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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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百万の魔物掃討戦、その20~前哨戦⑳~

***


「次はこのセイカンスがお相手つかまるぅううう!」

「受けてたつべ!」


 シャルロッテの親衛隊と、ダンダが一騎打ちで次々と戦っていた。彼らに得物はなく、上半身は裸で、一定の円から出るか背中に地面がついたら負けという方式で戦っていた。

 これはダンダが提案した戦い方で、全員で少数をなぶり殺しにするよりは、まずは一対一で自分が請け負うという方針だった。既にシャルロッテは多数を相手に後方で戦いを始めており、全員で戦われるよりはと、親衛隊もダンダの提案を受け入れていた。

 だがその本音は、ダンダの挑発が気に入ったのだ。


「それほどの肉を持つのなら、武器なんか捨てて素手でかかってくるべ!」


 この挑発は大いに効果があった。親衛隊は我先にと鎧を脱ぎ捨て、ダンダに飛びかかっていったのだ。ダンダの後ろに転がっているのは死屍累々――ではなく、戦いに敗れて死体のふりをするオークたちだった。真っ向勝負で敗れたからには、処遇は相手に委ねる。彼らはオークというより、武人のような潔さを持ち合わせていた。

 円の中心で腕を組み合い、凄まじい押し合いをするダンダとセイカンス。腕の血管が千切れそうなほど浮き上がり、そしてセイカンスの巨体が腕を組んだままの状態で宙にふわりと浮いた。


「なんとぉー!?」

「ふぬらぁ!」


 セイカンスの体を円の外に叩きつけるダンダ。セイカンスは派手に敗北宣言をし、うつぶせに倒れた。


「やられたぁー!」


 これで親衛隊の半数が脱落となる。ダンダはふぅーと深呼吸すると、次の相手を手招きで挑発する。


「次だべ!」

「おう! さても勇猛なるオークと戦えるとは光栄の極み。このブハンネルが――」


 ダンダは親衛隊の前口上を聞きながら、ちらりとシャルロッテの戦いを見ていた。あのオークの奇天烈な恰好や物言いはともかく、実力だけは今まで見たどんな強敵よりも上だった。

 あれだけの面子を相手にして、なおも互角以上。ヴァルサスやベッツがいてもどうなろうかという強敵。せめてこの親衛隊だけは自分が食い止めようと、ダンダは決死の覚悟で臨んでいた。


「行くぞぉ!」

「こぉい!」


 ダンダと次の親衛隊がぶつかり、汗が飛び散った。

 一方、その成り行きを冷静に見守っていたのは5番隊隊長のゲルゲダ。その隣には、今は恋人となった6番隊隊長のファンデーヌがいる。彼らは自分たちの関係を団内に公言することはなかったが、誰が見ても対応が変わったファンデーヌを見れば何が起きたかは明らかだった。ただ、「本当のところで」何が起きたかは、誰も知らなかったかもしれない。

 ゲルゲダ率いる5番隊はシャルロッテにつっかけていた。5番隊の得意戦術は、夜襲、不意打ち、罠作成などの、いわゆる「卑怯」を代名詞とする戦い方。孤立したへんてこなオークを嬲り殺すのは朝飯前だと思っていた。思っていたのだ。


「・・・ありゃあ無理だな」

「あら、降りるの?」


 ファンデーヌの妖艶な笑みと、咲き誇る妖しげな花のような香りが鼻をくすぐる。それが毒だと知っていながら、ゲルゲダはファンデーヌを押しのけはしない。むしろ大輪の花であれば、腹が立ってへし折りたくなるだろう。

 ゲルゲダはちりちりした赤髪をいじりながら不満げに、そして油断なくシャルロッテの戦いを見守っていた。その所作が一番真剣に悩んでいる時のゲルゲダの仕草だと言うことを、ファンデーヌは知っていた。


「あのオークは滅多に見ねぇ大物だ。大抵の魔王なら、数で囲めばなんとかなる。だがあれば駄目だ、犠牲者が増えるだけだぜ。少数精鋭で当たるべきだった。それもとびきりの精鋭だ」

「だから5番隊をさっさと下げたのね。ルイとかレクサスが必要?」

「それでもぎりぎりだな。ベッツとヴァルサス。それにゼルドスとミレイユと変態神父もつけておきてぇ」

「やだ。黒い鷹の最高戦力じゃない」


 ファンデーヌが楽しそうに笑った。ゲルゲダが本気だということはわかっているだろうが、何を考えているかはゲルゲダをもってしてもまったく読み取れなかった。


「見ろ。ゼルヴァーとドロシー、それにイェーガーの腕利きの連中5人がかりでもあの様だ。まっとうにやって勝てると思うか?」

「でも、まっとうじゃないあなたでも無理なのよね?」

「だから、よりまっとうな奴をぶつけるべきなんだよ」


 ゲルゲダの見つめる先には、大剣を地面に刺して息を切らすゼルヴァーと、今しがた吹き飛ばされたドロシー。そしてシャルロッテに同時に食い下がるリリアム、エメラルド、エルシアだった。他の団員は近寄ることすらもできていない。

 恐ろしいことに、シャルロッテのこの3人の斬撃を全て剣と小手で捌いているのだ。シャルロッテの鋼のような肉体なら、少々の斬撃をものともしないのは事実としてわかっていた。強引に前にでれば、一気に優勢になるだろう。だがその上で、シャルロッテはあえて全て剣と小手で捌いて3人の剣術と真っ向から戦っていた。

 そうさせるのは、清々しいまでのシャルロッテの気質だった。



続く

次回投稿は、10/3(日)11:00です。

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