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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その687~統一武術大会、総合部門決勝④~

「どうした、両者。動いて――」


 仕掛けない2人に業を煮やしたミランダが注意を与えようとした瞬間、セイトが動いた。まさに黒い疾風とでも例えるべき速度に、ミランダが煽られて足がもつれそうになる。

 一気に間合いを詰めたセイトだが、繰り出された攻撃は意外にも小さかった。間合いを測るような小さな左手と右手の一撃。ラインは難なくそれを盾で防御し、ラインが一歩前に出ようとしてセイトが飛び退く。

 そして再度間合いを取り直すと、セイトが同じ行動を繰り返した。大きな動きがあるかと期待した観衆だが、突っつき合うようなセイトの攻撃に、やがて不満の声が上がりだす。


「乳繰り合ってんじゃねぇんだぞ!」

「お前ら仲良しか!?」

「真面目にやれぇ!」


 最初はラインもやや意外そうにしたが、すぐに気を引き締めていた。その様子を見て、リサが納得したように頷いた。


「なるほど、ラインのごとき不埒者に対抗する手段ですか。正統派としては妥当ですね」

「ええ、セイトらしいわ」

「あの、何が起きているんです?」


 理由のわからないレイファンが質問し、リサが答えた。


「わずか――ほんのわずかですが、セイトの攻撃の間が狭まっています。それこそ一呼吸の百分の一くらいずつですが。着実に早くなっているのですよ」

「そして厄介なのはもう一つ」

「ええ、セイトの拳の軌道です」

「拳の軌道?」 


 それにはノラも理由がわからず首を傾げたが、対戦相手であるラインが一番それを実感していた。ラインはセイトとはそれほど組手をしたことがないが、基本に愚直な相手程恐ろしいものはないと知っていた。

 そう、例えば一日千回「まったく同じ軌道で」拳を突きだす練習をする相手とかだ。


「(くそったれ! 右拳と左拳が、最短距離を同じ軌道で飛んできやがる! よけにくいったらありゃしねぇ)」


 ラインは盾を装備してはいるが、基本防御は「避ける」と「いなす」だった。「受ける」と防御一辺倒になるが、避けたりいなしたりすれば、それは攻撃につながる。セイトの速度に慣れるまで一撃で倒されないように盾を選択したラインだが、思うようには戦いが進んでいなかった。


「(ちぃ、やりたくもねぇ盾まで持ち出したってのによ。これで勝ったらアルフィリースに嫌味の一つも言えるだろうが、負けたらただの馬鹿じゃねーか!)」


 ラインの攻撃を避けようとしても、避けた時本能で体を戻す位置に拳が飛んでくる。そしてセイトの回転が徐々に上がっていることにもラインは気付いていた。


「なぁ、イブラン。ライン殿の盾の戦法を見たことがあるか?」

「・・・知らんな」


 イブランも見たことがない。ディオーレの元で戦っている時、もちろん集団戦術としての盾は用いるが、一対一の戦いでラインが盾を用いているのは、訓練の時から一度も見たことがなかった。

 もちろんラインの訓練生時代のことは知らないが、戦い方を見るにある程度以上には熟達しているようだ。だがこの戦いで持ち出すほどに熟達しているようには見えなかった。


「(なぜここでその戦い方を? 騎士時代の戦い方をするのは避けていたのではなかったのですか? そしてそんな付け焼き刃でこの決勝を戦おうとしているのなら、幻滅ですよ――)」


 それでもラインのことだから、何かがあるのだろうと思ってはいたが、その前にセイトの攻撃の回転が目に見えて上がりだした。

 セイトの動きが前後に、左右に軽快に刻み始めていた。そしてセイトの動きが一瞬見えないほどに早くなったかと思うと、タタタタタァン! と音が鳴り響きラインが盾を構えたままの姿勢で人一人分ほど後退した。

 その動きは誰もが見逃すほど速く、観衆は一気に盛り上がった。


「おおおお!」

「やれば出来るじゃねぇか!」

「いいぞ、いけぇ!」


 観衆の盛り上がりに応えるように、セイトの足が軽快に動き始める。その速度はまさにヤオのように速く、まるでセイトが分裂しているように動き始めていた。


「あの体格でヤオ並みに動くか」

「姉さん、違う。私と違ってさらに緩急が混じっている。それに、拳の動きも直線じゃない。私がやりたかった、まさにそれ。速度は私の方が早いだろうけど、それにしても――」

「ほっほ、あれは拳で戦う者が理想とする一つの極致じゃわい。あの年で至りつつあるとはのぅ」


 ニアとヤオの会話に加わったのは、五賢者のゴーラである。ゴーラが手放しで賞賛したことにぎょっとする2人。


「理想の極致――そこまでセイトが至っていると?」

「ま、理想の一つにしかすぎず、それもまだまだ未熟じゃがのぅ。じゃがそこまで到達している者は獣将でも半分おらんぞ。そしてセイトの攻撃はさらに次の段階に至ろうとしておる。相手の人間を見よ」


 ゴーラの示した先で、ラインが鼻血を出していた。あっとニアが声を出した。


「まさか、盾を貫通しての遠当て? あんなに早い連撃で?」

「全弾じゃないわ。八発撃ったうちの、二発目と六発目――それが小さい遠当てじゃった。遠当てはついつい距離を競う者が多くなりがちじゃが、ほんの小さな一撃を連撃の中に混ぜよった。鎧や盾で防御する人間にはとんでもなく有効な一撃となろうな」

「――直接、内臓を攻撃できる? 防具に関係なく?」

「じゃろうが、恐ろしい技術じゃて。効果のほどがわからんから、セイトも試してみただけじゃろうな。まさか相手を殺してしまってはいかんからの。じゃが手ごたえを確認した以上、次からは連続で行くぞい」


 ゴーラの予想通り、セイトの攻撃がさらに加速した。



続く

次回投稿は、4/6(火)24:00です。

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