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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
2172/2685

戦争と平和、その708~大陸平和会議最終日①~

***


 空けて翌日、大陸平和会議最終日。

 統一武術大会最終日が想像以上の盛り上がりと見せたとはいえ、本日の会議は朝から諸侯が勢ぞろいしていた。それぞれの表情は澄み渡るようにしっかりとしており、誰もが本日の会議の重要性を理解していた。

 それはスウェンドルや浄儀白楽ですらも同様のようで、彼らも朝から遅刻することなく、身なりを正して出席していた。傍に控えるオルロワージュ、ブラディマリアすらも大人しく傍に控えていたのだ。

 そういった一種の異常ともいえる緊張感と静かな朝、アルフィリースはやや落ち着かぬ様子でレイファンの護衛についていた。既にオルロワージュとブラディマリアからも言質はとった。だがやはり正体どころか意図の見えぬ誰かがこの会議にいたような気がして、気付きもしない小さい虫に一張羅を台無しにされるような――そんな奇妙な感覚を覚えて会議に臨んでいた。

 レイファンやノラも緊張の面持ちでその場に控えており、アルフィリースは違和感を気のせいかと思おうとした。唯一、リサだけがアルフィリースの不安を察し、理解しているぞと言いたげにその袖を一度引っ張って合図を出していた。


「聖女がおわします」


 ミランダの宣告とともに注目が集まり、会議場に入って来たミリアザール。その姿は会場に射す陽光を受けて輝き、改めて思わずため息を漏らした諸侯もいたほどだった。


「皆さま、楽にしてくださいませ」


 一枚絵になりそうなその光景にそれぞれが感銘を受けたせいなのか、はたまた重要なことは予め決められていたからなのか、最終日の会議の進行は驚くほど早かった。

 まずは会議中に起きた不始末や、これまでの魔王出没に関する対応の遅れは、前聖女が責任を取って引退することを再確認した。犯人は引き続き捜索することを確約し、賠償などは充分することを伝えた。といっても、直接襲撃されたのはミランダと、そしてアレクサンドリアのバロテリ公のみだったが、アレクサンドリアは昨晩暇を告げてこの場を辞しており、結果報告のみとなった。

 そして黒の魔術士に対しては、その魔王生産工場をほとんど襲撃し、稼働不能に追い込んだことを報告した。魔王出現に関してはすでに減少しており、以後散発的になるはずだが、引き続きギルドと連携して討伐にあたることを説明した。

 魔王が減ることに関しては諸侯から安堵のため息が漏れもしたが、実際に矢面に立っている者達にとっては、それが気休めである可能性も考慮して、ただ黙して報告を聞いているだけだった。

 そして肝心の合従軍に関しては――


「ミューゼ女王、ドライアン王」

「はい」

「うむ」

「合同での総大将をお願いできるかしら?」


 ミリアザールの提案に2人は即答した。


「心得ました。戦いは得意ではありませんが、これも平和のための役目と心得れば。誠心誠意、務めさせていただきます」

「人間の作法は正直わからぬことも多い。だが先陣を切ることに関してはなんら憂いはない。そのあたりはミューゼ殿に補佐いただくとして、至らぬことも多々あろうが、諸侯よ、よろしく頼む」


 ドライアン王が立ち上がってぺこりと頭を下げたので、むしろ諸侯は恐縮して補佐と援助を申し出た。これもドライアンが夜会で積極的に諸侯と会話をした結果であり、ドライアンの人となりを諸侯が知るには充分な時間だったのだ。

 ミリアザールは続ける。


「道案内は、ローマンズランドのスウェンドル王にお願いしたく」

「無論だが、俺だけではわからぬこともあろう。北部商業連合にも協力を要請していただきたいところではある」

「もちろんでございます。既に書簡は手配しておりますわ」

「ならばよい。奴らとはそこまで懇意にしているわけではないのでな。俺が出向くと逆に委縮させてしまうかもしれんところが難しい」


 スウェンドルが謙虚に申し立てたので、逆に皆が不思議そうな顔をした。ミリアザールだけは表情を変えず、そのまま続ける。


「レイファン王女、シェーンセレノ殿には後方支援をお願いしたく」

「はい、承知いたしました。力及ばずながら、全力を尽くしたく思います」

「無論ですわ。きっと皆さまの支えになってみせますわ」

「レイファン王女には南から西の物流をミーシアなどに集め、そこからの支援をお願いします。シェーンセレノ殿は東側の物流を。それらを北部商業連合に集め、以後は全体で管理させましょう。おそらく中心はミューゼ王女になると思います。

 さて、残りの軍費や遠征における出兵の割り振りは手元の資料に割り振りましたわ。知られたくないこともあるでしょうから、諸侯にお願いした数だけを手元に書いております。ご不満がある方は挙手をお願いいたします」


 諸侯が手元の資料を見たが、そこには諸侯が申し出た数よりも負担が少ない数が全て記してあった。誰もがほっとした表情を浮かべ、不満を申し出る者は一人もいなかった。ただ一人を除いては。


「一つ、よろしいですか?」


 シェーンセレノが挙手した。何事かと警戒した者も数名いたが、シェーンセレノの提案は意外なものだった。



続く

次回投稿は、5/20(木)21:00です。

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