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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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後顧の憂い、その11~吸血種の王⑩~

「此度の同盟――スピアーズの四姉妹を牽制しつつ、後方が不安になるそなたたちの援護をすればいいのか」

「うむ――今アルネリアを襲撃する意味はあまりないように思えるが、どんな馬鹿がいないとも限らんからな」

「賢い奴は読めるが、愚か者こそ読めぬからな――だがそれにしては、そなたが裏切り者を読めないというのは解せぬ」

「不本意ながらワシとて解せぬのよ。ここまで尻尾が掴めんのは初めてのことじゃが、逆にどのような者が首魁かは見当がつく」

「ほう」


 ブラドが興味深そうに鳥を眺める。こういう時、表情の読めぬ使い魔は便利だとブラドは思う。ミリアザールは若い時から感情が豊か過ぎて、すぎに表情に出ていたからだ。腹芸は似合わぬと思っていたが、いつの間にかそれも他の追随を許さぬほどに上手くなった。

 それでもブラドの前では嘘はつけぬと思ったのか、使い魔で来た。本体で来なかったのは、見透かされるのが嫌だからだろう。ブラドはなにせ、観察が得意だ。

 やがてミリアザールはゆっくりと顔を上げた。


「――敵は深緑宮の中の誰か、じゃろうな」

「側仕えということか」

「現役とは限らぬが、通じておる者はおろう。あるいはそれと気付いておらぬか。口無しの情報網に一枚噛んでおらねば、説明がつかぬわ」

「なるほど、引退した者も含めてか――ならば、イークェスも容疑者か?」


 使い魔を通してもミリアザールの驚く顔が見えたような気がした。ブラドの聡明さに、あらためてミリアザールは戦慄する。

 ミリアザールは言葉を選びながら答えた。


「・・・とは限らぬが、容疑者の一人ではある」

「我が城の外部と連絡を取っているのは、ディアマンテ、イークェス、サミュドラだけである。ドルネアは我が領域から出れぬし、シルメラにはその意欲がない」

「じゃがシルメラも今回は外に出るのじゃろう?」

「そう、だから寵姫一人一人に別の指示を出した。シルメラはそちらに向かう。ディアマンテには大森林を中心とした調査を命じた。サミュドラはかつての眷属に声をかけるように指示した。イークェスは麓の我々に貢物をする村々との交渉だ。それぞれ監視をつけるがいい。おかしな動きをした者がいれば、さらに調べよう」


 ブラドの譲歩に、鳥がぱちくりと驚いたような瞬きをした。


「よいのか? 自らの寵姫を差し出すような真似を」

「潔白だと信じたいが、確証はない。ならば被害が広がるような手段を取るしかない、それだけだ。あと一つ、情報がある」

「なんじゃ」

「何十年前のことか忘れたが、我らが領地を訪れた男がいた。城は健在だったが、突破したそうだ」

「そうだ? 他人事のようじゃな」

「私は就寝中だったからな、名は知らぬ。ろくに口もきけぬほど衰弱していたので、寵姫たちだけで処置を施し送り還したと言っていた。どうやら城を突破したのも偶然だったようだが。心当たりはあるか?」


 ミリアザールは初耳の情報に悩んだが、あまりに判断材料が少なすぎた。何も言えず、首を横に振る。


「いや、それだけではなんとも。じゃが、男か」

「そうだ、男だった」

「ふむ・・・調べられればよいがの」


 ミリアザールはそれからもいくつかの打ち合わせをブラドとすると、使い魔を灰に戻してその気配を消していた。

 そしてブラドも一人になってワインを傾けながら、闇に向かって呼びかける。


「ドルネア」

「お呼びで?」


 闇の中から盛り上がる泥のようにドルネアが姿を現す。ブラドはそちらを見向きもせずに、命じた。


「話は聞いていたな? 他の姫を見張れ」

「イークェスが一番疑わしいね」

「とも限らん。他の者が色々と外の世界でしているのは知っている。それを利用されているだけかもしれん。それにスピアーズの四姉妹とことを構えることになっても厄介だ。戦力の増強も必要だろう」

「そちらはお任せを。防衛戦専従でよければ、数千はすぐにでも作れるね。それに、既にスピアーズの四姉妹の元に見張りは放ったね」

「さすがだな、任せたぞ」


 ドルネアが一礼しながら沈むように消えると、ブラドは自らの椅子に体重を預けて、ワインを掲げて眺めた。人間がいる限り静かになりそうにもない世間を慮り、また気怠そうに、そして愛おしそうにワインを眺めたのだった。


***


「よーう、久しぶり」

「久しぶりと言うほど、久しぶりではないはずだけど」


 スピアーズの四姉妹の元を訪れたミランダを出迎えたのは、セローグレイス。だがその姿がまるで違うことに、ミランダは驚きを隠すので精いっぱいだった。

 セローグレイスは成長していた。ややもすれば卑猥に見えていたその恰好も、セローグレイスが成長して成人女性へと姿を変貌させたことで、蠱惑的なドレスへと意味を変えた。

 両腰へ剣を佩き、背中には見事な拵えの大剣を装備した赤いドレス姿のセローグレイスは、自信たっぷりにその肢体を強調するかのように腰に手をあて、見下ろすようにミランダの前に姿を現したのだった。



続く

次回投稿は、7/23(金)17:00です。

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