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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その711~大陸平和会議最終日④~

「聖女殿、その辺にしておいたらどうだ。そろそろ貴殿の魔力に当てられて気絶するものがでるぞ」

「・・・これは失礼」


 ふっと魔力が治まると、諸侯の中にはぜいぜいと息を切らした者がいた。部屋の中を充填する様な魔力の密度に、息をすることを止めてしまった者もいるほどだった。

 そして魔力を引っ込めたミリアザールは、再び聖女然とした微笑みをたたえシェーンセレノに話しかけた。


「まぁ、そういう可能性もあるということです。申し出はありがたく頂戴することとして、シェーンセレノ殿は一介の諸侯、一軍の将として、諸侯と並ぶ立場で参戦いただく。それでよろしい?」

「う・・・ええ。そうですわね」


 シェーンセレノは額にうっすらを汗を滲ませながら頷かざるをえなかったが、ドライアンは心の中で唸っていた。


「(これでシェーンセレノとやらは従軍しても好き勝手はできぬ立場となったな。そして監視下にもおける。上手い)」


 ドライアンの思考を当然ミューゼも気付いており、ちらりとドライアンに視線を送って意図を互いに確認していた。

 レイファンはといえば、アルフィリースの方を見ることなく後ろ手にその腿辺りを指でとんとんと叩いて発言を促した。アルフィリースもはっと我に帰ると、発言を続けた。


「お話も盛り上がり切ったところで私の質問も終わりですし、どうぞお開きで」

「アルフィリース殿、漫談じゃありませんよ?」


 ミランダが軽く眉間に皺を寄せたまま、アルフィリースとリサに下がるように促した。その後の会議は再度ミリアザール主導で進み、合従軍は2ヶ月後にターラム南部の平野にて召集されることに決定した。

 近隣の国はともかくとして、遠方の国では派兵までに時間がない。先遣隊がぎりぎり間に合う程度の国も多いだろう。だがこれ以上遅くなれば、戦が冬に及ぶ可能性もある。やむをえない決断だとして、諸侯は納得せざるをえなかった。

 会議終了後、急いで軍を興すために足早にその場を立ち去る諸侯も多い。アルフィリースはオルロワージュとアンネクローゼの紹介の元スウェンドルに謁見し、正式な傭兵契約を結ぶこととした。ただ空を飛んで合流するわけにもいかないので、まずは合従軍に随行し、その後戦場にてローマンズランドに合流して共に戦うこととなる。

 スウェンドルの感触はおおむね良好で、あれほど居丈高だった態度も軟化し、契約は驚くほど早く進んだ。アルフィリースは契約を結ぶにあたりややふっかけたのだが、スウェンドルはその契約を内容に目を素早く通すと、即決で認可のサインを書いた。これにはややアルフィリースも拍子抜けしたが、それよりもスウェンドルの「よろしく頼む」という言葉に驚いて、聞きたいことを聞くのすら忘れてしまった。

 スウェンドル達は既に陣払いを済ませており、会場を去る時には空を埋める竜騎士とともに北の空に消えていった。アルフィリースはしばしそれを見送っていたが、最後にぽつりとリサにだけ呟いた。


「・・・荒れるわね」

「・・・あなたの歩む道で、荒れなかったことが?」

「そうだったかしら?」

「そうですよ。常に嵐の海を行く、船が如しです」

「嵐の海で船に乗ったことがないわ」

「私もですが、外洋に出て無事に帰って来た人間はいないとだけ」

「それは知ってる。私も沈むって?」

「おおかたは。あるいは、帰ってくる最初の一人になるとしたらアルフィでしょう」

「期待されているんだか、いないんだか」

「期待させてください」

「努力する――いえ、しているわ」


 そんなことをやや悄然とした表情で話す2人だったが、大役を終えた休息もつかの間、彼女たちは次なる戦いに向かうべく準備を始めた。


***


「十分な活躍をしていただきました。次にお会いするのはいつになるかしら?」

「レイファンは後方支援ですからね。私は最前線でしょうから、会うとしたらろくでもない状況かもしれないわ」

「最初は陣中見舞いに参りますわ」

「それはありがたいことですが、ラインに会いたいだけでは?」


 アルフィリースの意地悪な質問に、レイファンは少し顔を赤くした。


「そ、そ、そういうわけでは――」

「ありますと言いなさい、うりうり」

「不敬罪で処断ものですが、私もリサの肩を持ちます」


 レイファンの頬を指でつつくリサ。避けようとするレイファンを、ノラが邪魔する。


「ノ、ノラ! 止めて下さい!」

「レイファン様がうつつを抜かすのが悪い、いえ、イケナイのです」

「なるほど、イケナイことをしてほしいと。ふふふ、得意ですよ、そういうのは」

「あ、駄目。これ癖になりそう」


 可憐で高貴な少女を、3人で囲んで言葉で突つき回す。リサは本当に突いていたが、レイファンがするりと囲みを抜けて椅子の影に隠れる。


「も、もう! いい加減にしなさい!」

「もうちょっと良い加減でやってくれと?」

「いつからそんなおいたわしいことをおっしゃるように・・・」

「そろそろ2人とも、本当に怒られるわよ?」


 アルフィリースが制すると、リサは口笛を吹いて素知らぬ顔をし、ノラはクロスをはたいてなかったことにしようとした。


「ま、もちろん冗談ですが。たまにはレイファン様も年相応の息抜きをしないと、頭の中まで堅物になってしまいますからね」

「・・・絶対今のは本気でしたよね?」

「なんのことだか?」


 すっとぼけるノラを放っておいて、アルフィリースは仕事の話に戻す。


「レイファン、約束を忘れないでね?」

「ええ、国に帰り次第、早速土地の候補を選定します」


 レイファンもまた、瞬時に為政者の顔に戻った。


「一月後にはエクラを寄越すわ。状況は共有している」

「出征中はどうされるのです?」

「候補地から絞って、まずは建造物の建設を始めるわ。最初の数年は土地税を免税にしてほしいけど」

「その件ですが、実は経済特区なるものを考えています」

「経済特区?」


 聞き慣れない言葉に、アルフィリースは首をかしげる。


「決まった場所にいっそ新たな街を作ろうかと。向こう10年を土地税、租税、商業における全てを免税とし、人を集めます。ミーシアが現在中央ではかなり大きな街としての役割を果たしていますが、古くからあるゆえに土地も商売も固定化され、行き詰まっています。

 もうそろそろ、新しい風を吹かせても良い頃でしょう」

「なるほど。そこで自警団の役割をしながら都市を発展させろと?」

「話が早くて助かります。やり方は――」

「免税は5年でいいわ。その代り、やり方は一任して頂戴。そして5年が明けた後の税は、他の土地と一律にして頂戴。いいかしら?」


 間を置かない切り返しにさすがとレイファンは考え、こちらもまた即答した。


「いいでしょう。ぜひとも私が驚くような結果を期待していますわ」

「楽しみに待っておいて。アッと言わせて見せるわ」

「楽しそうで何よりですが――ほぼ領地経営ですよ? 具体的な計画が?」

「あるわ。エクラとコーウェンとは相談済みよ。この事業はほぼエクラに任せるわ」

「なんとまぁ、いつの間に」


 リサが呆れる間にも、アルフィリースは詳細な内容をレイファンと詰めると、ノラがそれを聞き取りながら書面に書き起こし、その場で調印を済ませてしまった。

 アルフィリースの野望は留まることを知らず、展望は何年先のことまで見通しているのか、リサには不思議でならなかった。



続く

次回投稿は、5/26(水)21:00です。

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