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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その667~統一武術大会準決勝⑨~

「うぉおおお! エルシアが勝ったぞ!」

「やっぱり幸運の姫騎士だ!」

「どうやって風船を割ったんだ!?」

「・・・マジか」


 感想を口々に述べる団員がいる一方、ターラムでのリリアムの強さを知っている幹部たちは開いた口が塞がらなかった。エルシアが入団した頃からのことを知っている者も多いし、ただの少女が剣を握って一年程度でここまで来たことに驚いたのだ。


「幸運じゃねぇよ、幸運で倒せるほどリリアムは甘くねーぞ。そんなんじゃねーってことは、一緒に戦ってきたアタシがよく知ってらぁ」

「本戦だってレーベンスタインだから封殺されたってだけで、じゃなきゃ天覧試合出場者くらいの力はあるんだ。それに勝っちまいやがった」


 カサンドラとロゼッタは口が開いたままそんな感想を言い合っていた。他の幹部も同様である。


「・・・最初の風船を全損させた攻撃はいったい・・・?」

「見えたか?」

「いや、何かが光った気はしたが」

「透明な球だよ。ヤオに使ったのと同じやつだ」


 試合を終えたラインが合流して答えた。ラインは懐から一つの硝子球を取り上げる。


「エルシアのやつ、仕込んでいたのさ」

「いつ?」

「今日朝、組み合わせが決定した後、俺にだ。試合が終わったら競技場の奥側にこれをばらまいておいてくれとよ。保証はしねぇと言ったんだが、試合終了後目立たねぇようにばらまいておいた。試合開始前のリリアムとエルシアの行動を覚えているか?」


 ラインのその言葉に、何人かが二人の行動を思い返す。


「エルシアが先に壇上に上がったが、手前側に陣取った。リリアムはやむなく奥側に進み、振り返った時には既にエルシアは審判であるアルベルトの傍にいた。それでリリアムは競技場の状態を確認することなく、試合前の注意点を聞かざるをえなくなった。足元の確認しかできなかったリリアムに対し、エルシアは目がいい。注意を聞くふりをして、リリアムの背後のどこに球があるかを確認した。雨だから、余計に余計に見やすかったのかもな」

「・・・」

「そして注意点を聞いた後、背中を一度向ける。すると、リリアムも反応して背中を向けて開始線に下がる。その間にエルシアは硝子球を空中に放り投げた。ご丁寧に回転をつけて、ゆっくり落ちてくるように。そして硝子玉の落下速度を見ながら、会話で時間を稼ぎ、リリアムの行動を操った」

「じゃあ何か? 地上にばらまいた硝子球を複数、空中に投げた硝子玉で弾いて散弾にしたってか? それを全部リリアムに命中させたって? 神業じゃねーか!」


 ロゼッタの口がさらに一段階多く開いたが、ラインはふっと笑っていた。


「ばらまいた硝子玉は20以上だが、そのうちいくつに命中したかは知らんよ。だが風船がすべて割れた以上、それなりに命中したんだろうな」

「・・・」

「エルシアの投擲術はまさに神業だ。その後リリアムの視界を遮ったのも、空中で速度差をつけた投擲術が一つ。さらに水たまりに球を投げつけて、回転で水を撥ねて視界を遮った。雨でよかったとか本人はぬかしやがったが、雨でもそんなことは出来ねーし、エルシアならではの戦法だ。それでもリリアムが最初に捨て身で攻撃していればエルシアは受けられなかったろうし、そこまでして紙一重の勝利には違いないな。それをこの大舞台でもってくるあたり、確かに幸運の姫騎士だろうよ」


 ラインの感想とともに全員がエルシアの方を見たが、エルシアは天を仰いで勝利をかみしめていた。対するリリアムはゆっくりと立ち上がると、エルシアに向けて歩み寄った。


「負けたわ。まさか負けるとは思わなかったけど、完敗のようね」

「・・・策が全て上手くいっただけだわ。今日は私が勝ったけど、次やれば私が負ける。それに百回やっても私が一回勝てればよい方だというのは、わかっているつもりよ」

「そうかもしれないけど、勝ちは勝ちだわ。レイヤーをどうこうする権利は、あなたに譲ってあげる」

「・・・あ」


 リリアムに言われてエルシアは顔を赤らめた。どうやらすっかりと忘れていたようだが、二人の間の取り決めはそうだったのだ。エルシアが顔を真っ赤にするのを見て、リリアムの溜飲は少し下がった。


「その様子なら、まだ私にも勝機はありそうね? そちらの勝負は退かないわよ」

「しょ、勝負なんかしてないし! レイヤーが誰とどうなっても勝手だし!」

「強がるのはおよしなさい。彼の価値に気付いている者はまだ少ないけど、もう数年もすれば放っておくのは無理になるわ。あなたも薄々気付いているのではなくて?」

「そ、そんなにあいつは格好良くないわよ!」


 エルシアの反論にリリアムは少し面喰ったが、それはそれでよいかとふっと笑った。


「いいわね、あなたたち。羨ましいわ」

「何が?」

「そんな甘酸っぱい青春時代を過ごしてみたかったってことよ。望んでも過去は手に入らないから」

「甘酸っぱくなんてないわよ、しょっぱいばかりだわ!」

「十分甘酸っぱいわよ、ごちそうさま」


 リリアムは手をひらひらとさせながら退場していった。エルシアはリリアムの言葉がまだ腑に落ちず、ややうーっと唸るようにして彼女の背中を見つめていたのだった。



続く

次回投稿は、2/27(土)9:00です。

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