表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2210/2685

大戦前夜、その21~行進①~

「少し方向がずれている気がするけど、ローマンズランドの領内にかなり深く入っているようだね」

「予定通り。だけど、逆にローマンズランドの軍の動きがなさすぎる。もう少し自分たちで始末をつけてもよさそうなもの」

「ここまでにオークの群れに襲撃されたとおぼしき村や街が数個。既に時間がかなり経っているものもあった。なのに軍が出動した様子もなく、死体は野ざらしのままだ。領民たちのことを、ローマンズランドはどう思っているのだろう」


 レイヤーには人が死んだ時の感傷など存在しない。だがそのレイヤーですらやや声の調子が落ちるほどの惨状だった。人間は残骸と化しており、弄ばれながら殺されたことがよくわかる。天に救いを求めるようにして手を突き出し絶命している死骸を、何体見たことか。

 ルナティカは抑揚を欠いた声で返事した。


「おおよそアルフィリースの想像通り。ローマンズランドには余裕がない」

「大陸最大の軍隊を抱えているのに?」

「ここにはいないとアルフィリースは想定していた。それに、軍が大きくても兵站が確保できているわけではない。それよりも、次。まだ夜も半ばまで来ていない。もう少し進む」

「夜通しでもいいけど、判断力は低下するものね。次はあの山の中腹と、ここからさらに先の森の深くかな。谷合にもいそうだけど、いずれもここよりは大きな群れがいそうだ」


 レイヤーが指さした先には、岩山が見えていた。どうやらオーク共は個体を減らしながら上位種へと進化し、次第に拠点を築き始めているようだった。

 ローマンズランドの主要都市は強固な市壁を持つ一方で、それ以外の町や村となると、途端に寒村が増える。大陸中央部にあるような商業で発展している町が極端に少なく、中間規模の人口密集体が存在しないのだ。

 アルフィリースやアルネリアは、オークの群れの動きを情報で知りながら想像した。統率が徐々に取れなくなったオークたちが分散するようになると、まずは小さな村々を襲う。次は群どうしで潰し合ったりしながら、それでも生き残った勢力が今度は拠点を築くだろうと。

 通常拠点として狙われるのは人間の村や町だが、ある程度群れが大きくなると、今度は森や山に拠点を移す。そこで軍団を形成し、やがて大きな都市を襲うようになるのが、魔王としての一般的な活動だと大戦期の記録にあるそうだ。

 レイヤーが指さしたのは山には、既にその規模に到達しつつあるオークの群れがあるようだ。このタイミングで合従軍が発動していないと、大きな都市すら襲う群れが出て来るかもしれない。合従軍を形成した判断はあながち間違ってはいないかもしれないと、ルナティカは納得した。


「一番大きな群れは?」

「山の群れかな。500前後いそうだ」

「その拠点を潰したら、今夜は休息。それでいい?」

「いいよ。行くのに半刻、潰すのに一刻はかかりそうだしね」

「丁度いい」


 2人は確認を終えると同時に地面を蹴った。浅いとはいえ、夜の森を風を巻いて走る2人。地面が走りにくいと見るや、枝に飛び移りながら樹を蹴って走るのだ。野生の猿でもこうはいくまい。

 そうして山が近くなってきたところで、レイヤーの動きが突然止まった。合わせてルナティカも止まる。レイヤーの様子を見ると、真剣な表情で何かを探っている様だった。

 レイヤーはセンサーではない。だがレクサスなどと同じく、悪意や敵意をもった相手にはリサも舌を巻くほどに敏感だった。まるで敵を殺すためだけに特化したような能力だが、それこそがレイヤーの本質であることはルナティカも感じ取っている。

 そのレイヤーが動きを止めたのだ。さらに大きな悪意を感じ取ったに決まっていた。


「レイヤー、どこ?」

「・・・さらに先の山3つ向こうに、大きな群れがいる。数千はいる」

「目的の群れ?」

「その可能性が高い。どれもオークなんかとは桁違いの悪意だ」


 レイヤーの目がすうっと細まる。どうやら警戒に相当する相手らしい。


「山の群れを潰してから確認する?」

「いや、そうなると追いつくのが夜明けになる可能性がある。夜の闇に紛れて相手を確認する方が安全じゃだと思う」

「ならそうする」


 レイヤーの指さした方向に進路を変えた2人。それからさらに一刻半前後、途中にいた魔獣などは2人を見ても追跡を諦めるほどの速度で道なき道を突き進んだ。

 そして2人は山間を進む魔物の群れを発見した。その規模にさすがの2人にも緊張が走る。


「これは――」

「竜。目的の群れ」


 ルナティカの呟きに、驚愕の色があった。彼らの眼前には、ゆっくりと進む竜の群れがあった。ただし、ただの竜の群れではない。その種類は多様で、火竜、森林竜、岩竜、飛竜などなど、滅多に見ることがないほどの多種多様な竜の群れがいたのだ。

 その数、数千にも及ぶと推定される。これらが突き進めば、進行方向にある国などひとたまりもあるまい。竜は種類にもよるが、討伐依頼は最低でもB級以上。竜の群れの討伐ともなると、軍の協力が不可欠である。それがこの規模となると、どれほどの戦力が必要か、想像もつかない。

 数百のオークの群れを撫で切りにする2人でも、さすがにこの群れを前には固唾を飲んで見守るのみだった。



続く

次回投稿は、8/4(水)16:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ