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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
2109/2685

戦争と平和、その645~統一武術大会準々決勝⑥~

「はぁ? ドルーも棄権した?」

「棄権というより、見当たらないと言った方が正しいですが」


 係員に対戦相手の棄権を告げられ、呆然とするラインがそこにいた。

 ティタニアが出場しないことに関しては想像がついた者もいたが、ドルーに関してはまさに謎だった。ドルーの正体がドルトムントであることを知っている者は、大会関係者には一人もいないのだ。

 またライフレスの召集により廃棄遺跡での戦いに馳せ参じたドルトムントは、既に大会用に調整した体を失っていた。無理に戦ったとしてラインに勝つことはできず、下手をすると正体を晒すことになる。加えて、ドゥームがライフレスの記憶を戻したこと、シェリーがいたことなども含めてライフレスの動揺と心中を推し測ったドルトムントが何を優先するかなど、迷うべくもないことだった。ドルトムントは一抹の公開を胸の奥に押し込み、無言でライフレスに付き従うことを選択した。

 いかにラインの勘が鋭かろうと、そこまでの想像をすることはできない。相手の棄権を告げられて、ただ控室で呆然とするばかりで、段上での挨拶を求められた時も半ば呆然としたまま四方に手を挙げて応えていた。


「これでイェーガーから2人が準決勝進出。上々すぎる戦果に感想は? 団長さん」

「出来過ぎよねぇ」


 アルフィリースがくすぐったそうに笑ったが、レイファンはアルフィリースがこの結果を予想していたのではないかと、勘繰っていた。もちろんアルフィリースもこういう展開を予想しないでもなかったが、上出来すぎる成果に頬が緩むのは仕方のないことだろう。

 そしてドルーの棄権を受けて、予定を繰り上げて第4試合が行われることになった。ベッツvsバネッサである。


「爺さーん、激励に来たっすよ・・・って、なんでうつ伏せ?」

「おう、ベッツにルイか。あんがとよ」


 激励に来たレクサスとルイを出迎えたのは、控室でうつ伏せになったままの覇気のないベッツだった。ディオーレの前とは違うベッツに、レクサスもかける言葉を見つけられないでいたが、ルイは無遠慮にため息をついた


「・・・朝から歩き方がおかしかったが、腰を痛めたか?」

「おーう、すぐ治ると思うんだけどなぁ。さすがに相手があの姉ちゃんじゃあ厳しそうだな」

「なーにやったんすか? まっさかあの後、銀の一族の姉ちゃん2人と・・・なーんちゃって」


 レクサスが茶化そうとしたが、ベッツの目が泳いだ。その様子を見てルイはくるりと背中を向けた。


「じ、爺さーん。まさか本当に」

「行くぞ、レクサス。こんな色ボケ爺は応援するだけ無駄だ」

「薄情だな、お前!」

「いやぁ、さすがの俺もドン引きっていうか。徹夜とかお盛んっすね、爺さん。先にブラックホークに戻ってヴァルサスと皆に報告しておくっす、美人2人とごゆっくり」

「ちょっと待て! 音より早く追いかけて来る女と、時間を止める女だぞ? 2人に追いかけられて、逃げられると思うか? どっちかっていうと、被害者は俺――話を聞けぇ!」


 ベッツの悲鳴が控室から聞こえたが、2人は歩みを止めることなく本当に出て行った。そして戦い自体も、それなりにベッツは誤魔化そうとしたが、やはり動きが悪かった。突然腰を押さえて動けなくなったかと思うと、バネッサの一撃が顎に命中。あえなく場外でベッツは敗北となった。

 事情を知らないバネッサはあえない結末に呆然とし、勝利宣告を受けてもまだすっきりとしない表情で首をかしげていた。それでも四方に愛想を振りまくあたりは、人気競技者としてのお約束を忘れなかった。

 そして係員の手を借りて控室に戻ったベッツだが、係の者が誰かが通ったような錯覚に襲われた後、しばらくして誰もいないはずの控室からベッツのくぐもった悲鳴と軋むような音がしばらく聞こえたかと思うと、静かになった。いつまでも出てこないベッツを心配した係の者が声をかけると、そこは既に誰もいないもぬけの殻となっていたのだった。

 そんなわけで、今一つ盛り上がりに欠けた統一武術大会総合部門の準々決勝が終わりを告げた。責任者のミランダは昨晩のことを公表するわけにもいかず頭を抱え、それでも次の部門に目を移さなければならなかった。進行が大幅に遅れていた女性部門である。

 進行には偏りがあった。準々決勝まで進んでいる箇所もあれば、三回戦で止まっている箇所もある。多ければ一人あたり本日だけで3試合こなす必要があった。その最も試合数が多い選手とは、イェーガーのエルシアだった。


「エルシア、調子はどうだ?」

「・・・なんだ、ゲイルか」


 エルシアの控室にゲイルが現れた。レイヤーは仕事があるのか調子が悪いのか、今日はどこにもその姿をエルシアは見ていない。それでも今まで必ず激励をくれていたから、控室には現れてくれると思っていたのに、その姿はどこにも見当たらず、ゲイルやロゼッタが激励に来てくれたのだった。


「なんだとはご挨拶だな」

「だって、ゲイルじゃあねぇ」

「ははっ、言えてるな。こいつの面じゃあ激励どころかげんなりだな」

「ロゼッタ! あんたよぅ!」

「まぁ、誰もいないよりマシか。ゲイルも山の賑わいってね」

「枯れ木と同じ扱いかよ!」

「あら? ちゃんと諺がわかるようになったのね、感心感心」


 頭をエルシアに撫でられて悔しいやら照れるなら、複雑な心境となったゲイルは激励もそこそこに控室を出て行った。ロゼッタが苦笑してその姿を見送る。


「成長したと思ったのに、ケツの青いガキだな。最近じゃあ多少なりとも兵法やらなんやら勉強しているようだが、まだまだ」

「体力馬鹿なのは相変わらずか」

「それより一回戦、二回戦と見事だったじゃねぇの。ティーロッサ、サティラを連続で破りやがったな」


 ロゼッタがエルシアの勝ち上がりを素直に褒めた。だがエルシアはその称賛も無愛想に返していた。



続く

次回投稿は1/14(木)12:00です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ベッツ爺、、が、がんばれ レクサスとルイは是非ともくっついて欲しいですね〜お似合いな気がします。ローマンズランドの問題が片付いたらまたルイにアタックして欲しい。 そしてゲイルは、、これ…
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