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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第二章~手を取り合う者達~
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ジェイクの新しい生活、その11~和解~

「よう」

「・・・どうも」


 2人きりになり、どこかぎこちないジェイクとデュートヒルデ。ジェイクは部屋に入ったまま、その場に突っ立っている。


「・・・お座りになったらいかがです?」

「そうだな」


 ジェイクがデュートヒルデのベッドに座る。デュートヒルデは「椅子に」という意味で言ったのだが、ジェイクはそんな事を考えなかったようだ。手を伸ばせば顔に届きそうな距離にジェイクがいることにデュートヒルデは緊張するが、そこまで悪い気はしなかった。ジェイクに悪気が無い事は知っているし、彼はこういう無遠慮な性格なんだと思うことにしたのだ。にしても、いつものデュートヒルデなら間違いなく抗議しただろう。今はジェイクに対する恩と、彼となんとか歩み寄ろうとする気持ちがあるから何も言わない、言えないだけだ。


「・・・」

「・・・」


 沈黙が部屋に漂う。どちらも話の切り口を探しているのか、何も言わなかったが、


「「あの!」」


 いざ話すとなると同時だった。この2人は、自分達で思うより似た者同士なのかもしれない。


「お前から話せよ」

「いえ、ジェイクさんからどうぞ」

「いーや、くるくるからだ」

「そのくるくるをやめなさいと言ってるでしょう!?」


 うー、と言い合いになりそうな2人が睨み合う。そして、同時にため息をついた。


「どうしてワタクシ達はこうなのかしら」

「気が合わないんじゃね?」

「まあそうだとしても・・・いつまでもいがみ合うのは嫌ですわ」

「それは同感だな」


 ジェイクが頷く。


「でさ。くるくるはこの後どうしたい?」

「どう、とは?」


 ジェイクの問いの意味がわからず、デュートヒルデは聞き返す。


「だから学園に来たいかって事だよ。色々あったけどさ、俺はこのままくるくるを仲間外れにしたいわけじゃないんだ。そりゃ俺は今でもお前がネリィにやったことは許せないけどさ、それを決めるのは俺じゃなくてネリィだと思うんだ。それに、俺もくるくると話をせずに色々やりすぎたと思うし・・・だから、くるくるがネリィに謝ってくれるなら、俺としてはくるくるの味方をしたいと思うんだ」

「ジェイクさん・・・」


 ジェイクが少し横を見ながら、気まずそうに話す。ジェイクもこういった状況に慣れておらず、素直に謝りにくかったのだ。彼にとっては、アルベルトに向かって行くよりも難しい思いでこの場に臨んでいた。

 そんなジェイクの態度に、なんとなく親近感と話しやすさを覚えるデュートヒルデ。


「そうですわね・・・ワタクシとしても、ネリィさんを傷つける気は毛頭ありませんでしたの。正直、あんなことになるとは思っていませんでしたわ」

「でも、俺には水かけるつもりだったんだ?」


 ジェイクが意地悪く切り返す。その言葉にデュートヒルデがしどろもどろになる。


「そ、それは・・・まあ、男の子ですし、殺しても死ななさそうですし・・・」

「やっぱひどいやつだな、お前」

「そ、それは・・・! でも正直、本当にやるとは思っていませんでしたわ。私も別の入り口から教室に入ったばかりでしたので、事態の把握もできていなくて。ですけど、それはワタクシがまいた種。きっちり責任は取りますわ」

「ふぅん。なら学園に来る?」

「ええ、明日にでも」


 その言葉にジェイクは大きく背伸びと深呼吸をして、安堵感を示した。


「ああよかったぁ~。このままだと色々気まずいなと思ってたんだよ! これで万事解決かな?」

「ネリィさんは許してくれるでしょうか?」

「それは問題ないと思う。あいつは嫌な事があっても、寝て起きたら忘れる人間だから」


 ジェイクが腕を組んでうんうんと頷く。その仕草に、デュートヒルデがくすりと笑う。


「今にして思えば、どうしてジェイクさんのことを憎く思ったのか、よくわからなくなってきましたわ」

「なんだ、くるくるは面倒くさい奴だな」

「随分な言いようですわね」


 デュートヒルデがむくれてみせるが、ジェイクはそんな彼女を一切気にかけない。ジェイクがこういう人間だからこそ、デュートヒルデは腹が立ったのだろう。今まで良くも悪くも、公爵家令嬢であるデュートヒルデの一挙一動には周囲の人間が皆反応した。だがデュートヒルデにとって、ジェイクは今まで出会ったどの人間とも違っており、彼女の事がまるで目に入らないかのような態度を取った。デュートヒルデは自分でも気がつかないまま、ジェイクの気を引きたかったのかもしれない。方法は稚拙かつ間違っているけども。

 ジェイクはベッドにごろんと横になって話し続ける。そのまま後ろに倒れたので、ちょうどデュートヒルデの膝の辺りに頭がいったのだが、またしてもジェイクは全く気にしていない。


「ちょ、ちょっと! どこに頭を・・・」

「そりゃ言われても仕方ないだろ? ロッテにもちょっかい出してたんだから」

「それは・・・」


 デュートヒルデがもごもごと口ごもる。


「ロッテにもちゃんと謝れよな?」

「もちろんですわ! 一度やると決めたら、中途半端は嫌いですの!」

「はは、その意気だ!」


 ジェイクがデュートヒルデの顔を見上げる。


「でもなんでお前、ロッテの事虐めてたんだ?」

「それは・・・お恥ずかしい話、彼女が可愛い可愛いと、皆が褒めそやすものですから・・・つい」

「なんだ、ただの嫉妬か」


 ジェイクが遠慮なくずけずけと言ったので、デュートヒルデは恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にした。


「それはそうとも言いますけど・・・」

「そんな嫉妬する必要ないって。くるくるだって可愛いわけだし」

「え?」


 ジェイクがなんと言ったのかわからず、デュートヒルデは思わず聞き返した。


「今何と?」

「え、俺はくるくるが可愛いと思うって言ったんだ」


 ジェイクが躊躇なしに言ったので、デュートヒルデは今度は照れで顔を真っ赤にした。貴族達に遠回しな美辞麗句で褒められたことは幾度となくあっても、こう直接的に面と向かって言われた事はデュートヒルデとて一度もない。混乱のあまり、自分が何を言っているかわからなくなるデュートヒルデ。


「あ、あの、その、ワ、ワタクシのどこが、か、可愛いんですの?」

「だいたい全部」


 あっさり何の含みも無しに言い放つジェイクが、起き上がってデュートヒルデの顔をまじまじと見る。


「肌は白いし綺麗だし、髪もすごくいいと思うんだ。眼も綺麗だしな。その髪型はどうかと思うけどな」

「こ、これはワタクシの国では流行ってますの!」

「ふ~ん、朝起きた後面倒くさそう」


 ジェイクがそう言いながらデュートヒルデの髪を触ったので、その時、彼の手がデュートヒルデの頬に触れた。


「ひゃわぁ!」

「何変な声を上げてんだ?」

「貴方こそ、淑女に何をなさいますの!?」


 デュートヒルデがますますもって顔を真っ赤にした。熟れたトウカラの実よりも赤い。だが、ジェイクにはなぜデュートヒルデが真っ赤になっているかなど、そんなことに気がつくような人間ではない。リサの事に関してだけは鋭いが、その他にはてんで鈍いのだ。


「大丈夫かくるくる? お前、顔が真っ赤だぞ?」

「だ、誰のせいだ、だと」

「? わけのわかんないことを。また熱が出たのかな」


 そう言ってジェイクがおでこをデュートヒルデのおでこに正面から当てたので、2人の顔がとても接近する。


「ひ、ひ、はふぅ・・・」

「お、おいくるくる!?」


 デュートヒルデが限界だといわんばかりにベッドに倒れ込んだ。思わず支えようとして、デュートヒルデを抱きかかえる形になるジェイク。その状況に朦朧として来たデュートヒルデが、自分でも良くわからない事を口走り始めた。


「そ、そんな・・・早すぎますわ。まだワタクシ達は・・・」

「何訳の分かんない事言ってやがる。あーもう、面倒臭い」

「何をちちくり合っているんですか、子ども達が」

「おおう!?」


 後ろから不意に声がしたので、ジェイクもさすがにびっくりする。


「なんだ梔子か。部屋に音もなく忍び込むのを止めろよな」

「なんだとは随分な言いようですね、ジェイク。これが習慣なのだから仕方ないでしょう? それよりもデュートヒルデ様、ここに軽食と飲み物を置いておきます。これを食べて寝れば、明日の朝にはすっかり元通りでしょう。その後御自宅までお送りしますので、学園には午後からでもいけるでしょう。そのように手配してよろしいでしょうか?」

「もう好きにしてください・・・」


 とてもまともな状態でデュートヒルデが返事をしたようには見えなかったが、梔子は一礼をしてそのまま部屋を出て行った。

 まだジェイクの腕の中でデュートヒルデはぐったりしている。


「・・・まあ色々あったけど、俺達、これから友達ってことでいいよな?」

「友達・・・そうですわね」


 デュートヒルデがやっと正気を取り戻しかける。どうにも引っかかりを覚えたような気もした彼女だが、まあそれは気にしないことにした。


「じゃあこれからよろしくな。あ、俺の事は呼び捨てにしろよな?」

「ではワタクシも『ヒルデ』とお呼びくださいな。親しい人にはそう呼んでいただくことにしていますの。貴方にも特別にそう呼ばせる許可を与えますわ」

「えー、くるくるの方がいい」

「よくありません!」


 そのまま部屋で言い争に発展していく2人。ほとんど抱き合った状態で口喧嘩を始めているのだが、まだ幼い2人にはその事も気にかかっていないようだ。その様子を部屋の外からこっそり聞いている者が2人。


「梔子、どうじゃった?」

「本気でキスする何秒か前に見えました」

「うーむ・・・育て方を間違えたかのう?」


 ミリアザールが唸る。


「性教育もちゃんと施さんと駄目か、やっぱり?」

「それは私にやれとおっしゃっている?」

「お前なんぞに任せたら、女衒ぜげんが出来上がるわ! リサに後で何を言われるかわかったもんじゃない」


 本気で怒ったリサを想像して、ミリアザールが身震いする。


「ともあれ、リサには学園生活を見せないようにせんとのう・・・」

「下手したら、学園にジェイクのハーレムが出来上がりますよ?」

「天然とは恐ろしい・・・」


 などと、ミリアザールと梔子がくだらない事を心配していたのであった。


 そして学園に戻ったデュートヒルデは、無事に級友達と和解する。その後彼らのクラスは貴族も庶民も関係なく仲の良い、珍しいクラスになったということだ。その中心にはジェイクとデュートヒルデがいるのだが、彼らは今日も仲良く口喧嘩をしており、徐々に学園の名物となっていくのだった。



続く


次回投稿は、5/17(火)14:00です。


次回から新シリーズです。サブタイトルは「ピレボスにて」

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