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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その693~統一武術大会、女性部門決勝④~

「(良い目だ)」


 エルシアが正面から見据えてきたことに、少なからず驚くディオーレ。多くの対戦相手がディオーレに畏怖し、目を伏せがちになる。それはアレクサンドリア内ですら同じだった。あるいは、敵愾心を燃やして睨むような目つきになるのだが、エルシアの目つきは誰とも違っていた。


「(――何を見ているのか。私ではないな・・・私の先にあるものを見ているのか? そうか、私を踏み台にするつもりか)」


 ディオーレは思わずくすりと笑っていた。面と向かって立ってみれば小さいと呼ばれた自分とそれほど背丈の変わらぬ少女に、踏み台扱いされるのが可笑しかったからだ。

 

「よかろう、やってみるがいい」


 ディオーレの想いが、自然と口をついて出た。それが何を意図するのかエルシアは察して初めて驚いたような顔をしたが、それでも一言も会話をすることなく、ディオーレを睨み据えたまま数歩後退して構えていた。

 剣を目の前で掲げ目を閉じ、祈っているようにも見える構え。一見無駄に見えるその構えだが、ディオーレは油断せず慎重に盾を前に典型的な受けの構えを取った。ひりつくようなエルシアの剣気を受けていると、エルシアの性格など知らずとも彼女が攻撃的に仕掛けてくることは想像に易いのだ。


「(久しぶりだな、この感覚は。ただの剣士としてしか見られず挑まれるなど、いつぶりだろうか。ふふ、これも新鮮でよい)」

「――始め!」


 ミランダの注意事項、女子部門の決勝に上がって来た二人の紹介などはいつの間にか終わり、開始の合図がなされた。

 ディオーレはいつものように、防御の構えから相手の出方を見ようとした。だがその瞬間、総毛立ち思わず盾を正面に突き出していた。


「!」


 まずい、とすら思う暇もなく、エルシアの剣が飛んでくるように迫っていた。この間合いであれば、ラインの居合すらも受けることができるつもりでいた。かつてラインとの手合せで不覚を取りかけたのは、剣だけを持っていた時のことだ。盾を持っている状況では、ラインの居合すら弾く自信があった。

 だがそのディオーレの予想すら上回る、エルシアの突きの速度。観客が息を飲み、悲鳴すら上げる暇がない。弾かれるようにディオーレが後退し、エルシアもまたいったん距離を取る。そして観客が見たのは、右の瞼から血を流すディオーレだった。


「ああっ」

「ディオーレの顔が」


 ディオーレの顔の右半分が朱に染まる。ディオーレは血を拭ったが、出血は止まる様子がない。


「(深いな・・・皮だけでなく、一部肉に届いたか。試合中は右目は使い物にならんな。それどころか)」


 盾がかろうじてエルシアの刺突剣の腹を押し上げていなければ、右目は潰されていたはずだと、ディオーレは冷静に考えた。


「(試合に勝ちに来ているのではない、私を殺しに来ているな。その殺気たるや、よし。見た目の可憐さとは裏腹に、怖い女だ)」


 ディオーレ派は手と背中にじわりと汗をかいたのを感じ、ふふっと笑った。初手でここまでの一撃を受けたことはないが、エルシアはその成果に喜ぶでもなく、冷静にディオーレの様子を観察すると、ゆっくりとディオーレの右側に回り込んで距離を詰め始めた。

 しんとする会場に、エルシアのブーツの踵の音だけがコッ、コッと響く。


「(目が見えずともブーツの音でわかるが、はて、前の試合まではどうだったか――)」


 ディオーレが考え事をする暇すら与えないように、エルシアの移動速度が速くなる。貴賓席ではアルフィリースがその戦いを見守っていたが、リサは渋い顔をしてその戦いを見守っていた。


「アルフィ、何かエルシアに助言しましたか?」

「いえ? エルシアは自分で考えて自分で戦っているわ。彼女が私に助言を求めたことなんて、ほとんどないわよ」

「なるほど――でもアルフィに一番似ているのはエルシアかもしれませんね」

「そうかしら?」

「ええ。予想外のことをするところとか、あるいは思い切りでしょうか――さきほどの一撃、ディオーレを殺すつもりで放っています」

「でしょうね」


 リサの言葉にレイファンなどはぎょっとしたが、アルフィリースは平然と肯定した。


「そうでもする覚悟がなければ、普通は逆立ちしたって勝てない相手だわ。しかも相手は本気中の本気で、油断なんてない」

「そうでしょうか?」

「ディオーレが油断していると?」

「いえ、油断はないかもしれませんが、エルシアがそれほどディオーレに勝てないとは思えないのです」

「なぜ?」

「殺気の形」


 リサはエルシアを感知しながら、その恐ろしさを感じ取っていた。


「エルシアの殺気を感じているのはディオーレだけかもしれませんが、エルシアの殺気はあの刺突剣のごとく極細の針のような殺気です。それが何十とディオーレに突きつけられているように感じられます」

「それほどの殺気を?」

「アルフィ、あなた怪物を作りましたね。今まさに怪物が生まれようとしているのかもしれませんよ」

「怪物・・・ね」


 アルフィリースの見守る中、エルシアの攻撃が再度始まっていた。



続く

次回投稿は、4/20(火)23:00です。

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