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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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後顧の憂い、その4~吸血種の王③~

 だがカーテンが開くと同時に、籠っていたとしか思えない膨大な魔力と威圧感が垂れ流されてきた。その威圧を受けて、思わず大量の汗がエルザとイライザから噴き出す。制御のきかない猛獣の前に裸で放り出されたらこんな気分だろうかと、エルザは恐怖を覚えた。

 委縮する2人に向けて、威厳に満ちた声が降ってくる。


「余がブラドである。まだ覚醒からさほど時間が経っておらぬもので、本調子とは程遠いのだ。このような不躾な姿で使者殿の前に姿を晒すこと、許されよ」

「ア、アルネリアの使者、大司教補佐エルザとその騎士イライザにございます。この度は高名な王にお目通りが叶い、恐悦至極にございますれば――」

「そうかしこまらずともよい、使者殿。互いに牽制しあうことはあれど、敬意をもって相対する立場でもあるまい。ミリアザールは私のことを何と言っておった?」

「・・・好色ではありますが、最上級の紳士であると」

「引きこもりで、スケコマシの変態紳士ではなく?」


 ドルネアの言葉に、ディアマンテが噴き出した。どうやら冷静な見た目とは違い、笑い上戸であるらしい。笑いをこらえきれない様子で、ずっと小さく肩を震わせている。

 エルザはどうしたものかと返答に窮したので、困ったように当のブラドが助け舟を出した。


「ドルネア、使者殿をからかうのはよせ」

「しかし、王。あの女狐めならばきっとこういうはずだね。イイ性格しているもん、あいつ。私は好きだね」

「ぶっ、くくく・・・た、たしかに昔戦った時にはそんなことを言っていたような・・・ふっふふふ」


 ディアマンテが我慢の限界を超えたのか枝でばしばしと床を叩いており、ブラドは眉間に皺を寄せて困っていた。そしてドルネアは平伏して謝辞を述べた。


「失礼しました、王よ。しかしこの程度の冗談がなければ、使者殿は王の威圧で声もまともに出せないね。寝起き――もとい、覚醒したてとはいえ、久しぶりの来客。魔力と威圧を押さえていただけるとありがたいね」

「ふむ――これは失礼した。忠言、ありがたく受け取ろうドルネア」

「もったいなきお言葉」


 ブラドがばさりと上着を羽織ると、魔力と威圧感が一瞬にして半分以下となった。今まで呼吸をすることも忘れていた2人は、ようやく長く息を吐くことができた。

 そして上半身をゆっくりと起こしたブラドは、手を叩いてサミュドラを呼び出した。


「宴の準備はできているか?」

「前菜とスープなら、もう仕込み終わってらぁ。今すぐ始めっか?」

「頼む。食事をほぼ必要しない体質といえど、さすがに何も取らぬでは体も碌に動かないようだ。使者殿も食べられる物を作ったであろうな?」

「おーう、その辺りは抜かりねぇ。ちゃんと貢物の中から見繕ってらぁ。あ、そういや使者殿って食えない物ってあるか?」


 サミュドラの質問に無言で2人は首を振ると、サミュドラは安心したように胸を撫で下ろした。


「それ確認しねぇと最後の仕込みが出来ねぇもんな。仕込んだ素材が無駄にならなくて何よりだぜ」

「貴女が作るので?」

「他にも作れる奴はいるけどよぉ、トロールのシェフと、エルダーゾンビのシェフ。どっちがいい?」

「・・・貴女一択で」

「だろ?」


 エルザが納得したように力強く頷いたので、サミュドラは親指を立てて去っていった。去り際に「人狼に仕込んどけばよかったなー。捌くのは旨いが、火が使いやがれねぇ」と呟いていたのに、思わず笑いだしそうになったエルザだった。

 その様子を見てブラドは小さく相好を崩した。


「さすがミリアザールが使命する使者殿だ。肝が据わっている」

「そうでしょうか?」

「でなければここまで来れぬ。そもそも姫たちが気に入らぬ者は、ここに到達することができぬからな」

「貴方の愛妾たちには、私たちを殺したい者もいたかもしれませんが」


 無遠慮に言い放ったエルザに、ブラドが少し困ったように返す。


「そなたたちでなくともそうだ。彼女たちは基本、人間が嫌いなのだ」

「別に人間だけ嫌いなわけじゃないけどね」

「私は種が植えつけられる相手なら好きよ?」

「それは好きかどうかとはまた別の話だね」

「ふぅ・・・やれやれ、久しぶりに会話するお前たちが変わらなくて何よりだ。雑談の続きは宴席でやるとしよう」


 ブラドがぱん、と手を叩くと、彼らは一瞬で他の部屋に転移していた。いかに居城とはいえ、これほど簡単に転移できるものかと思わずエルザはごくりと唾を飲んだ。今魔術が発動した気配すらなかったような――そんな表情に気付いたドルネアが面白そうにエルザをのぞき込む。


「ここは『城』の中。何でも主の思い通り。先ほどの部屋だって、本当に寝室だったかどうやって認識する? 視覚? 聴覚? それとも嗅覚? 五感なんてあてにならないかもしれないね?」

「・・・既にブラド公の腹の中だと?」

「やめぬか、ドルネア」


 ブラドが強めに窘めたので、ドルネアはくすくすと笑いながらドレスの裾をつまんで引きさがった。そしてブラドがさらに手を叩くと、様々な種族の従者と思われる者たちがあっというまにテーブルの準備をするとクロスをかけ、豪奢な椅子と食器を並べる。

 それが終わると同時に、サミュドラが料理を運び込んできた。



続く

次回投稿は、7/9(金)18:00です。

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