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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その659~統一武術大会準決勝①~

***


――統一武術大総合部門、ならびに女子部門準決勝――


 観客はゆっくりと会場に集まって来た。なぜなら、本日の準決勝は会場の前で競技者本人がくじを引き、対戦相手が決まるとそのまま会場に向かって競技を行う。

 会場の収容人数には限界があり、せっかくの競技会なのに競技者本人を見ることができない者も多い。少しでも多くの観衆を満足させようとミランダが考えたのは、抽選を外で行い、そこから会場までの道のりで少しでも競技者を観客に見せる方法だった。

 するとしとしと降り続ける雨にも関わらず、武術大会の会場前には山のように人だかりができ、競技者と大会関係者が壇上に登場するだけでも一苦労だった。周辺騎士団だけでは人を押しのけて場所を確保するのに人数が足らず、神殿騎士団まで出動させて壇上の安全を確保する始末だった。想像以上の盛り上がりにミランダは嬉しいやら頭が痛いやらで結果浮かぬ顔をしていたが、抽選会が始まるとそんな悩みはおくびにも見せず、司会を始めていた。


「さぁ、泣いても笑っても大会は残り2日! ここまで勝ち抜いた栄誉ある競技者に、拍手と賞賛を!」


 会場の盛り上がりとともに、競技者たちが壇上に登場した。雨をも吹き飛ばさんばかりの熱気に競技者たちは驚き、また笑顔を向ける者、緊張した表情の者など、反応は様々だった。


「ひゅう、すげぇ」

「貴族上がりの騎士だけでなく、全ての戦士が等しく受けることのできる賛辞だ。平和会議が始まったころから、これは変わらぬ。最初は反対意見も多かったが、この競技への注目度から反対意見は徐々に減った。今では会議の方が形骸化し、こちら見たさに人が集まるほどだ。

 ただ、これほどの規模の観衆は私も初めてだが」


 ラインとディオーレが話し合う。それにルイも続いた。


「たしかに、これほどの賞賛を受けるのは名誉に無頓着な私でも悪い気はしない。貴殿はどうだ、獣人の」

「・・・俺は目立つのは苦手だ。だが多くの熱意には応えたいと思う」


 ルイの呼びかけにセイトが応じた。静かな言葉とは裏腹に気合が充実しているのか、熱した体に雨が当たって湯気が立ち上っている。

 一方でドロシーはおずおずと壇上に登り、リリアムは笑顔で愛想を振りまいていた。


「うう~これほど盛り上がると胃が痛くなるべぇ」

「しっかりなさいな、これほどの声援を受けるのは生涯で何度もないかもしれないわ。しかし、ターラムの熱気とはまた違って気持ち良いものね。ターラムは熱気と呼ぶよりは、狂気に近いから・・・あら、バネッサ。あまりノリが良くないわね?」

「そういうわけでも――うっぷ」


 バネッサは化粧で誤魔化していたが、明らかに顔色が悪かった。酒の匂いが残っていることを考えると、まさか二日酔いなかとリリアムが勘繰ったが、どうしてそうなったのかまでは思い当らない。まさかエアリアルと飲み比べをして、チェリオともども潰されたなど思いもよらぬことだろう。


「(うう~まさか酒で私が潰されるなんて~! こんなに酔ったのはバウンサー1年目以来だわ。うまいこと競技会の意趣返しをされちゃったわね)」


 そんなつもりはエアリアルにはなかったのだが、自分の話したいことのついでに、ラインとセイトの援護をしておくかと小さく考えていたことは事実だった。

 その中で一人、エルシアだけが飄々と平静な顔で壇上にいた。その様子に蒼ざめたドロシーが話しかける。


「エルシア~なんともないっぺか~?」

「別にと言いたいけど、緊張はしているわよ。ただ集中しているだけ」

「凄い肝っ玉だべさ~見習いたいべさ~」


 胃を押さえながらドロシーが呻くように呟いたが、エルシアはそれどころではなかった。その表情を見て、リリアムが内心で気を一段階引き締める。


「(少女、いまだ成長中、か。伸び盛りなのね、今日は一筋縄ではいかないかも)」


 壇上に登った8人の紹介をミランダが順番に行い、抽選に移る。女子部門は既に対戦相手が決まっているのでドロシーの緊張もようやく取れてきたが、総合部門の組み合わせはラインvsルイ、セイトvsバネッサに決まった。そしてどの順番で試合をするかは対戦相手が決定後、それぞれが合意の上でさらにくじを引き決定したのだ。

 順番はセイトvsバネッサ、ドロシーvsディオーレ、ラインvsルイ、エルシアvsリリアムとなった。


「(げぇ、一番か)」


 バネッサは少しでも体力を回復したかったのだが、そうは問屋がおろさなかったようだ。早速ミランダが盛り上げながら、バネッサとセイトは試合会場に向かっていく。

 試合に向かう花道では多くの観客が手を振ったが、それに応えてしまう習性がバネッサは悲しかった。

 そしてミランダはそのまま本部へと向かい、審判はアルベルトが務めていた。バネッサは深呼吸を一つすると、顔つきを変える。


「ふぅ~・・・短期決戦で終わらせるしかないね!」


 前のめりに構えるバネッサと対照的に、セイトは腰を落としてゆったりと構えた。そしてアルベルトの両手が振り下ろされる。



続く

次回投稿は、2/11(木)10:00です。

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