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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その663~統一武術大会準決勝⑤~

 鼓膜の痛みが治まり、平静を取り戻したアルベルトが試合開始を告げた。


「始め!」


 開始と同時に、猛然とドロシーが仕掛けた。ディオーレがドロシーの剣を受け、応対する。


「始まったな。もうすぐ出番か・・・緊張するぜ」

「ふん、そのようなタマでもないだろう。さっそくワタシに対する揺さぶりでもするつもりか?」


 次の試合で控えるラインとルイが会話する。ラインは落ち着かなそうに屈伸を繰り返していたが、ルイは足と腕を組んだまま椅子の上に座り、目を瞑って瞑想していた。

 ラインはそんなルイの様子を盗み見てはいたのだが、そこまで深い考えを抱いているわけではなかった。


「勘繰りすぎだろ」

「勘繰り過ぎということはあるまい。そなたのここまでの戦い方をみていた感想だ。ブラックホークに所属していれば最低一つの部隊を任されるだろうし、ひょっとしたら副長なんて選択肢もあるかもしれない。それだけの実力と勘の良さを感じているよ」

「今度は買いかぶり過ぎだぜ」

「さぁて。アルフィリースは才気煥発な傭兵だが、才だけが飛びぬけている。どちらかというと、あれは職人気質だ。一つの集団をまとめ上げるには、もっと柔和さと抜け目なさがひつようで、どちらも彼女には欠ける資質だ。イェーガーは発足以来、急激すぎる成長をしているが破綻していない。大きな失敗があった時にこそその真価が問われるだろうが、少なくともここまで団が成長しているのはそなたと、実務に優れた人材がいるからだと考えているが?」

「まぁ、実務にゃ確かに堅実な人材がいるなぁ」


 ラインはエクラの顔を思い浮かべる。エクラは戦いはさっぱりだが、実務を取り仕切らせると一つも失敗しない。どんな急な変更、無理難題も帳尻を合わせて見せる。宰相の娘というだけでなく、彼女自身の才能は一国の宰相を上回るのではないかとラインは感じている。エクラに言わせれば、貴族社会と違って身分にほとんど気を遣わなくてもよいイェーガーでの調整は極めて楽だということだが。

 ルイは続ける。


「まぁ謙遜するのはいい。だが揺さぶりは無駄だと告げておこう。そのようなもので揺さぶられるワタシではない」

「寡黙な女だと思っていたがよ、結構お喋りじゃねぇの? そっちこそ緊張してるんだろ?」

「・・・」

「それによ、揺さぶるならもっと前から仕掛けてるぜ。ここは統一武術大会の準決勝だ。そんな小細工を弄する場所じゃねぇんだよ。この場所に立った以上、一人の戦士として全力を尽くしてみてぇのさ」

「またそんな心にもないことを――」


 ルイが反論しかけて、会場からわあっという声援が湧いた。そのことにリリアムもルイも、ラインも会場の方を振り向いた。まだエルシアだけが瞑想を続けていたが、3人が歓声の理由を想像していた。


「声援が凄いな」

「まさか、ドロシーが押している?」

「いや、それならもっと動揺した声援が聞こえるだろうさ。多分、ドロシーが思ったより善戦したから、ディオーレ様が本気になったのさ」

「本気に? ベッツに負けた時は本気じゃなかったとでも?」

「そうだと言ったら?」


 ラインの返答にルイがむっとした。なんのかんのと、ベッツの実力を信用しているルイは無意識にベッツの肩を持っていた。


「そうは見えなかったがな」

「そりゃあベッツが仮面の道化のふりをしていたからな。言っておくが、ディオーレ様が本気で戦う時は剣と盾を用意する。盾でいなして、剣で仕留める旧式のアレクサンドリアの剣技があの人の得意技だ。そして、盾を持った時のディオーレ様の恐ろしさはもう一つ」

「?」

「体力が無尽蔵かと思うくらい我慢強いこと。そして、腕力が普通じゃない。言っとくが、魔術が使えなかろうが関係ないぞ? 素の腕力が普通じゃないんだよ、あの人」


 ラインの言葉の意味を、今ドロシーが体感していた。


「(この人、重いっぺ!)」


 ラインの想像通り、試合開始直後はドロシーが一方的に攻め立てた。ドロシーはあまり動こうとしないディオーレを素早さでかく乱し、出入りの多さと手数で攻め立てた。足を止めて五合以上打ち合うことをせず、とにかく動くことで隙を見出そうとしたのだ。

 その目論見が外れたとドロシーが感じた理由はいくつかある。一つには、ディオーレがじっくりとドロシーの動きを目で追いかけていたこと。いくら素早く動こうが、ディオーレがドロシーを見失うことはなかったのだ。

 そして打ち合った際に感じたのだが、一度もディオーレを押し込めなかったこと。ドロシーは女性にしては大柄で、アルフィリースとほぼ体格が変わらない。むしろ骨格や腕の太さはアルフィリースよりも上で、事実腕相撲でもアルフィリースよりかなり強い。というか、団内の女性ではドロシーは3指に入る強さであり、ロゼッタとも良い勝負ができるほどなのだ。

 そのドロシーが体格に任せて体重をかけても、まるで岩を相手にしているがごとくディオーレはびくともしなかった。挙句、無理に上から覆いかぶさろうとすると、鬱陶しいといわんばかりに振り払われ、宙を舞ったドロシー。


「(今、オラを投げ飛ばしただか?)」


 ドロシーが驚いていると、ディオーレは優雅に歩いて武器を交換しにいった。幅広の剣と、女性が使うにはやや大きな盾。重装歩兵よりも一回り小さいくらいの盾で、ディオーレの半身がすっぽり入る大きさの盾に、武器を変更したのだった。



続く

次回投稿は、2/19(金)9:00です。

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