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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その649~統一武術大会女性部門④~

「やめてあげて」

「なんでさ?」

「エルシアが望んでいない。あの子、まだ先を見据えているから」

「先? これから先に何を目指す?」


 その時、観客席がわっと盛り上がった。リリアムが準決勝進出を決めたのだ。総合部門と違い、一回戦から全て組み合わせが決定している女性部門では次の対戦相手もわかる。


「・・・なるほど、リリアムか。まさに女の戦いってことか。なら褒めるのもやめとくか」

「その方がいい。女の戦いかどうかは知らないけど」

「そういうわけでもないかもしれないけど」


 アルフィリースは2人に聞こえないように呟いた。もしリリアムにエルシアが勝てばどうなるか。反対側からはディオーレが勝ち上がってきていることも知っているだろう。

 ひょっとしたら、さらに高みを見ているのではないか。アルフィリースはエルシアが控室に帰っていくときの凛々しい表情を見て、そんな期待をせずにはいられなかった。


***


 平和会議十一目の夜、武術大会周辺の灯りは変わらず煌々と輝く一方で、深緑宮や会議場の周辺は沈んだように暗かった。

 深緑宮では昨晩や明け方にかけて行われた遺跡での異変の調査に人員が駆り出され、ほとんど人がいなくなっていた。また同時に武術大会の準決勝に向けても準備が行われていたため、夜の警護の人手は通常の半分しかいない。

 そんな中、夜警を行うジェイクがいた。日中はレイファンの護衛も行い、夜も仕事をするのは本来の業務からは逸脱している。だがこのような状況ではやむをえなかろうとジェイクは了承していた。だがそこはまだ少年。眠気にうつらうつらとしている時に声を掛けられた。


「状況を報告せよ」

「はっ! 変化在りません、ラファティ副団長殿!」


 一瞬で覚醒し、敬礼とともに交代のラファティに報告するジェイク。その様子を見て、ラファティが複雑そうな表情となった。


「君がそんな風に報告するのを聞くと、妙な気分になるねぇ。君がここに来てからたったの2年と少しでこうなるのか」

「・・・ではどうしろと? さすがに中隊長ともなれば、自覚も責任も生まれます」

「変わらないといけないのは私の意識の方か。すまなかったね」

「いえ、それより遺跡の調査で負傷者が出なかったというのは本当ですか?」


 ジェイクは昨晩の戦いに駆り出されていない。もちろん中隊長として出撃を申し出たが、ミランダが止めたのだ。どのような修羅場になるかもわからず、若い神殿騎士団員はジェイクに限らず残された。結果として、どんな戦いだったのかを知らされることはなく、またリサからも詳細を聞くことはなかったのでイェーガーの様子も知らないのだ。

 日中の警護はつつがなく行われたので大事なかったとは考えるが、さすがに腑に落ちないジェイク。

 そんな心中を、神殿騎士団でもっともジェイクと付き合いの長いラファティは察することができた。ミランダから箝口令が敷かれているとはいえ、ジェイクの立場を考えればある程度話しても問題はなかろうと考える。


「・・・強大な敵がいて、全員で協力してそれを倒し、負傷者は皆無。その結果じゃあ満足できないのかな?」

「できません。あれほどの気配があって、誰もかれも無傷で帰って来た? そんなことを納得白と? しかもぺったん――失礼、ミリアザール最高教主はその場にいなかったはず。怪我をしたとして、誰が回復を? それとも神殿騎士団の神官やシスターたちはそれほどまでに優秀でしたか?」

「ジェイク、何が言いたいのか」


 ジェイクの指摘にラファティもさすがに険しい顔となった。だがジェイクもそれで怯むことはない。


「シャイアという武芸者がいます。統一武術大会で活躍した少女ですが――危うく再起不能となるところでした。彼女の怪我ももう少し上手く治すことができたのでは? あるいはエルザ司教は? いまだに復帰されていませんが、それはどうお考えで? アルネリアは救うべき者に選別をしているのかと」

「・・・そうではない、そうでなはないよジェイク。ただその場の判断で――今回のことは一歩間違えればアルネリア壊滅では済まなかった事態だったんだ。ミランダ大司教はその場の判断で、限定的に禁呪を使ったようだ。だから全員無事なんだろうが、これからその後遺症や影響は判定されるのさ」

「禁呪? 聞いたことがありませんが」

「蘇生に近い回復魔術だ。私のそのようなものがあるらしいとは聞いたことはあったが、実際に見たのは初めてだ。何でもかつての大戦期には多用されたらしいが、後遺症の問題で封印されたらしい」

「禁呪――そんな便利なものがあるなら、なぜ日常的に使用して改善点を探さないんです? それさえあれば――」

「同じことを、かつてのアルネリア関係者が考えないとでも? 扱えないからこその禁呪――そういうものだと習わなかったか?」


 ジェイクは俯いたが、どうにも納得していないようだ。無理もない。ジェイクの疑問は、ラファティ自身もミランダやミリアザールに質問したいことだったのだから。



続く

次回投稿は、1/22(金)11:00です。

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