表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2222/2685

百万の魔物掃討戦、その2~前哨戦②~

「お待たせしました。イェーガーのアルフィリース、参上いたしました」

「おう、来たか」


 ドライアンが腕組みをして待ち受けていた。隣にいるオーダインとは談笑していたのか、オーダインは微笑みをたたえてアルフィリースを待っていた。対照的に、ヴァルサスは戦場であるせいか、それともかつて戦ったドライアンとは話しがたいのか、口を真一文字に結んで、真剣な表情で眼下の光景を睨み据えていた。

 アルフィリースが口を開く前に、オーダインがすっと自然に手を伸ばし、握手を求めた。


「我々の傭兵団とは何度か邂逅していると聞いていますが、こうしてお会いするのは初めてですね。カラツェル騎兵隊団長、オーダイン=ハルヴィンです。以後お見知りおきを」

「こちらこそ。セレスティアル・イェーガー団長アルフィリースです。姓は捨てておりますが、ご容赦を。高名な傭兵団とくつわを並べて戦うこと、光栄です」


 アルフィリースも笑顔で握り返したが、余計な雑談はなしにすぐに戦場の確認に入った。


「ヴァルサス殿、会話は初めてですね、よろしくお願いいたします。早速、戦場の見立てはいかがですか?」

「・・・それぞれの意見が俺も聞きたいと思っていた。まずは見てくれ」


 アルフィリースは眼下の敵の布陣を見た。もちろん見る前にリサの組織したセンサー部隊から報告があり、どのような布陣かは知っている。

 オークの群れはわかっているだけで最大3つの勢力に別れ、森に布陣した7万の軍団、平野に布陣した10万の軍団、ローマンズランド属国だったサブリナ王国の首都ザカを占拠した5万。森に布陣した軍団にはシェーンセレノの一団11万を当て、ザカを占拠した軍団にはローマンズランドとミュラーの鉄鋼兵やフリーデリンデを主に当てている。そしてグルーザルドとイェーガーを中心とした5万の軍勢の受け持ちはここ、平野部の10万の軍団である。

 正面に陣取るオークを中心とした群れ10万は、周辺から多数の魔物を取り込み、まさに魔王の軍勢としての様相を呈していた。アルフィリースは率直な感想を述べる。


「軍勢は多様で上位種もちらほら。それだけで統率する個体の強さがわかるわ。普通の魔王など比較にならないほど強い個体がいるはず」

「同意見だ。そして、奴らは武装している」

「オークはそもそも人間のように武器を使う習慣があるけど、初期個体は木の枝程度。知恵がつくと木を削ったりして殺傷力を上げたり、人間が使う武器防具を分捕ったりする。彼らは兵士ソルジャー級と呼ばれ、傭兵ギルドではD級からC級の依頼となるわ。そして他の魔獣を調教テイムして扱うのは隊長キャプテン級。それらが徒党を組むとなると、確実に僧侶クレリック魔術士メイジなどの上級個体が混じる軍団となる。数から想定される上級個体はおよそ2000。そのうち魔術を使う個体がやや少ないとして、僧侶や魔術士などの個体が500から800と推定」

「つまり」

「人間の軍隊の5個師団以上に相当する魔術士を抱えている。この戦力で打ち破るのは、普通なら無理」


 アルフィリースがあっさり言い放ったが、それに怯える戦士はこの場に一人もいない。いかにして敵を打ち破るか。ただそれのみを考えることができる豪傑しかいないのだ。

 オーダインが静かに告げる。


「だが、一番槍はイェーガーが引き受けると聞いた。何か策があるのだろう?」

「もちろん。魔術戦ならこちらに分がありますから」


 アルフィリースがあっさりと言った言葉に、ドライアンが口笛を吹く。


「大きく出たな」

「事実なので。一つ懸念事項があるとしたら、魔術士級以上の上位個体がいることを想定しているのだけど、それが何体いるか。こればかりはセンサーではわからない」

「では他にわかっていることは?」

「二回り以上大きなオークが、30体以上いることがわかっているわ。彼らは普通の隊長ではなく、将軍ジェネラル級でしょう。普通なら将軍級はB級からA級の依頼。討伐依頼としても滅多に出ないレベルの依頼だわ。それらが指揮をしながら軍で当たってくると、どのくらいの破壊力があるのかは未知数。そして当然ながら、その中にさらに優れた個体がいることも想定しているし、個性も違うでしょう。最適な戦力を当てることができるかどうかが問題ね」


 アルフィリースが説明していると、リサから鏡の反射を利用して合図が来た。事前に確認した時と相手は同じ布陣のようだ。アルフィリースはもう一度図面を広げる。


「相手の布陣に変わりはないようです。まずは相手に突撃させ、イェーガーが正面から受けます。相手の一陣が崩れたところで、左からブラックホーク、右からカラツェル騎兵隊。正面からグルーザルドが押してください」

「そんなに単純でいいのか?」


 ドライアンが意外そうな顔をする。


「単純な方がいいでしょう。この戦いでは相手を逃がしてはいけません。平野での殲滅戦ならば、力押しで相手に敗北を味わわせるのがいい。戦いが始まった後の指揮は、私が取ります。確実に相手を殲滅させます。諸将は準備を初めてください」

「アルネリアと、飛竜の部隊はどうする?」


 ヴァルサスが空を見上げる。イェーガーの天馬騎士だけでなく、アンネクローゼ率いる竜騎士200がどこかに布陣しているはずだ。彼らの出所は、勝敗を決する可能性がある。

 それにアルネリアの神殿騎士団や周辺騎士団は、今回の合従軍16万とは別に布陣しているはずなのだ。魔物相手となれば後方支援の部隊だけが派遣されたわけでないことは、誰でも知っている。

 アルフィリースはふっと笑って答えた。


「飛竜の部隊は途中で見せ場があります、面白い運用をするのでご注目あれ。アルネリアの部隊は後方支援以外、いません」

「・・・は? 聞き間違いか、いないだと?」

「いいえ、聞き間違いではありません、ドライアン王。アルネリアの主功部隊はここにはいません」


 ドライアンが呆気にとられるうちにも、アルフィリースはつらつらと話す。


「シェーンセレノ殿の部隊が攻撃力に欠けるので、そちらに回ってもらいました。これはアルネリアとも協議済みです」

「・・・俺は何も聞いていないぞ」


 むすっとしたドライアンに対し、あやすようにアルフィリースが説明する。


「報告するほどのこともございませんでしたので。そもそもここは、『我々だけで』十分勝てると踏んでいますので。それとも王は自信がおありにならない?」

「・・・ハッハッハ!」


 アルフィリースとドライアンのやり取りを聞いていたヴァルサスが、大声で笑った。オーダインも笑いを堪えていたが、ついに我慢できずに笑い始めたのだ。

 ぎょっとしたのは、後方に控えていたブラックホークの面々。ヴァルサスが大笑いするのを見るのは、数年に一回あるかどうか。笑うことすら珍しいヴァルサスの大笑いを、初めて聞いた団員も多かった。

 ヴァルサスは直垂を翻しながら、ブラックホークの仲間の元に戻る。


「気に入った、ドライアンを舌先だけでやり込めるとは。俺の力が必要になったら合図をしろ。敵陣のど真ん中だろうと、突撃してやる」

「ええ、もとよりそのつもりです。というか、ブラックホーク以外に誰が敵陣のど真ん中にいくと?」


 アルフィリースはヴァルサスの後ろから肩を掴むと、その耳にそっと策を囁いた。その言葉にヴァルサスが驚いたような顔となり、センサーでもあるカナートもその策を聞いてあんぐりと口を開けた。



続く

次回投稿は、8/28(土)14:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ