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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その669~大陸平和会議十二日目夜②~

「なによ! 馬鹿にしたでしょ!」

「いやいや、凄いなぁと思ったんだよ。普通なら卑怯な手を使ってでも勝ちたいと思うだろうに、正々堂々あれほどの騎士を打ち破りたいなんて――正直驚いたよ」

「ふん、どうせできないと思っているんでしょう!」

「まぁ九分九厘無理だね。だけど、勝負はやってみるまでわからないものさ」


 レイヤーが真面目な顔に戻って告げた。今度はその表情は思うよりも真剣だったため、エルシアの方が驚く。


「エルシア。君がディオーレに勝つために必要なものはなんだと思う?」

「えーっと・・・剣技に・・・」

「そうじゃなくて、明日までに用意できそうなものでだ。何を揃えたら、勝率が上がる?」

「そうね・・・」


 エルシアは真剣に考えた。いつだって生きるための工夫をしてきたのだ。今回もきっと同じだと気付いた。


「剣があと指半本分長いといいわね。ディオーレの腕と剣の長さを考えると、指半本分も長ければぎりぎり私の間合いが上よ」

「間違いない? それに、ここで長くして対応できる?」

「私の目の良さは知っているわよね? 間合いを間違えはしないわ。それに練習用では長さを調整した剣で練習しているわ。一番使いやすいのが今の長さってだけで、その木材の耐久性なら指半本分くらい長くても素振りだけで調整してみせるわ」

「よし、どのみち剣の水気をとるよりも新調した方がいいと思ってたんだ。今日の夜の間に削り出しておくよ。他には?」

「予備の剣が欲しいわね。それも2種類」

「2種類? それって――」


 エルシアが要求したものをレイヤーは快諾する。


「他には?」

「あとは天候が晴れなら最高ね。明日の試合は精密動作が優先されるわ。雨よりも乾いた天気の方がいい――ディオーレの腕力を考えると、万一体制を崩して組み伏せられでもしたら、絶対に勝てないわ。でもこればっかりは運任せね。雨雲を見るに、明日もきっと雨だわ」

「――そうでもないかも」

「え?」


 エルシアの言葉にレイヤーが小さく返事をしたが、それはエルシアの耳に届かなかった。そしてその時、エルシアの扉をノックするなら素早く部屋に入ってくる者がいた。ルナティカ、ラーナ、そしてフェンナだった。


「邪魔?」

「邪魔――じゃないけど」

「じゃあ野暮?」

「野暮でもないわよ! 何用?」

「アルフィリースから依頼。明日までにエルシアの衣装を新調しろって」

「というわけで、採寸させていただきますね? さぁ、男の人は出て行ってくださいな」


 ラーナとフェンナに背中を押されて、レイヤーは部屋の外に出される。その間際、


「明日の朝、部屋の外に剣を置いておくよ。それでいいね?」

「いいけど、明日の決勝は見に来てくれるんでしょうね? 今日はいなかったでしょ?」

「大丈夫だよ。剣を作った後、仮眠を取ったら行くから」

「ならいいわ」


 安堵の表情をするエルシアと、いつも通りの表情で出ていくレイヤー。レイヤーは外に出されると、シェンペェスに語り掛ける。


「さて、剣を削り出す前にレーヴァンティンを使って晴れにしないとね」

「(小僧・・・できるのか?)」

「上手にやるよ。雨雲を夜のうちにぶち抜いておくくらい、レーヴァンティンなら朝飯前さ」

「(レーヴァンティンの主ができると言うのならそうだろうが、恐ろしいものだな)」


 シェンペェスが呆れていたが、その夜レイヤーはレーヴァンティンと語り合い、夜ひっそりとレーヴァンティンを空に向かって投げ上げた。すると分厚い雲が徐々に蒸発し、空は美しい満点の星となったのだった。

 一瞬ではなく、一刻程度を使って訪れたその変化に違和感を抱いた者はほとんどおらず、レイヤーは満足げに自室に引き上げてエルシアの剣を削り上げることに没頭した。

 そして一方エルシアは――


「ラーナとフェンナは縫製よね? なんでルナティカ?」

「化粧の指導」

「はぁ? なんで化粧なんて――」

「見た目、大事。明日は観衆をあっと言わせると、アルフィリースが言っていた。美容のためには夜からしっかりとした仕込みが必要」

「ふふ、ふふふ――闇魔術には便利な方法があることを、存分に教えて差し上げましょう」


 ラーナが微笑みと荒い息遣いと共に手を動かしながらにじり寄ったので、エルシアが後退した。


「あっと言わせるって、私をどうしようって――ちょっと、ラーナ。笑い方が怖い」

「エルシア、大人しくする。ラーナ、面倒だからやって」

「役得――いえ、心得ました」


 ラーナが闇魔術の蛇を使ってエルシアを拘束する。


「何すんのよ、きゃああ!」

「ふふ、ふふふ――大人しくしなさい。じゅるり」

「ラーナさん、しばらく見ないうちに欲望が丸出しになっていますよ。涎を拭いてください」

「大丈夫、エルシア。ラーナには変なことはさせない」

「もう十分されてるわよ!」


 悲鳴を上げるエルシアをよそにルナティカは無表情で、フェンナは苦笑いをし、その傍でラーナが爛々と目を輝かせながら、明日のお披露目のために様々な処置を行っていくのだった。



続く

次回投稿は3/3(水)8:00です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] レイヤーすごい、、笑 レーヴァンティンは振るえば本人にもダメージがくる諸刃の剣のような武器なはずなのに、雨雲を退けるのに行使してしまいましたよ! 有資格者は違いますね ラーナはそういう子…
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