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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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大戦前夜、その18~出陣~

「団長、この一月での新規入団者が5000名を超えました。敷地にはまだ余裕がありますが、宿舎や教練場の建設が追いつきません。それに食堂も手狭ですし、最低限の座学は外でもできますが、やはり問題は女性団員専用の棟の建築でしょうか。思ったよりも女性の志願者が多くて」

「金に糸目はつけなくていいわ。ドワーフを中心に、使えそうな者は工兵として訓練して。補償も十分に出して。そのうち、これからの戦場で即戦力になりそうな者は?」

「ざっと1000だな。少し時間をもらえりゃ、もう1000人は使い物になるだろ」

「ということは、残り3000名は工兵にできますね」

「統一武術大会での活躍を聞いてすぐに集まってくる連中はそれなりに腕に自信もあるだろうが、徐々にこうはいかなくなるだろうな。どうする? 全員を工兵にするわけにもいくまい」


 エクラの報告を受け、選別するのはロゼッタとライン。それも出陣のためもうすぐできなくなるので、今後をどうするかは悩ましい所だったが、アルフィリースにはちゃんと考えがある。


「想像以上ではあるけど、想像外での出来事ではないわ。予定通り部隊を動かします。これからの新規入団者の運用についても、考えがあるわ」

「ならいいが。傭兵ってのは暇をさせるとロクなことをしねぇからな」

「暇なんてあるはずがないわ。やることは山積みなのよ」


 批判的なラインに口を尖らせるアルフィリースを差し置き、ロゼッタが拳と掌を合わせて力を込めていた。


「戦争か、腕がなるぜ」

「本物の戦場では、血気盛んな者から死ぬそうだが?」

「はっ、アタイがいつから傭兵やっていると思っていやがる? テメェのおしめが取れない頃からやってんのさ、フローレンシア。たしかにイェーガーじゃ戦争はほとんどやってねぇが、アタイは元々戦場専門の傭兵だ」

「なるほど、ババア殿の年季には勝てませんね。降参しましょう」

「変なところに殿をつけるんじゃねぇ!」

「絡まないでください、降参だと言っているでしょう?」


 意気込むロゼッタに、元騎士のフローレンシアが合いの手を入れ、そしてリサがカッカッと杖で地面を叩いた。


「仲良しですか、あなたたち。ちょっと静かになさい」

「はんっ!」

「すみません――が、予定通りということは私が居残りでよろしいので?」


 かく言うフローレンシアも、どことなく不満そうだった。


「ええ、あとは当座ヴァントかしらね。古株でこの傭兵団を任せられる落ち着きのある人材は、そう多くないわ。エクラが仕切り、フェンナに助成をお願いするわ。ターシャは中継地点を作って、アルネリアと戦場の連絡役。そして用心棒として、イェーガーの拠点の警護はマイアにお願いするわ。ただし、それぞれ後方が安定したり、前線に余裕がなくなれば出てきてもらう。それでいいわね?」

「私は元からそのつもりですが――本当にそれでよろしいの?」


 マイアは確認する様に尋ねたが、アルフィリースは当然のように頷いた。マイアは廃棄遺跡での戦いの翌日、グウェンドルフ、ノーティスに再開し、おおよその世の中の流れと何があったかを聞いていた。 

 その後2頭の竜は再度旅発ったのだが、マイアもまたどうするべきかは悩んでいた。もちろん3頭ともに、マイアがアルフィリースの守護を続けるのが最も良いだろうことはわかっている。だが、それだけでいいのかと、マイアはイェーガーに留まることにじれったさと罪悪感を覚えていたのだ。

 自分が力を振るえばいち早く戦いが終わり、犠牲も最小限になるのではないか。そしてアルネリアにおいて拠点の警護をする意味がわからない。マイアのその焦りを悟ったかのように、アルフィリースは説明した。


「レイキの一件、聞いたわね?」

「ええ、行方不明になったとかいう」

「深緑宮も襲撃を受けて、その犯人はまだ見つかっていない。それにターシャが遭遇した、魔物の群れも結局それを率いていた奴は逃げた。まだまだアルネリアですら安全ではないことが証明されたわ。イェーガーの評判を落とすために、そしてイェーガーにとって一番怖いことは、留守を狙われることよ。帰る家のない傭兵団ほど、脆いものはない」

「流浪の傭兵団であるブラックホークは少人数ですし、カラツェル騎兵隊ですら長期滞在できる拠点をいくつか確保しています。我々のように定住することは珍しいかもしれませんが、家があることの安心感は計り知れないでしょう」


 リサの補足にマイアはゆっくりと頷いた。真竜にだって巣はある。家を守れと言われて、否とは言えなかった。


「では、イルマタルもこちらに?」

「いえ――イルは連れて行くわ」

「「「え?」」」


 それはマイアだけでなく、エクラもリサも聞かされていなかったので驚いたが、アルフィリースの決意は固いようだった。

 そしてその3日後、天翔傭兵団セレスティアルイェーガーはアルネリアを出陣した。季節は緑が芽吹く月の20日。暑さが増すと同時に、爽やかな風が吹き始める時のことだった。



続く

次回投稿は、7/1(木)18:00です。

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