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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その710~大陸平和会議最終日③~

「・・・3つ目は、さきほど今後の魔王討伐に向けてという意味合いの発言をされましたが、どうしてそう考えられるのです?」

「それは、今後と増えるであろう魔王という意味で――」

「そうでしょうか? 私はこの大陸東部で大きな傭兵団を預かる身として、どれくらいの頻度で魔王出現するのかを肌感覚で知っています。また、効率よく依頼を受けるために、諸国での魔王発生状況をギルド経由で知らされる立場にあります。もちろん自分でも調査していますが――リサ、報告される魔王はここ一年、本当に増えているの?」

「大陸東部では減っていますね」


 リサの発言に、会場がざわ、と揺れた。リサはミリアザールの方をちらりと見て発言をお求め、ミリアザールはそれを促した。


「実は魔王の討伐依頼には偏りがあります。辺境が近い部分で依頼が多いのは当然として、大陸中央から西部に偏っているのです。今まで魔王が増えている、という発言を受けても実感のない諸侯が多かったのでは?」

「・・・そう言われれば」


 ミューゼが同調した。リサが頷く。


「調べればわかることですが、魔王の自然発生件数というのは、大陸全土で年間10件にも満たないのです。それは各国の皆様の尽力だったり、アルネリアの遠征の賜物だったり、ギルドで賞金や名声に目が眩んだ傭兵たちによるものでしょうが、魔物討伐というものはここ数十年、比較的安定して行われています。魔物の大発生による都市襲撃、なんてものを大陸東部では聞いたことがないでしょう?」

「たしかに」

「わが国でもないな」


 諸侯のほとんどが頷いた。


「ゆえに大陸東部では魔王はほとんど発生しない――少なくとも、ギルドが討伐に困って広範囲で掲示されるほどに生き延びる個体は稀です。私が旅を始めたのは一年といくらか前ですが、その時に掲示されていた魔王は全て討伐されています。ギルドの報告では、掲示から3年以上生存した魔王は、ここ30年ほどはいないと」

「・・・それが?」


 シェーンセレノがリサの意図を掴みかねて、苛立つように質問した。リサは余裕しゃくしゃくでそれを受けて立つ。


「おたくの国、最後に魔王が発生したのはいつかご存じ?」

「10年・・・いえ、もっと前かしら」

「そうですね。調べたところ、あなたの幼少期に一度だけ。15年前のことです」

「もうそんなになるかしら? 我が父の領内に発生したはずだわ」

「それどころか館近くで発生し、襲撃を受けているのでは? まさかそれも覚えていらっしゃらない?」

「・・・公開したくない情報というのはあるものよ」


 シェーンセレノが苦々しく言い放ち、リサはふふんと鼻を鳴らした。


「すっとぼけるなら、それでもよいでしょう。つまり、魔王が発生しないように力をいれて魔物討伐にあたっていた?」

「・・・そのはずですわ」

「ならばなぜ、自国の軍隊を経験不足だと? 魔王が発生しないなら、相当徹底した魔物掃討が行われているはずですよ? ご存じない? それとも知らないふりをしている? それとも別の理由で合従軍に軍隊を派遣したい?」

「・・・う・・・それは・・・そうですわ。アルネリアと協力して浄化作業を徹底していたから、魔物発生が極端に少ないのですわ。だから魔王が――」


 シェーンセレノが口ごもる。その狼狽ぶりが顕著になり、視線が一瞬リサから逸れた。その隙を逃さず、リサはかっ、と杖をつきなおしてシェーンセレノを糾弾しようとして、ミリアザールの発言が刃のようにその空気に割って入った。


「派遣しておりません」

「・・・は?」

「ですから、アルネリアは貴国に浄化作業を行う部隊を、派遣しておりません。定期的な巡回を諸国には申し出ておりますが、貴国には以前数年にわたり断られ続けた経緯があるため、依頼があった際に派遣する形に変えております。

 理由は魔物の発生事例がほとんどないから――おかしな話ですね。貴国には自然も多く、国境で隣接する国も多く、他領から魔物が逃げ込む素養も十分あるのに。兵士が経験不足になるほど、魔物が発生しないなんて。ギルドも商売あがったりだそうですよ。それとも、誰か他の勢力に魔物の討伐を依頼していらっしゃる? ギルドに乗らぬような勢力に――そう、たとえば黒の魔術士のような」


 ミリアザールの気配が凄みを帯びて周囲を威圧する。その威圧感に、戦いを知らない諸侯ですら今代の聖女が只者ではないことを報せていた。

 歴代の聖女について、言い伝えはたくさんある。聖女と直接謁見の機会がない諸侯も、聖女がどのような存在であるかは知っている者が多い。そして一つ共通する事項として、聖女に逆らった者や国には必ず不幸が訪れるという言い伝えがあった。

 なるほどと、どの諸侯も納得するだけの威圧感をミリアザールが放っていたのだ。気圧されかけたシェーンセレノがごくりと唾を飲み、懸命に言い返した。


「ぶ、無礼な! 魔王を製作して大陸を不安に陥れる勢力と、私たちが手を結んでいると言うのですか!?」

「その可能性はこの会議に出席している、いないにかかわらずどの国も嫌疑を受けるべきです。なぜなら、魔王を作る以上どこからに作る場所があり、その土地を所有する国家があるのですから。それが諸国と関与しているかどうかはさておくべきことですし、この会議でにおいて前聖女はわざと誹りや非難を受けるがままにし、諸侯を糾弾しませんでした。どの国にどのくらいの規模の工房があったかを、私は全て把握しておりますが」


 ミリアザールがじろりと諸侯を睨む。魔王の工房があったことを知らされていた国もあるし、そうでない場合もあったが、それらに関係なくミリアザールに睨まれた諸侯は思わず委縮してしまった。


「そうしても詮無きことですから。今は協力して立ち向かうことの方が大事。そして、流れのある方に人は集まりますわ。いかに正当性だけを主張しようとも、力がなければ人は集まりません。私は聖女に就任した者として、アルネリアという権力の有効な使い方についても指導を受けております。

 この流れ、今回集まる合従軍を私利私欲で利用しようとする者がいれば――実力行使で排除することも辞しません」


 ぶわり、とミリアザールから魔力が立ち上ったので、驚いて後ろにひっくり返った諸侯もいた。ミリアザールの瞳には、並々ならぬ決意が浮かんでいた。逆らう者がいたら、この場で叩き潰す。そのくらいの威圧感を放っていたのだ。

 それを見て苦い顔をしたのは浄儀白楽。顔をしかめながら、ミリアザールを窘めた。



続く

次回投稿は、5/24(月)21:00です。

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