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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その685~統一武術大会、総合部門決勝②~

 花道の両隣からは、盛大な歓声が贈られる。その中を堂々と歩く二人が輝いて見えたのは、中天にある陽の光を雨上がりの地面が受けただけではなかっただろう。この日のためにこしらえた、2人の正装が陽光に映えていたからだ。

 ラインは全身を銀の鎧に包み、左肩から小手にかけて棘の様な突起で覆っていた。胸当てはあるが、腰回りなどは鎖帷子であり、全身鎧とするよりも軽装による機動性を重視した造りだった。

 一方でセイトは銀の胸当てで心臓を守り、両腕の銀の小手が黒の体毛に映えていっそ神々しくさえ見えた。それは、セイトが戦いを通じて獲得してきた威厳のような空気を纏い始めていることからも、よく似合っていた。

 そして揃いのマントは、黒に銀の刺繍だった。ブラックホークに似るのではという意見もあったが、アルフィリースの髪色を反映させたいという声が多かったのだ。

 多くの者が2人の恰好を見て唸り、堂々と佇む2人を見てこれらの製作に関わったドワーフ、シーカー、エルフたちが指を立ててその出来にほくそ笑んでいた。


「精悍なものだ。立場が人を作る、か」

「急になんだ、レオニード」


 獣人たちの先頭にいたレオニードが呟いた。隣にいたヤオが、その言葉を耳ざとく拾う。レオニードはグルーザルドから派遣された獣人のまとめ役のような立場だったが、特にセイトとは親しくなかったはずだった。大人しく静かなセイトは孤立しがちで、体格も大きく何事につけても豪快なレオニードは皆の中心にいることが多かった。レオニードは特にセイトを無視するでもないが、和に入ることを促しもしなかった。それはセイトを無視するというよりは、その個性を尊重している様にも見えたが、果たして内心はどうだったのか。

 レオニードは羨むような目つきでセイトを見つめていた。


「正直、セイトのことを侮っていた」

「そうなのか? 別に他の者のように小馬鹿にしていたわけではないだろう」

「口にはしないが、内心はそう差がなかった。我々の輪にも加わらず、勝ち負けにもこだわらず、常に黙々と鍛練を積むあいつを見て、変わり者の小心者と思っていたよ。だが違ったのだな。あれはぐ、ぐ・・・」

「求道者だろう?」

「それだ。なんだ、難しい言葉を知っているのだな」

「心配するな、私もついこの前学んだばかりだ」


 ニアとの会話の中で、セイトを表すぴったりな言葉をたまたま知ったヤオである。レオニードはそのヤオの素直さを褒めた。


「我々に必要なのは、その飾らぬ姿勢だな。見栄は何ら光明をもたらさん」

「それは同感だ」

「見ろ、あの堂々とした態度を。陰気な黒の毛並みよと思っていたが、陽の光を浴びて輝いているではないか。あいつが俺たちの代の獣王になるのかもな」

「・・・勘付いていたのか?」


 レオニードは鼻を鳴らす。


「今回派遣された面々を見て、意識しない方がおかしかろう。同世代として、それなりに名を馳せたり実績を積んだ連中の半分以上がここに参加している。ならばここから獣将、あるいは獣王が誕生すると考えるのが自然ではないのか。

 だが俺も諦めたわけじゃない。今は一歩も二歩も後塵を拝したが、やがて追い越すのみ」

「同感だ。だが今は――」

「ああ、全力で応援してやるさ。獣人が人間の武術大会で優勝するのは、痛快だからな」


 知らず、獣人たちの期待を一身に受けることになったセイト。

 二人が花道を歩き、会場につくとそこには今までで一番の声援が、まるで振ってくるように沸き上がった。どちらとなく、2人は足を止めてその声援をその身に受けた。


「・・・すげぇな」

「ああ、戦に出陣する時でさえ、これほどの声援を受けることはない」

「皮肉なもんだ。かつて望んだ光景を、騎士としてではなく、傭兵として体験するとはな」

「イェーガーの副団長であるなら、これからも同じように受けるかもしれないぞ?」

「そいつはどうかな? 団長はアルフィリースだ。受けるとしたら、これ以上の声援か、あるいはとんでもねぇ罵声と恨みつらみの声だ」

「なるほど、今は少し理解できる」


 2人はふっと笑うと、一つ一つの階段を踏みしめるように上がっていった。

 段上に到着すると、そこにいた審判はミランダだった。いつもなら一つくらい茶化してきそうなミランダだが、今日ばかりは厳めしくも晴れやかな表情で二人を出迎えた。


「――よくぞここまでたどり着きました、戦士よ」


 ともすれば尊大にも聞こえる言葉が妙に似合うものだと、ラインは思わず吹き出しそうになる自分を堪えた。多少なりともこの決勝戦に憧れと厳粛な気持ち、そして緊張感がなければ、我慢はできなかっただろう。最初に出会った頃は猫を被った粗暴なシスターだとしか思っていなかったが、その演技力にはむしろ感心していた。だがあるいは、こちらが本来なのかもしれないとラインはふと思う。

 セイトといえば、ただ冷静にミランダの話を聞いていた。


「ここまで戦ってきた両者に、特別説明することもないでしょう。ルールは同じ、制限時間はなし。ただ両者に決め手がない場合、一定時間の経過ごとに風船を一つ割っていきます。何か質問は?」


 2人は首を小さく横に振ると、ミランダが頷いた。


「では両者武器を取りなさい」


 ミランダが武器置き場に2人を誘導した。今回の試合で違うのは、武器は最初から会場に揃えていることくらいだった。そしてせっかくの格好だが、儀典用でもありまた決勝のために拵えたために2人とも慣れた格好にするため一度外していた。

 それを見たレイファンがため息をついた。



続く

次回投稿は、4/4(日)24:00です。夜投稿に移行します。

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