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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その700~統一武術大会、閉幕②~

「うっ」

「あっ」

「なんて――美しい女性だろうか」

「まさに聖女か」


 セイトとエルシアは言葉に詰まり、ディオーレとラインはただただ嘆息した。彼らの目の前に現れたのは、まさに聖女と呼ぶにふさわしい美貌をたたえた女性だったからだ。

 ミランダは跪いて彼女を迎え、しずしずと歩いてきた女性がミランダの傍に来ると、ミランダに手を差し伸べミランダがその手をとった。そして彼女を観衆に向けて高らかに紹介したのだ。


「諸君! ここにおわすは次代の『聖女ミリアザール』である! ここ数年のアルネリアの不穏な騒ぎを、諸君らも耳にしているだろう! 先代聖女はその責任を感じ取り、自らが聖女に不適当であるとされ、その座をこの方に譲り、隠居なされた。よって、次の聖女の就任とお披露目をここで同時に執り行う! 普段は深緑宮の奥深くで瞑想と祈りを捧げられる御方だ。直にその御姿を拝謁できる機会を得られた諸君は、幸運であろう。では、聖女からのお言葉を賜る」


 ミランダがその前で跪くと、観衆も誰となくその場で跪き、次々と人々はそれに倣った。聖都アルネリアにおいて聖女の威光は確かに存在するが、それがここまで強いとは住人でさえ思っていなかった。跪いたのは、ミリアザール本人の神々しさゆえだった。

 もちろん以前のミリアザールと、今のミリアザールが同一人物であることを諸侯の中には知っている者もいた。だが彼らでさえ、その違いには思わず瞠目せざるをえなかった。


「えーっと・・・そうなの、よね?」

「そりゃあそうでしょう。まさに女狐の所業。いや、しかしこれは」


 アルフィリースが自らの頬をつねり、リサがうろんげな視線を投げていると、ちらりとミリアザールがリサの方を見て、ふっと笑った。リサは今すぐ段上に出て行って、その脛を蹴り上げてやりたい衝動にかられた。


「なんという面の皮の厚さ。まさか全身すっぽりかぶれる程とは」

「そういう問題じゃないんじゃ・・・でも、どうやったんだろう?」

「そういう魔術はないのですか? 幻覚とか」

「なくはないけど。でもこれほど堂々と陽の光の当たるところで、これだけの人数を相手にするとなるとなぁ」

「この場にお集まりの皆さま」


 ミリアザールが静かに、しかしよく通る声で語り掛けた。会場はしんと静まりかえっていたので、その声にはっとしたように皆の意識が引き戻されていた。

 

「新しく聖女としての任を拝謁しました者にございます。知っての通り、聖女として就任後、私が歩んできた人生は全て忘れ、ただその時までを聖女として皆様とこの大陸の平和のために捧げる所存にございます。

 具体的な方策とはのちほど平和会議にて決定いたしますが、一つ伝えられることがございます。それは今現在アルネリアや諸国を脅かす脅威を取り除くため、合従軍を興すということ」


 その言葉に観衆がさざめいた。聖女が自ら戦争をすると告げたのだ。さすがに意味がわかった者も多く、観衆に動揺が広がるのをミリアザールが手を挙げて制した。


「お静かに――これは決定事項ですが、ただの戦争ではありません。諸国にはびこる魔物と、ひいてはそれを率いる魔王の掃討です。今まではアルネリアが中心となって引き受けておりましたが、どうやら今回の相手は相当悪知恵が回る様子。諸侯の力を借りて徹底的にいぶり出し、殲滅することに決定しました。

 具体的な方針はまた明日以降下達いたしますが、これが大戦期以降続く最後の聖戦とならんことを切に願います。しかしながら皆さまも見た通り、この度の統一武術大会には優れた戦士が多く馳せ参じ、その武勇を余すところなく披露していただけました。必ずやこの戦いは勝利で終わるでしょう――皆さまのお力添えと声援を、聖戦に赴く戦士たちにどうか惜しみなく送ってくださいませ」


 その言葉に多くの者が隣の者達の顔色を窺ったが、会場のいくつかから拍手と声援が巻き起こると、逸れに流されるように万雷の拍手が会場から降って来た。

 そもそもアルネリアは平和とはいえ、戦争をしていないわけではない。周辺騎士団や神殿騎士団は度々周辺諸国の紛争解決や魔物討伐のため出征しており、その度彼らの家族にもきちんと説明はなされている。また、戦死した時の補償や傷病手当なども手厚くなされてきたことで住人の多くは出征に対して忌避感がない。

 そしてミリアザールが語る『聖戦』という単語。最後に使われたのは数十年前の大魔王戦以来であり、それほどの覚悟で臨むことを多くの住人が察した。ならば彼らのすべきことは、戦地に赴く戦士たちに向けた声援である。この拍手はこれから戦いに赴く、全ての戦士に送られたものだった。


「ふむ、聖戦ときたか」

「最初の数名はアルネリアの関係者からの拍手でしたでしょうが、まさか聖戦とまで宣言するとは。アルネリアも本気ですわね」

「長期的な遠征――少なくとも年単位の出征となっても、これで多くの者が納得するだろう。アルネリアは単純な魔物討伐で終わらせる気はないな」


 ドライアンとミューゼがミリアザールの意図を察する。ミューゼはやや心配そうに、ドライアンの方を見た。


「つまり、北から寄せて来る魔物の討伐だけに終わらせるつもりはないと?」

「それを動かした者――黒の魔術士の掃討も一挙に行うつもりかもな」

「なんと。つまり、我々は巻き込まれたとでも?」

「そうかもしれん。多くの国がアルネリアを巻き込むつもりで、その実逃げられなくなったのだ。さて、もっとも青い顔をしているのは誰か」


 ドライアンの言葉通り、諸侯の中には青ざめている者も少なからずいた。その一人が、ローマンズランドのアンネクローゼだった。



続く

次回投稿は、5/4(火)22:00です。

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