戦争と平和、その691~統一武術大会、女性部門決勝②~
そうするうちにラインへの賞賛も一通り終了し、ラインは一度控室へと戻った。褒章授与式は、女子の試合が終了してからとなる。
そして女子の入場が促されたが、花道の方がどよめいていた。その反応に真っ先に反応したのはリサだった。
「アルフィ。そういえば、エルシアは念入りに何かを準備させていましたね? 何をさせるつもりですか?」
「いやぁ、ちょっとした驚きかな。発案者は私だけど、途中からはラーナ、フェンナ、ユーティの方がノリノリだったような」
「だから、何を?」
「ちょっと盛ってみたのよ。結構見れる感じに仕上がっているはずだけど・・・こんなにどよめくほどに仕掛けたかなぁ?」
アルフィリースもまた首をかしげていると、まず段上に登場したのはディオーレだけだった。ディオーレはアレクサンドリアの正式な騎士の装束を装備していたが、その表情にはやや疲れと、そして戸惑いが見えた。
そして後ろをちらりと見ると、そのままミランダの近くに歩いてきた。ミランダもディオーレが一人で段上に登場した理由がわからず、首を傾げた。
「エルシアは?」
「ふむ、やはりアルネリア側の意図ではなかったか。中々度胸のある少女だ。それともただの悪戯妖精か」
「何のことかしら?」
「すぐわかる。統一武術大会の決勝は何度も経験したが、まさか引き立て役にされるとは思わなかった」
「?」
ディオーレの言葉の意味を、段上に登って来たエルシアを見てミランダはすぐに知ることとなった。
***
ラインの試合が終わった直後のこと。出番を待つエルシアの頭上に、ふわりとユーティが舞い降りた。
普通はユーティなどの妖精が舞い飛ぶようなこととなれば観衆はざわめくが、この数日間でユーティは散々盛り場で民衆たちと飲み明かしており、もはや彼女の姿に驚く観客も少ないほど、彼女の存在は有名になっていた。
普段エルシアと仲の良いユーティは、こんな時でも平然と彼女をからかうのだ。
「やっほー、緊張してる?」
「別に」
「本当? 緊張しているなら、そう言っていいのよ?」
「緊張――しているかもしれないわね。でもそれは良い意味でのことよ。相手を倒すことしか頭にないから」
「・・・ほほう」
エルシアの表情を見て、ユーティは彼女の充実ぶりを知った。多少の冷やかしにもからかいにも動じない集中力。これならさらに演出を付け加えても問題ないと思ったのだ。
「ときにエルシア、フードとローブはぎりぎりまで取らないつもりね?」
「それも演出でしょう? 今の衣装でも動きやすさには問題がないから、ぎりぎりまでそうしなさいってラーナとフェンナが――」
「ふふん、ならいいわ。ちょっとこっちに来なさい」
「え、もうすぐ入場――」
「構やしないわ、何かあったら私のせいにしなさいな。ディオーレ、悪いけど先に入場してくれる? ちょっとした演出をするわ!」
ユーティがディオーレを指さし、ディオーレが呆気にとられる間にユーティはエルシアを押すようにして先に花道を押し通り控室の方に向かっていった。
ディオーレは一人取り残されたが、しばらくして入場の合図があると、やむなく一人で花道へと向かっていった。エルシアを待つようにわざとゆっくり向かったが、階段を昇る時に後ろからエルシアが控室から出て来たのを見ると、納得したように登ったのだった。
***
また控室に戻ったラインは、そこで繰り広げられている光景を見て優勝した感慨がどこかに行くほどに驚いていた。
「お前ら・・・何やってんだ?」
「仕込みよ、仕込み! こっち見んな、スケコマシ!」
「いや、お前らが勝手に控室にいるんであって・・・それよりも、なるほどなぁ。そう来たか」
ラインは顎に手を当てて、納得したように頷いた。
「これもアルフィリースの入れ知恵か?」
「発案者アルフィリース、フィーチャリングはラーナ、衣装デザインはフェンナ、演出は私」
「なんだそりゃ。どこの芸人だ」
「仕上げをごろうじろってね。任せなさい、副長の優勝なんて吹き飛ばすくらいの衝撃を与えてやるわ!」
「それはそうと、副長」
エルシアが真剣な表情でラインに質問したので、ラインもまた答えてやった。
「・・・ま、予想通りではなかったわな」
「そう。でもいいわ、形はできた」
「ディオーレ様を倒すのか?」
「そのつもりでなきゃあ、戦えないわ。立ち塞がる者は全て倒す。その覚悟があるから、傭兵になってここにいるのよ」
エルシアが控室を出ていく様子を見て、ラインは感心していた。これから彼女がどういう道を歩むのか知らないが、確実にイェーガーの中核を担う人材になると思ったからだ。
「あの抜け目のなさ、俺の代わりもできるかもなぁ・・・いや、俺が女だったらあんな感じなのか? いや、ちょっと美人過ぎるか」
などと、ラインはくだらないことを真剣に呟いていたのだった。
続く
次回投稿は、4/16(金)23:00です。