表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
2200/2685

後顧の憂い、その7~吸血種の王⑥~

「・・・以上が私の知る全てです」

「なるほど、おおよそは理解した」


 ブラドが悩む間、寵姫たちは一言も意見を口にせず、ただ主の言葉を待っていた。口やかましくとも、彼女たちの主はブラドであり、決定権はブラドにあることをわきまえているのだった。

 やがてブラドがゆっくりと口を開く。


「で、ミリアザールが我々に望むことは、傍観でいいのかな?」

「はい、基本は現状維持の確認と申しておりました。そして、ブラド殿だけにこれを渡せと預かっております」


 エルザは封蝋された手紙を出すと、ブラドの視線を受けたドルネアの手がにゅるりと伸び、その手紙をブラドに寄越した。ブラドが爪の一部を鋭利に伸ばしその封を丁寧に開けると、中身を確認する。その内容を確認すると、怪訝な顔つきになるブラド。


「なるほど、さらに読み解くには工夫が必要か」

「主様、手紙にはなんと?」

「挨拶と、貴様の好きなものと嫌いなものを組み合わせて読めと書いてきおった。さすがミリアザール、性格が悪い」


 イークェスの問いに苦笑いで応えるブラド。どこか楽しそうにその手紙を懐にしまうとサミュドラに目配せし、サミュドラが続きの料理を運ばせてきた。


「さて、今日のところは難しい話は終わりだ。せっかくの食事を愉しもうではないか」

「次がメインだからよ、メインは魚と肉から選んでくれよ」

「私はどちらも好きではないのですが」

「テメーは種でも食っとけ、ディアマンテ」

「ならディアマンテの分は私が食べるね」


 やいやいと寵姫たちが話し合い、イークェスはしょうがないとばかりに小さくため息をつき、シルメラは静かに食事を口に運んでいた。ワインを飲む速度だけが異常に早いが、なぜかそこでイライザが張り合い始めた。

 エルザはその様子を眺めながらやや機械的に晩餐を勧めていたが、ブラドが終始難しそうな表情になったので、手紙の内容は何だったのだろうかと気になってしょうがなかった。


***


「晩飯は足りたかよ?」

「ええ、十分に」

「そりゃあよかった」


 寵姫たちに伴われ、エルザとイライザは宿泊用の部屋に案内されていた。常闇の宮殿には尖塔がいくつかあるが、それぞれが現在の寵姫たち、あるいは以前存在していた寵姫たちの部屋だったそうだ。

 全盛時には10を超える寵姫がいたそうだが、今は5人。ゆえに尖塔も余っており、それらを宿泊用の部屋としてあてがうことにしたのだった。


「以前はもうちょっと賑わっていたんだけどよ。さすがに寿命がきたお姉さまとかもいてよ」

「貴女方は全員が不老不死なのでは?」

「主様の眷属になってりゃな。そうなることを選ばなかったお姉さまもいたし、戦いで命を落としたお姉さまもいたんだ。あるいは眷属として契約したが、永らく続く生に倦んで自死を選んだお姉さまもいる。ま、人生いろいろだ」

「そうですか」


 エルザは出来る限り感情を出さないように返答した。どのような寵姫がいてどのような人生を歩んだかが気にならないではなかったが、それらすべてを知ったところで自分の人生では推し測れるようなものではないし、彼女たちの長い人生においては人間の自分が何を言っても薄っぺらにしか聞こえないだろうと思ったからだ。

 だがそんなエルザをサミュドラはいつの間にかじっくりと観察していた。あまりに無遠慮な視線にエルザがたじろぐ。


「な、なんでしょうか?」

「いや、お前賢くて優しい奴だと思ってよ。アルネリアの人選は悪くねぇな」

「そうですか?」

「そうだとも。お前は良い奴だよ、イークェスの奴よりゃ余程な」

「あぁ~そうだね」


 ドルネアが同意する。尖塔の入り口はほとんど独立しているが、いくつかは共同の入り口を使っており、イライザはイークェスとシルメラと同じ塔へ。エルザはサミュドラとドルネアと同じ塔へと案内されていた。ディアマンテは危険だろうとして他の寵姫たちが却下した。そもそも寵姫の条件が、最低ディアマンテを単独で退けられることだそうだ。つまり穏やかなだけの女性では寵姫は務まらないということだった。


「例外はいたけどな」

「例外?」

「ディアマンテとも親友になれた人間の寵姫がいた。その時生きていた全ての寵姫、そして闇の配下共と仲良くやっていた。何の力もないのに、信じられないほど度胸と慈愛に満ちた人間の女だった。おそらくは主様がただ一度本当に愛し、傍に置いた人間さ。だからこそ、出産に耐えられなくて死んじまった。眷属にならずに真祖の子どもを身籠ることがどれほど危険かを知りながら、それでも我を通しきったよ」

「予想できたこととはいえ、ちょっと当時の主様は見ていられなかったね。あまりの衝撃に嘆き暮らし、生まれた御子のことなんてほったらかし。成長した子どもが主様を憎んで離れていったのも、追い打ちになったね」


 ドルネアが悲しそうに話を繋いだ。おそらくはサミュドラもドルネアもその女性を気に入っていたのだろう。

 エルザはその女性のことを聞こうとして、やや躊躇った間にサミュドラが別の話題を切り出した。



続く

次回投稿は、7/15(木)17:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ