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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第六章~流される血と涙の上に君臨する女~
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大戦前夜、その15~緑の庭園~

「さすが団長~打ち合わせ通りですね~」

「リサとコーウェン、それに私の情報網を駆使して集めたものと遜色ないわ」

「ふふ、ついにそこまで来ましたか」


 三人がうっすらと笑みを浮かべる。それは情報戦において、アルネリアと同程度であるということ。もちろん網の広さでいえばアルネリアほどではないが、ジェシア、ターラムの娼婦たち、学者仲間、そしてセンサーや傭兵仲間を通じて築き上げた情報網は、集約すればアルネリアと渡り合えることが証明された。

 アルフィリースがかねてから目指していた体制の構築である。アルフィリースが髪をかき上げながら、少々の懸念を表情と口に出す。


「ただミランダにとっても予想外なのは、回復と浄化の手数が全く足らないことだそうよ。周辺部のシスターをひっかき集めても、まだ足らないって。各国の施療院の手を止めるわけにもいかないし、このままじゃ遠からずグローリアの学徒動員が必要になるって」

「学徒動員ですか~貴族社会からの反発が大きそうですね~」

「その前に魔術協会から援助を要請すべきでは?」

「もうやってるって。でも派遣を渋られているそうよ」

「なぜゆえに~?」

「なんでも、また会長が交代するそうだから。そのごたごたが終わるまでは、魔術士たちは貸し出せないってさ。ミランダもそれ以上のことは知らないみたい」

「ミリアザールが復帰したのに、魔術協会の反応が芳しくないのですか。会長がテトラスティンじゃないからですかね」


 リサの懸念は珍しく外れていた。そのテトラスティンが新しい会長に戻ることとなり、彼の命令でそのことも隠し、なおかつ魔術士の派遣を止めているなどと、当のアルネリアも知らないことだった。もっとも、交代に伴うごたごたで派遣はそもそもままならなかったことも事実である。

 ざぁ、と風が吹いた。外に向かうアルフィリースが目の前を過ぎた葉っぱに目を取られると、その先にある中庭を注視していた。


「精霊たちが――静かね」

「え?」

「いえ。あの中庭、また少し様子が変わったかしら?」

「ええ、シラハダの比率が増えましたかね。我々が最初に訪れた頃は緑一色だったと記憶していますが」

「いつも思うのですけど~盲目なのによく色までわかりますよね~。目が見えていなくても~それなら何の不便もないのでは~」

「誰でもじゃありませんよ、リサが特別なだけです。それに直に目で見れなくて悔しい光景だってありますから」

「庭園が綺麗に整備されているわ。よくこんなに手入れが行き届くものね」


 アルフィリースが見事に整えられた枝葉や、あずまやの様子を眺める。小川は陽光を受けてその清涼さを誇るように輝いていたが、いつぞや放たれていた魚は一匹も見当たらなかった。

 コーウェンもその庭園の美しさを堪能する。


「ふむ~たしかに造形美としては見事ですね~。これを造った人は黄金比をよく理解しています~アルネリアにも美的感覚に優れる方がいらっしゃるようで~」

「腕の良い庭師でも雇いましたかね」

「ミランダよ」

「「え?」」


 コーウェンとリサが同時に声を上げた。2人にも意外だったようだが、この庭園を整備しているのはミランダだと、アルフィリースは知っていたのだ。


「この庭園の整備をしているのはミランダなのよ。一番最初、赤鬼と呼ばれたころにミリアザールに拾われた時、最初に申し付けられた仕事がこの中庭の世話だったそうよ。それまではミリアザールがこの中庭の管理をしていたのですって」

「その心は~?」

「何かを育てるということは、荒みきった精神を潤す唯一の手段なんですって。かつてのミリアザールが経験したことだそうよ」

「・・・ああ、それで彼女はグローリアを・・・」


 リサはミリアザールが常に人材を育成し続ける理由が、初めてはっきりとわかった。かつて彼らのためだけではないと言っていたような気もしたが、なるほど、当初は自分のためでもあったのかと妙に納得する。

 リサも同じく、ジェイクを育てるという作業に日々が追われ、荒んでいる暇などなかったことを思い出した。

 アルフィリースは中庭の木々に触れながら呟くように言った。


「精神の表現、か・・・でも、そんなはずないんだけどな」

「精神の表現? そんなはずがないとは、なぜゆえに?」

「ああ、ごめん。私の勘違いかもしれないから。それより、深緑宮を平和会議の期間中に襲撃した連中というのはどこに行ったのかしらね」

「さぁ~情報網には何もひっかかりませんでした~襲撃の意図も、何もかも謎でしたね~」

「そうですね。アルネリアの情報網や結界にすら引っ掛からないとは、何者だったのでしょうか」


 コーウェンとリサはそれほど重要視していないようだったが、アルフィリースには一つの考えがあった。いつかミリアザールも話していた、アルネリア内の不穏分子がかなり中枢に食い込んでいるのではなかろうかと考えていた。


「(敵は身内にあり・・・なのかもね。動くとしたら、我々が留守にするこの時期かもしれない)」


 アルフィリースの胸中には留守の不安があったが、今はそれを考えているわけにはいかない。長期に渡る遠征の決意も新たにイェーガーへと戻ったのだが――



続く

次回投稿は、6/25(金)19:00です。

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