表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2238/2685

百万の魔物掃討戦、その18~前哨戦⑱~

***


「よし、ケリはついたか?」

「はっ! 現在重傷者を後方に下げつつ、敗走するオークの追撃に移っています!」

「負傷者には悪いが、オークの掃討を優先させる。元気な者を20名から30名で一つの隊として、追撃させろ。前方は変わらずグルーザルドに任せて、イェーガーは残敵掃討に移る!」

「はいっ!」


 伝令の兵士が駆けていくのをラインは見送ると、周囲のセンサーを使いつつ戦況を把握しながら、矢継ぎ早に指示を飛ばしていた。

 ラインの真に優れたる能力は、全体指揮能力の高さである。そしてその能力は、本人が大きな軍勢を指示する時ほど発揮された。千人長まではアレクサンドリアで経験があるわけだが、それ以上の人数となると、ラインも全てが未経験だった。

 イェーガーを組織だった軍隊として動けるように訓練したのはアルフィリースで、その手腕の見事さには感心することしきりだが、それにしても大軍を率いることが「性に合っている」と自分でも驚くラインだった。


「(昔ディオーレ様に言われたよな。本当の軍才は大軍を指揮した時にこそわかるものだと。お前には軍才があると言われたが、そういうことかよ)」


 ラインは自分でも驚いていることを表に出さないようにするのに必死で、周囲が自分をどう見ているかなどは二の次である。

 周囲の兵士たちも次々に飛ばされる指令を受けながら、口々にラインのことを噂した。


「なぁ、さっきの副長見たか?」

「あぁ、見た。あの巨人みたいなオークの足首を切ったところまでは見えたんだがな」

「ダロンとアマリナだったか? が正面から戦っていたとはいえ、あんな竜巻みたいな暴れ方をする相手の懐に潜り込んで首を落としたんだぜ? 俺、見えなかったよ」

「心配するな、俺もだ」

「でもさ、その次のあの竜か蛇みたいなオークはどうやって倒したの? それこそ見えなかったけど」


 イェーガーに比較的最近入ってきた女傭兵が自信なさそうに呟いた言葉に、先輩たちも首を振った。


「あれな・・・魔女たちが食い止めていたのは見えたんだけど」

「遠巻きにグルーザルドの軍隊が戦っていたのは確認したが、あれも副長が首を落としたんだろ?」

「敵の大将格3体を撫で切りかよ。俺、マジでイェーガーに入団してよかったわ」

「私は逆に自信がなくなったよぅ・・・こんな強い人がいる傭兵団でやっていけるのかなぁ」


 女傭兵がしゅんとするのを見て、先輩たちが肩を叩いた。


「大丈夫だって。俺だって傭兵になりたての頃に所属して、半年でD級上位だぜ? この戦いの功績次第じゃ小隊以上を任されるかもしれねぇ。ここにいりゃあ意地でも強くなるさ」

「それに、読み書きや簡単な算術、体術、サバイバル術も教えてもらえるしな。少し金を出せば薬草学とか、建築とか、経営学なんてのもあったか?」

「基本的なことばっかだけどな。負傷した時の補償も手厚いし、戦えないほどの負傷を負っても就職先を斡旋してくれるだろ? この前、それで小売店を構えた奴がいたぜ?」

「知ってる。食堂で働いている奴もいるよな。それがあるだけでも安心して戦えるし、一時所属するだけでも確実に学ぶことがある。ここの居心地の良さを知ったら、他所にはもう行けねぇ」

「ちがいねぇ」

「そうなんだぁ」


 新人の女傭兵は、先輩たちがしきりと褒める内容に聞き入っていた。たしかに貧乏商家が経営に失敗した時に貴族の家に下働きに出されたが暇を出され、行くあてもない時に応募したわけだから何でもする覚悟はあった。だが女傭兵としておよそ話に聞くような差別的な待遇を受けることもなく、他の女子たちも笑顔で過ごしているのだから、びっくりしたのが第一印象。

 女傭兵といえば戦場では娼婦と変わらない――そう考えていたのだが、子どもまでも受け入れて教育まで施されている。商業の授業も少し聞きかじったが、それなりに成功した商人を呼んで授業をしていた。これでは高等な教育機関ではないか。この知識があれば自分の実家も潰れずに済んだのではないか。

 そんなことを考え、戦場でもここまで大量の死傷者を出すことなく、多勢に無勢のオークたちを圧倒している。まだ噂の女団長は遠目にしか見たことがないが、どれほどの女傑が率いているのだろう。自分とそれほど年も変わらないはずなのに、一度ゆっくり話してみたいと、そして傭兵としていけるところまで行ってみたいとこの女傭兵は考えるようになっていた。

 その先にどんな未来があるのか。きっと自分が考え事もないような、歴史や運命が変わるような気がしたのだ。

 そして驚いているのは新人だけでなく、古参の兵士もその通り。なかでもダンススレイブが一番驚いていたかもしれない。ダンススレイブはラインの腰に収まりながら、忙しそうなラインの邪魔をしないように思索に耽っていた。


「(主よ・・・確かに我を使うに当たって打ち合わせと特訓は繰り返したがな。ここまで我を上手く使いこなした主は今まで一人もおらなんだよ。使いどころを見極め、我の能力を解放した状態で動かず、暖機運転をしておきながら必要な時だけ動いて10数える以内に決着をつけるだと? それを数度繰り返しただけで、魔王以上の強敵3体をあっという間に仕留めよった。あのサルガムとかいう魔術士は、イェーガーの魔女三人と渡り合うほどの魔術の力量がありながら、斬られたことすらわからず死んだだろう。

 まだ主には余裕があるこれなら明日また強敵に出会っても、反動はほぼなく力を振るうことができる。なんという使い方をするのだ。いや、これも戦いの流れを見極める眼力あってのことか。主のような者が今まで使い手であれば、魔剣などとは呼ばれなんだろうにな・・・全く、本気で惚れてしまいそうだよ)」


 ダンススレイブはラインの腰に収まりながら、戦場でほほえましい気分になったのはいつ以来だろうかと、久しぶりに昔のことを思い出していた。

 そしてエアリアルは――まだガンドルフと激戦を繰り広げていた。



続く

次回投稿は、9/29(水)12:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ