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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その686~統一武術大会、総合部門決勝③~

「あぁ、せっかくの衣装なのに外してしまうのですね」

「馬子にも衣装でしょうし」

「いえ、とても格好良いかと」


 レイファンがうっとりしていたので、皮肉を言ったノラはレイファンの見ていないところで「けっ」と吐き捨てるように嫌な表情をアルフィリースにしてみせた。もちろんノラ、アルフィリース、リサしかいないことを受けてのレイファンの気の抜き様なのだが、それにしても惚気がひどいとアルフィリースに訴えてきたのだ。

 アルフィリースとしてもどう返すべきかわからず、苦笑いをするのみだった。一方でリサが冷静に彼らの恰好を感知し、感想を述べた。


「・・・わざわざ作らせたのは、あの衣装ですか? 昨晩、ドワーフとエルフとシーカーが徹夜をしていたようですが」

「これからイェーガーも大口の依頼が多くなるわ。貴族を相手にするには、格好も整えないとね。素案は元から作らせておいたものよ。まさか準決勝以上にこれだけの人数が残るとは思わなかったけど」

「今日の夜会でも必要でしょうし、ま、悪くはないでしょう。しかしアルフィ、ここから先の予定を私は聞いていません。打ち合わせはしてもらえるのでしょうね?」

「ええ、もちろん。誰が優勝するかで少し変わるけど」

「予想は?」


 リサの答えにアルフィリースは企み深そうな顔をしつつ、満面の笑みで返した。ああ、これは完全に楽しんでいるな、とリサにはわかったので、ただため息をついた。

 そのリサの意識が、ラインの行動で引き戻される。ラインが手に取った武器に会場がざわめくと、アルフィリースもレイファンも、ノラも目を丸くしていた。


「・・・なるほど、そう来たか」

「予想通りや入れ知恵ではないのですか?」

「そんなわけないでしょ? 最初は用意したシード枠を断ったラインよ? それに自分の手札を私にも隠しているのだもの。助言のしようがないわ」


 ラインが手に取った武器は、剣と盾。腕がすっぽりと入るくらいのやや大きめの盾に、セイトも目を丸くしていた。


「――副団長殿。それは奇策か、それともそちらが本来の武器なのか」

「いや、言うと思うか?」

「――いや、愚問でした。忘れてください」


 セイトはラインの戦い方を、できる限り思い出さないようにしていた。ラインは相手が自分のことをどう思っているか、あるいはどう分析するかを予測して先回りする。つまり、ラインの手札を読もうとすればするほどに、泥沼にはまると予想した。

 そうなると、やるべきことは一つ。相手のことより、自分のあるべき力を十全に発揮すること。それのみを考え、ここまで余計な情報を頭に入れないように、試みだされないように準備してきた。

 だがどうあっても、ラインは対戦相手と心理戦がしたいらしい。そのことが有効であることを、セイトははっきりと認めていた。


「(やはり戦い上手だ。これほどの戦い上手を、いまだかつて見たことがない。戦うとなると、獣人の大隊よりも恐ろしいかもしれない)」

「さて、準備はいいかしら? それでは――」


 ミランダが両手を天に向ける。セイトは最初から拳を上げて構えを取り、逆にラインはとんとんと軽快に足を踏み鳴らし、剣と盾をがんがん、と突き合わせて意欲十分なところを見せる。


「――始め!」


 ミランダの号令とともに、観客席が一斉に歓声を上げた。過去最大規模、最高の名誉が待ち受ける統一武術大会の決勝は、最高の盛り上がりと逆に静かな立ち上がりだった。

 セイトはゆっくりとラインの周りを回り、ラインはセイトに正対しながらその様子を観察する。

 イェーガーの面々はその様子を固唾を飲んで見守った。


「どちらが先に仕掛ける?」

「そりゃあセイトだろうが、ライン副長の罠が怖くて仕掛けられないんじゃ?」

「まぁせっかくの決勝だし、慎重に仕掛けるわな」

「いえ、セイト殿は最初で終わらせる気でした」


 エアリアル、フローレンシア、ロゼッタの意見を否定したのは、入団したてのシャイア。彼女は先の戦いの怪我からかなり回復しており、無事に歩けるようになっていた。それは彼女とゴーラの気功を用いた回復と、ユーティの適切な治療ありきのことだった。それでもまだ歩くことが精一杯だが、この決勝はいち武芸者として、這ってでも見たかったのだ。

 シャイアは私見を述べる。


「私は伝え聞いただけですが、副長殿は策士。ならば何もさせずに、初手で一撃必倒するのがもっとも安全でしょう。そのためにここまで気を練っていたと見えます」

「ああ。だが副長殿の盾を見てやめたのだ。仮に受けられても遠当てで衝撃を貫通させられるだろうが、その先が読めない。博打をする種類の戦士には見えないな」


 相槌を打ったのは同じく回復したウルスだった。彼女もまた気功の使い手として、セイトの戦法を読んだのだろう。ロゼッタが不満を漏らす。


「どうしてそんなことがわかるんだよ。勘か?」

「勘でもわかる者はいるだろうが、気の流れを読めばよりはっきりとした根拠がわかる。私もそこのシャイアも同じく気功の使い手だ。セイトとやらも無意識のうちに使い始めている――おそらくは副長殿も」

「ええ、お二人とも天性ですね。見た目よりも複雑な戦いになるかもしれません」

「んだよぉ、アタシにゃわかんねーぞ? ならしばらく睨めっこかぁ?」

「いや――」

「動きます」


 ウルスとシャイアは、2人の気の流れを読んでいた。どちらが仕掛ける気でいるかは、明白だったのだ。



続く

次回投稿は、4/6(火)24:00です。

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