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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その674~大陸平和会議十二日目夜⑦~

「百人長として配属された大隊の同期だった。当時俺は14歳、あっちは16歳。あいつの妹が俺と同い年で、たまたま同じ部隊だった。若くして百人長って意味では、軍の中では注目されていた」

「アレクサンドリアの小隊長や中隊長って、皆それだけ若いの?」

「まぁ俺らは異例だったが、死者も多いせいか総じて軍の平均年齢は若い。引退する騎士も多いし、尚武のお国柄か文官を選択するのは軟弱だという発想があるのは事実さ。引退後は後輩の指導に当たる場合も多い。グローリアみたいに総合的ではないが、各地方に武芸を教える教室みたいなものが点在していた。平民でも腕一本で成り上がれるとなれば、誰もが一度は剣を取る。それがアレクサンドリアだ」

「なら町人たちに至るまで、ある程度は武器を扱えるのか。恐ろしいわね」

「国民皆兵、とまではいかんが、そこらの厨房のおばちゃんですら護身術くらいは嗜んでいることもある。さて、俺らは歳も近いことからしょっちゅう意見がぶつかってな。俺は現場の叩き上げ、あいつは一応軍学校に通っている士官という立場だった。まだ学生も継続していたが、実績も十分に挙げていた。軍学校の士官の取りまとめのような役割で、俺は現場主義の人間のまとめ役に祭り上げられていた。となると、当然のように互いにいがみ合う。俺たち同士はそういうわけでもなかったが、互いの派閥と目される連中がしょっちゅう揉め事を起こしたし、陣中にあっても盛んに意見を交換したから当然対立する場面もあったわけだ。

 となると、自然と二人が呼び出されて注意や勧告を受ける場面も増える。どうすれば上手くいくのか話し合う機会は多かった。そのうち、自然とな」

「自然とってことはないでしょ。もうちょっと具体的に」


 アルフィリースの瞳が爛々と光、ラインにぐいっと迫った。ラインは仰け反るようにしながら、その頭をぐいと押し戻した。


「ええい、離れろ」

「教えてよぅ~」

「なんなんだ、急に」

「そういう具体的な話がないのよぅ」

「ニアとカザスがいるじゃねぇか。間近で見ただろ?」

「あの二人はそうなるべくしてなったというか、自然に付き合ってたんだもん。ルナティカなんて、いつラックと付き合ったのかさっぱりわからなかったよ。恋の仕方まで密かにやるんだもん」

「闇討ちみたいに言ってやるなよ、割とまっとうだったぞ? ルナティカがラックの厨房での包丁さばきを見学していただけで、そのうち手伝うようになって、それで食料や素材調達の仕事をルナティカが受けるようになって――」

「そこが知りたいんだよぅ~最後のきっかけは何なの~?」

「そこで好奇心を発揮するな!」


 ラインは起こりながらも渋々話してくれた。話し合う機会が増えるにつれ、手合せをしたり、食事を共にする機会も増えた。遠征の際には同僚として辺境伯である彼女の実家に挨拶に寄ったのだが、貴族でありながら父も兄たちも非常に威張ったところがなく、ラインも好感を抱く相手だった。それは相手も同様だったのか、付き合っていないのかと聞かれてから互いを意識するようになった。

 妹はとっくに付き合っていると思っていたそうで、妹が色々と助言をしてくれたおかげで嫌われずに済んだと言っていた。実際に恋人となったのは遅く、ラインが16歳、相手が18歳の時だったそうだ。いかに軍中にあろうと相手も妙齢。結婚相手をどうするか、という話が出た時に、適当な貴族を見繕われることに対して渋った本人の反応を見て、妹がラインにアタックするように勧めたのだそうだ。


「まぁ、そんなこんなで上手くいったわけだ」

「何て言ったの?」

「普通に恋人になってくれ、だった。二つ返事で了解されたよ。今から考えれば無謀だよなぁ、平民が貴族に告白なんてよ」

「そんなものかぁ」

「まぁ辺境伯も先祖を辿ればは平民上がりだったそうだし、武辺の家柄だったことから腕前でのし上がった俺は相当気に入られていたようだな。辺境伯なんてのはどこの国でも同じで、外周部で危険に晒される分爵位は上として扱われるが、貴族社会では礼儀も弁えられる田舎者として扱われることが多い。アレクサンドリアはでは尊敬を集める方だが、それでも中央の貴族が鼻持ちならないという感情はあったんだろう。

 それで相手公認で恋人になったわけだが、派閥の対立を治める意味でも、互いの仲間にもさっさと報告することとなった。対立は以降きっぱりと治まったが、軍内で茶化されるのなんの」

「幸せ一杯じゃん」

「今から考えればそうだな」


 幸せな日々は続いた。ラインはそのうち五百人長に。相手は百人長のままだったが、既に実力があるとのことで辺境伯の軍隊へと編成され、父や兄と共に戦う機会が増えていた。

 主な戦場は西の紛争地帯。あちこちの辺境へと派遣されるラインは軍功も上げたが、互いに会う機会は減っていった。それでも戦いの度に休暇が与えられることを利用し、逢瀬を重ねた。そうして2年が経った頃――



続く

次回投稿は、3/13(土)7:00です。

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