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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
2148/2685

戦争と平和、その684~統一武術大会、総合部門決勝①~

明日、コミック第一巻発売です! そちらもよろしくお願いします。

***


「いよぅ、セイト。昨日はよく眠れたかよ?」

「・・・熟睡ではないが、それなりには」

「なんだぁ? 戦いの前の高揚ってやつか? そんな肝っ玉で大丈夫か?」

「武者震いというやつだ。心配しなくても、試合には影響がない」

「なら結構だ。あとで言い訳されても困るしな」

「副長こそ。負けた時の言い訳は考えてきたか?」

「言うねぇ」


 ――統一武術大会決勝――


 競技者同士のコイントスにより、順序は総合部門、女性部門の順となった。昨日同様、競技場に入る前には一段高くした花道が造られ、ラインとセイトはその上にいて、ゆっくりと出番を待っている。ラインは胡坐をかき、セイトは腕を組んで仁王立ちしている。

 花道にはどこでかき集められたのか、艶やかな踊り子たちが楽団の太鼓や弦楽に合わせて舞を踊り、観衆を楽しませていた。これはアルフィリースの伝手でターラムから呼び寄せた踊り子たちなのだが、滅多に見ることのない美姫たちに観衆は盛大に盛り上がっていた。その中にはルナティカ、ヴァトルカ、ジェミャカも混じっている。


「マジか。なんで私たちがこんなこと」

「ジェミャカが『暇だから仕事を寄越せ』なんて団長に言うからでしょう? それに元々銀の一族では舞は戦姫たちの仕事でもあり、戦いに捧げる踊りでもあります。戦うのは競技者同士ですが、意味は間違ってはいない」

「真面目か! お前もなんとか言えよ、ルナティカ」

「踊りは好き。それに、報酬は出る」

「どんな報酬よ?」

「ラックが作った焼き串食べ放題」

「乗ったぁ!」

「・・・チョロい」

「なんと情けない」


 食事につられてあっさりと気力を取り戻したジェミャカを見て、ヴァトルカが意気消沈し、ルナティカは淡々と舞い続ける。とはいえ、疲れ知らずの三人の踊りは見事なもので、舞の美しさという点で観衆をもっとも楽しませていたのは、この三人であることに違いはなかった。

 そのうちジェミャカが観衆の中に、ラスカルがいるのを見かけて手を振った。ジェミャカは踊り手らしくスリットの空いた長いスカートに、手首と肩で固定した長いバンドで靡かせながら踊る様は、まさに等身大の妖精としか言いようのない幻想的な光景だった。

 ラスカルがジェミャカと目が合って顔を赤らめると、ジェミャカは楽しそうに笑ったのだ。


「くっくっく。かーわいいなぁ」

「ジェミャカ。弄ぶのは可哀想ですよ」

「弄んではないよ。割と真面目にデートしたよ?」

「えっ?」

「言ったじゃん、番候補だって。良い男になるぞ、あれ。私はこれと決めたら結構一途だぞ? ヴァトルカも早く番を見つけなよ」


 そう言って熱烈に腰を振りながら踊りの段階を引き上げるジェミャカを見て、ヴァトルカはしばしの間ぽかんとしていた。


「・・・おや? 番がいないのは、まさか私だけですか?」

「考える過ぎると、遅れる。時には勢いも大事」

「くっ、そんな説教を受けるとは」


 そんな他愛もない話を銀の戦姫たちがするのも、祭りゆえだったろうか。ラインには珍しく、笑顔で彼女たちの舞を見ていた。


「いいもんだ」

「何がだ」

「かつて騎士として目指した光景は、こういった平和な光景だ。穏やかな平和があるからこそ、戦いで体を張る価値もある。そう思わねぇか?」

「それは同感だ。あの輪に加わるよりは、自分で体を張る方が性に合っていそうなのが少々残念だが」

「いいんだよ、見ているだけでも俺は幸せさ。戦うのが好きってわけじゃねぇ」

「それも同感だ。俺も戦いは好きではない」

「獣人らしからぬ意見だな」


 ラインの皮肉も、セイトはさらりと受け流す。


「戦いが好きな者など、碌な者ではない。何のために戦うのかを忘れると、ただの狂戦士になり下がる」

「それは将来の為政者としての意見かよ?」

「・・・なんの話だ?」


 セイトが空とぼけたが、ラインはひらひらと手を振った。


「いいんだよ、俺とアルフィリースには隠さなくても。俺たちはもう気付いてる」

「・・・そうか。だがそれは関係ない、あくまで個人の意見だ。獣人はもう一段階進むべきだ。人間の世界で長く暮らしている我々が、その先駆けになればいいと思っている。現時点で、どう考えても人間の方が思考力も文化力も上だからな。素直に劣っている点は学ぶべきだ」

「どうだかな。人間は賢いのと愚か者の差が激しすぎる気もするがね。俺は獣人の方が素直だと思っている」

「皮肉か?」

「いや、割と大真面目だ」

 

 そんな言葉のうちに、会場から太鼓の大きな音が一つ響いた。それを合図に演奏が鳴りやみ、踊り子たちがするすると下がっていく。ラインはゆっくりと立ち上がり、セイトは組んだ腕を下ろした。


「さて。ただ今ばかりは馬鹿でいてぇな。ややこしいことや、余計な感情はなしだ」

「同感だ。ただ己の全力を尽くすのみ」

「勝っても負けても恨みっこなしな」

「遠慮はしないぞ、ライン副団長」

「たりめーだ。野暮な真似はすんなよ?」


 二人は拳を合わせると、二つ目の太鼓で同時に会場に向かって歩き出していた。



続く

次回投稿は、4/2(金)6:00です。


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