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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その675~大陸平和会議十二日目夜⑧~

「千人長に就任の話が来た」

「大出世ね」

「そうだな。ゆくゆくは師団長――そうはっきりと言われた。代わりに、ディオーレ様――ディオーレ殿直下の部隊で三年の任期を務め上げること。それが条件だった」

「ディオーレ直下の部隊となると・・・」

「東の辺境の最前線。オルルゥが率いるワヌ=ヨッダの戦士団みたいな蛮族や、あるいはA級あるいはS級の討伐依頼となる化け物が相手となる戦場だ。多くは平和な見張りだけだが、突然砦が崩壊する様な激戦が展開されることもある。アレクサンドリアが大陸に覇を唱えられないのは、この東の辺境での戦いが激しいのが一番の原因と言われるほどの激戦区だ」

「そこに配備されたの?」

「ああ、一年半ほどになっちまったがな。そこで戦のいろはを覚えたよ」

「――何があったの?」


 アルフィリースは話の核心を、敢えて問いただした。ラインは天を仰いで大きく息を吐き、そして項垂れた。


「・・・詳しくは話せねぇ。俺の気持ちの整理がついていねぇってのもあるが、それ以上に人の名誉を貶めかねねぇ。俺は皆好きだったんだ・・・あんなこと、今でも何かの間違いだと思い込みたい」

「・・・」

「ただ一つ言えるのは、彼女は名誉も人の尊厳も何もない死に方をした・・・父親も兄二人もそうだ。中央の糞貴族のせいで、人生も何もかもが滅茶苦茶になった。キレた俺はその場で元凶の貴族を殺した。それから俺はお尋ね者だ。貴族殺しはどんな理由があったとしても、死刑だ。少なくとも、永久流刑は免れねぇ。

 軍には俺を庇ってくれる人も多かったろうが、そいつらすら巻き込む恐れがあった。ディオーレ殿直下の部隊はアレクサンドリアの生命線で、軍の肝だ。彼らがいないアレクサンドリアなんて、土台のない家みたいなものだ。俺一人が原因で、そんな羽目には陥らせることはできなかった。いや、思い上がりかもしれねぇけどな」

「・・・そのアレクサンドリアのことだけど」


 アルフィリースは気になる動きを掴んでいたので、ラインに話すことにした。ラインは鋭く、そして聡い。何も言わずとも気付いてしまうなら、今話しておくべきだと感じ取った。そして、それを受け止めるだけの強さを持ち合わせているとも信じられた。


「使節長のバロテリ公が殺害されたと思うわ」

「・・・は? 誰が、何のために?」

「それはわからない。アレクサンドリアとしては隠したいようだけど、出席がなかったし明らかに護衛の数が減ったわ。それにディオーレ自身、試合の控室には最低限の供しかいなかったそうよ。出場者も含めて既定の人数しか連れてきていないとはいえ、象徴たるディオーレの試合に人がいないなんておかしいわ。調べた結果、アレクサンドリア陣営が急にばたついていた。それに、布にくるまれた人らしき姿がそっと馬車で運ばれるところも確認されたわ。まずバロテリ公が殺害されたとみて間違いないでしょう」

「・・・犯人は、ナイツ=オブ=ナイツか」

「高い確率でそう思うわ。もしディオーレ本人の殺害を狙うのなら、競技の瞬間を狙うでしょう。ミランダに確認したけど、魔術を使えない結界だけど外からの侵入は自由。つまり、弓矢なんかの狙撃武器ならディオーレは魔術で防ぐことは不可能。精霊騎士を殺すなら、競技の最中がもっとも有効だって。

 それをわざわざ、宿を襲撃した。ならば狙いは最初からバロテリ公よ。そんなことをするとしたら、動機も実力からも、ナイツ=オブ=ナイツが相手だと思うのが自然よね。ただ理由がわからない。自国の名誉を貶めて、何の利点があるのかしら」

「――内戦、だな」


 ラインの言葉に、アルフィリースも息を呑んだ。この時期にアレクサンドリアが内戦で身動きがとれなくなる。それが何を意味するか。

 アルフィリースはふっと顎に手を当てて考え込んだ。もちろん平和会議に出席している使節長を殺害されたのだ。少なくとも犯人捜しはするだろうが、それが即座に内戦になるのだろうか。しかもディオーレは冷静な戦士でもあり、国を長らく支えた重鎮でもある。その彼女がそんな選択肢を取るだろうか。

 アルフィリースの考えを察したかの如く、ラインが答えた。


「イブランの言った通り、軍部はとうの昔に限界を超えているのさ。あちこちの戦いであと一歩、というところで中央の貴族共に足を引っ張られること百年以上。補給が途絶えたり、援軍要請が勝手に縮小されたり、煮え湯を飲んだことはもう何十回とあった。

 それらが内戦という形にならなかったのは、ひとえにディオーレ殿の存在のおかげだ。彼女がいつも最後の一線を越えないように皆を宥めてきた。時に中央に戻り、内政に回って国を安定させてきたんだが――ディオーレ様も限界だろうな」

「仮に反乱を起こしたとして――どこまでやると思う?」

「さすがに王族をしいするなんてことはしねぇさ。それはディオーレ様の精霊騎士としての在り方に――まて、アルフィリース。お前はこう言いたいのか? 仮にディオーレ様が反乱を起こした状態で王族が何らかの『事故』で死んだら、ディオーレ様は精霊騎士としての力を失う可能性があると?」


 アルフィリースは頷いた。そしてもっと恐ろしい可能性を口にしたのだ。



続く

次回投稿は、3/15(月)7:00です。

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