戦争と平和、その699~統一武術大会、閉幕①~
「何もアレクサンドリアだけが対象だったわけじゃないんだけど。ね、レイファン?」
「ええ。諜報戦ならば、アレクサンドリアよりもどこ諸国よりも、私の手勢が優勢であることが証明されました。正面からの戦いではなく、裏方の仕掛けに集中してよかった」
「正面からの力押しならドライアン王に頼めばよいし、クルムス・グルーザルド連合が大陸では最強になりうることが証明されたわね」
「ええ。なればこそ、明日の平和会議最終日の趨勢が重要になりますが――」
レイファンは口ごもり、リサがその心中を察した。
「情報が何もないのでしょう?」
「え、ええ。もう少しシェーンセレノなどが動くと思っていたのですが。考えられるのは、既に大勢は決していて、思い通りになっている。あるいは――」
「どう転んでもどうとでもなる。あるいはどうでもいい、とかね」
アルフィリースが口にした可能性をリサが考えたが、首をひねってため息をついた。
「推論を重ねたところでしょうがないのですが、この平和会議で起こったことを総括すると、一つの仮説は出せます。昨晩コーウェンとも話していましたが、割と現実味がありそうです」
「多分、私もレイファンも同じ仮説を考えているけど、言ってみて」
「まず会議の最終目的はローマンズランドに対する合従軍。それが編成されるなら、参加する国はどうでもいい。出来る限り大規模な方がよいのでしょうが――そのために、最低でもシェーンセレノ一派、スウェンドル、浄儀白楽は結託していた」
「ほうほう」
「主戦論が展開されるために、一連の暗殺騒動が起きた。そのためにアレクサンドリアのナイツ・オブ・ナイツの一部隊が駆り出され、それはアレクサンドリアのディオーレとは一線を画していた。そして反戦派となるであろうアレクサンドリアを巻き込むために、使節長を殺害した。アルネリアにも納得させるために、ミランダを襲撃したりもしたのでしょう」
「ふむふむ」
「これら一連の流れに共通するのは、黒の魔術士の仕掛けと考えるのが妥当でしょう。浄儀白楽にはブラディマリアが、スウェンドルの元にはカラミティが。シェーンセレノの元には誰がいるのか知りませんが」
「剣の風らしいわ」
アルフィリースの言葉に、リサがぎょっとした。リサは噂としての剣の風のことは知っていたが、その名前がアルフィリースの口から飛び出るとは思ってもいなかった。
「その情報、誰から?」
「情報源は言えないけど、確かな筋よ。剣の風はシェーンセレノの協力者よ。それが誰か知らないけど、黒の魔術士と何らかのつながりがあるのならしっくりくるわ」
「剣の風とは、実在する誰かだと言うのですか?」
「ええ、多分人間の姿をしているわ」
「なんと・・・伝説の類とばかり思っていましたが」
リサがぶつぶつと何事かを口ごもっていたが、不意に顔を上げた。
「それでアルフィ。そこまで知っておきながら、今後の方針は変わりない?」
「もちろん。何なら、黒の魔術士には一部協力しちゃおうかなってくらいで――」
「ハァ? あなた、何を馬鹿なことを言っていますか!?」
「ああ、言い方が悪かったかしら。 正確には黒の魔術士じゃなくて――」
アルフィリースがとんでもないことを言い出したのでリサが窘めようとした瞬間、会場で再び拍手が巻き起こった。いつの間にか、褒章授与式の準備が整っていたようだった。
改めて決勝に出場した競技者四人、ライン、セイト、ディオーレ、エルシアが正装に身を包み、横並びになっていた。そしてその前にミランダとレーヴァンティンを模した剣が台座に鎮座し、もう一つは陽光を受けて虹色に光る短剣が飾られていた。
「あれは――魔晶石ですね。とんでもない者を持ちだすものです。アルネリアが秘匿しているものではないですか?」
「いえ、秘匿しているのは製法だそうよ。短剣だけなら大した意味は持たないはずだけど」
「魔力を流して初めて、とんでもない威力を発揮すると聞きましたが?」
「だから神殿騎士団は魔力を使えることが最低条件なのよね。ミランダに聞いたわ。ディオーレが持てばあるいは危険な武器かもしれないけど、エルシアじゃあね」
「魔術の素養は十人並みですから」
リサとアルフィリースがそんなことを言っていると、ミランダが祝いの言葉を述べ、褒章を授ける人物を呼び出した。アルフィリースはそこで誰が彼らに褒章を授けるかをはっと思い出したが、代理がやるのだろうとばかり思っていた。
だから、出てきた人物を見て我が目を疑ったのだ。そんなはずはないと。そして観衆はまた別の意味で目を奪われた。それこそ、エルシアやラインの優勝が霞んでしまうほどに衝撃的な人物がその場に現れたのだ。
続く
次回投稿は、5/2(日)22:00です。