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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その664~統一武術大会準決勝⑥~

「強いな、そなた。統一武術大会などの魔術禁止の試合でこれを持ち出すのは、レーベンスタイン殿以来だ」

「そりゃ光栄だべさ」

「見事攻め切って見せよ」

「おうともさ!」


 ドロシーが打ち込んだが、盾で正面から受けきられた。まるで岩に打ち込んだような感覚に、ドロシーの手が痺れる。木製の武器のぶつかり合いでこれならば、金属製の武器の応酬なら一撃で手が痺れて使い物にならないのではと、ドロシーが痺れた手を振りながら実感する。

 そして間髪入れずディオーレの反撃が飛んでくるのを受けようとして、あまりの重さに膝をつくドロシー。ディオーレは片手、ドロシーは両手で剣を持っているのに、あっさりと押し負けた。


「な、なんつー剣だべ?」

「現在上位精霊の加護はないが、地の精霊騎士であることの一つの恩恵として頑強さがある。鍛えれば鍛えるだけ、体が強くなるのだ。悲しいことに女の身でありながら、この腕力よ。並の巨人族なら簡単に押し切るぞ?」

「とんでもねー人だべさぁ!」


 ドロシーがたまらず後ろに転げ回って脱出するが、一気に分が悪くなった。雨を受けてディオーレの前髪から水が滴る。足元は既に雨で濡れて滑るだろうが、この騎士の泰然自若ぶりはそんなことでは揺るがないだろうとドロシーは確信している。

 だがディオーレの表情が微かに笑っているのを見て、ドロシーは思い直す。


「そだな、祭りは楽しんでナンボだべなぁ・・・よし!」


 ドロシーは思い直して剣を握ると、正面からと吶喊していった。


「決まったな」


 さらに一際大きな歓声が聞こえ、ラインは勝敗を感じ取った。勝ったのはもちろんディオーレのはずだ。雨だろうがそうでなかろうが、ドロシーが勝つ確率は現時点では万に一つくらいだろう。

 試合後に拍手が降り注ぐところを聞く限り、ドロシーは小細工をするわけではなく、正面から戦い抜いたのだろう。勝つためには褒められたことではないかもしれないが、ドロシーの今後のことを考えると良い経験になったはずだとラインは考える。

 そして最後の屈伸を終えると、同時にラインとルイの名前が呼ばれた。


「よっしゃ、一ついきますか!」

「・・・」


 ラインは溌剌と、ルイは無言でそのあとに続く。ラインはいつもとは違い、通路にいる団員たちに愛想を振りまきながら会場に向かった。対するルイは静かに、声援にも応えることなく段上に登る。

 そして注意事項を受けながら、ラインは体が冷えないようにせわしなく体を動かした。地面を確認したり屈伸したり、とにかくじっとしていない。ルイは静かに注意事項を聞きながら開始の合図に合わせて集中力を高めていたが、ラインの姿を見て違和感に気付いた。


「(腰の剣が・・・左右に?)」


 ここまでの戦い方、またレクサスがラインとそれなりに会話をしていたり、レクサス自身がラインの戦い方をよく見ていたりするので色々な話を昨晩聞いた。あいつならああするかもしれない、ひょっとしたらこうするかもしれない。ルイは素っ気なく返事をしていたが、レクサスの発言は役に立つものだったので、想像の中でラインが仕掛けてくることを考えていたのだ。

 一番警戒するべきは居合。それも2種類、あるいはそれ以上。ルイは見たことのある、あるいは聞いたことのある居合の種類をラインで想定し、その切り返しをずっと想像していた。居合が敵の武器なら、先手を取るのは現実的ではないからだ。

 だが、それらは全て右手で放たれる斬撃の話。左で放つ居合となれば、受け筋も全て逆となる。想像を反対にすれば受け切れるというものではない。ルイの思考が俄に混乱する。

 そして――


「両者、用意はいいか?」

「さっさとはじめようぜ?」


 そう告げたラインが右手に何かを握っているのが見えた。おそらくは投擲武器――付け焼き刃かもしれないが、まだ他に何かできる手段を用意しているのかとルイの緊張感が予想以上に増す。そしてアルベルトの右手が上がり――


「始め!」

「始め!」


 アルベルトが叫ぶより一瞬早く、ラインが開始の合図を叫んだ。開始の合図と同時の居合を警戒していたルイが、思わず反応してしまう。

 開始合図前の抜剣は減点。ルイがびくりとして剣を止めようか戻そうか考えた瞬間、ラインは自分の右腰にある剣を左手で抜いていた。



続く

次回投稿は、2/21(日)9:00です。

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