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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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大戦前夜、その24~ターラムへの集結④~

「それは!」

「――ああ、やっぱりそうなんだ」


 アルフィリースの口調は少しだけ残念そうに。そしておおよそ意図通りといったふうに聞こえた。

 フォスティナががばりと起き上がってレイヤーが描いた似姿を手に取ると、アルフィリースは平静に語り掛けた。それがアルフィリースの努力で平静に見えることに、ラーナは気付いていた。


「よく描けているでしょ。それがリディルなのね?」

「・・・ああ、そうだ。彼は今どこに?」

「教えない。暴走してほしくないから」

「暴走はしない。それほど愚かではないつもりだ」

「それでも教えない。人間の感情が自分では制御できないこともあることを、私は知っている」


 アルフィリースの突き放すような言い方にも、フォスティナは冷静だった。


「私はリディルに特別な感情など抱いていない。勇者として後輩だった程度で、特別仕事を共にしたこともなければ、指導したこともない。だから――」

「ならばなおさら居所を告げる理由がない」

「リディルをどうする?」

「それすらも知る必要がないわ」

「殺すのか?」


 フォスティナの包み隠さぬ問いかけに、アルフィリースは少しだけ躊躇ってから答えた。


「ええ、おそらくはね」

「なら結果だけでいい。彼が死んだら教えてくれ」

「何のために?」

「私の心の平穏のために。そしていずれこの子に教えるために」


 腹に手を当ててまっすぐに見据えるフォスティナを前に、アルフィリースは小さく頷いた。


「――いいわ。その時がくれば教える」

「他の解決方法には期待していない・・・が、辛くはないのか?」

「どうして?」

「背負い過ぎだと言っている。傭兵が背負うものではあるまい」


 それは何のことを言っているのかとラーナは聞こうとして、口をつぐんだ。傭兵としてもっとも期待されるのは勇者だ。彼らは国家間の戦争や国難の解決、魔王討伐を生業とすることを受け入れた傭兵だ。傭兵としての責任はもっとも重い。

 だがアルフィリースほど大規模な傭兵団を率いた傭兵はかつて例がなく、そして魔王と化した元勇者を誰に誰に頼まれるわけでもなく相手どろうとし、そしてローマンズランドと契約してここ数十年では最大の戦の先頭に立って戦おうとしている。その背後には、黒の魔術士の陰謀があることも想定している。

 その重責をフォスティナは心配したのだ。だがアルフィリースの返事は素っ気ないものだった。


「覚悟は決まっているわ、とっくにね」

「いつから?」

「イェーガーを作った時から。こうなることは、どこかで予想していたから。それが思ったより早くて、自分では制御できていない部分もあるってだけ」

「そう・・・辛くなったら相談に乗るわ。昔からの馴染みだから言えないこともあるだろうから」


 いつも柔らかい口調のフォスティナの気遣いに、アルフィリースの顔もほころんだ。


「ええ、お願いするわ。ときに一つ聞きたいんだけど、もう一人の勇者アーシュハントラがどこに行ったか知らない?」

「いや。彼は私以上に気まぐれだから」

「ギルドにも行方を追ってもらっているのだけど、まだ何の情報もないのよね・・・アルネリアでも掴んでいないらしいし。いくら辺境を主戦場にしていると言っても、そんなことがあるかしら?」

「迷宮や遺跡も主戦場だ。ウッコが目覚めた遺跡にでも潜っているのではないのか?」


 フォスティナの言葉に、アルフィリースは首を横に振った。


「それはないわ。あの遺跡はアルネリアが厳重に封をしている。それに――」

「それに?」

「そもそも一定より下にもう入れないらしいわ。物理的にも魔術的にも、封印されているのですって。どんな魔術を使ってもびくともしなくなったってミランダが言っていたわ。あれだけの遺跡だもの、アルネリアが調査しないわけはないのだけど。遺跡の中に作っておいた転移用の起点すら作動しないって言っていたわ」

「そうなのか・・・では何の手掛りもないな。何か彼に頼みたいことでもあったのか?」

「ええ。迷宮や遺跡の探索が得意と言うなら、一つお願いしたいことがあったのだけど」

「具体的には何を?」

「ローマンズランド王族の脱出経路を、調べておいてほしかったのよ」


 アルフィリースが告げた言葉に、ラーナとフォスティナは目を丸くして顔を見合わせていた。



続く

次回投稿は、8/10(火)15:00です。

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