれるやも知れぬ」

「かもしれぬ。だが、少々人間を殺し過ぎた。今更、どの面下げて共に戦えというのか。それに、あの人間の剣士やそなたと戦ってみたいという本能は止めれんよ」

「そうか。では生きていたら次を考えるとしようか」

「いつもそのつもりだ」


 それ以上は何も言わず、互いが互いの相手を認識し、周囲の兵士たちも互いを認識すると臨戦態勢に入っていた。そしてヴァルサスの咆哮を皮切りに、最終局面が始まった。



続く

次回投稿は、10/9(土)11:00です。

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