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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その643~統一武術大会準々決勝④~

「む?」

「どうした、獣人の? 顔がひきつっているぞ?」


 ドライアンは今まで全て躱していたが、躱しきれない一つをようやく腕を出して払いのけた。スウェンドル優勢か、と思われた瞬間にスウェンドルの方から距離を取る。

 不可解な動きの意図を察した人間は多くないが、統一武術大会で上位に食い込む実力を持つ者たちの顔色が変わった。もっとも早く意図を察したのはドライアンだったろうが、その顔に初めて怒りと驚きの表情が浮かんだ。


「・・・貴様、ずっとこちらを探っていたのか?」

「怒るな。俺とてしばらくぶりに本気を出すのだ、準備運動は必要だろう? 北の大地は寒い。入念に体を温めるのは癖だと思ってくれ」


 くるくると木槍を回しながら自在に操る様子を見て、オルルゥの警戒心が上がった。


「――ホンキにナルゾ?」

「オルルゥはスウェンドルに勝てる?」

「モリならカテル。ソレイガイはキビシイ」


 オルルゥの見立てにミューゼとレイファンが彼女の表情を見た瞬間、スウェンドルが動いていた。人外の速度ではないが、観衆は一瞬スウェンドルを見失った。ドライアンの目には当然スウェンドルの姿は追えているが、その槍が同時に六撃迫る。

 ドライアンは両手を使ってその攻撃を捌き、さらに反撃の一打を思わず放つ。ドライアンにしてみれば様子見程度の一撃だが、人間の顔面に当たれば潰れる程度の威力。放った後であっと思ったが、スウェンドルはその一撃を余裕で捌いてなお前に出た。

 スウェンドルの鋭い動きと、槍は遠くから攻撃するものと思っていたドライアンの思い込みを利用し、スウェンドルが短距離から乱打する。木製の武器ではドライアンの体に傷一つつかないだろうが、実戦を意識したドライアンは防戦一方となった。

 ドライアンが掴もうとすればひらりとスウェンドルが躱し、攻守交代を許さない。思わぬ展開に、控室にいたセイト、ライン、ベッツが唸った。


「ドライアン王があれほど一方的に・・・夢か?」

「あの王様とんだ食わせ者だな、あそこまでの槍術を使う奴は見たことがねぇ。オルルゥの棒術とも少し違うが、実力は同じくらいか? ベッツの爺さんよ、あれがローマンズランドの槍術かい?」

「まぁ部分的にはそうだが、半分以上は我流だ。あれは天賦の才に加えて、ありえねぇくらいの研鑽をした結果だろうよ。ぱっと見、ローマンズランドの槍術に加えて、捕獲術と棒術、それに短槍術の組み合わせか。だが一番凄えのは――」

「間合いの把握か」


 ラインとベッツは先ほどから同じところをみていた。激しく動く2人手元ではなく、足元。よく見ていれば、測ったように同じ距離を取っているのだ。スウェンドルの攻撃は届き、ドライアンの攻撃は届かない絶妙な距離。手を出しても無駄だとわかっているからこそ、ドライアンは常に防御している。


「もちろんドライアン王も何もしてねぇわけじゃねぇ。距離を保つスウェンドル王の動きが乱れるように、足で前後に動いて牽制してやがる」

「距離を保つ動きは円を描くからな。足や肩で威嚇して乱そうとはしているが――」

「スウェンドル王の戦い方が絶妙過ぎる。さっきまでの攻防でもう癖を把握して、間合いをものにしやがった。あんな芸当ができる奴、ブラックホークにもいねぇぞ」

「だがドライアン王には間合いの関係ない一撃がある。それを使えば――」


 期待を込めたセイトの反論を聞く前に、ラインがセイトの頭をぺしりと叩いた。


「あほ抜かせ、セイトよ。遠当てなんざ使ったら、それこそ国際問題だ。ドライアン王の遠当てを食らって無事な人間がいるか?」

「むぅ、確かに」

「そうだよなぁ・・・だけど、スウェンドル王は明らかに挑発してねぇか? 多分、撃ってこいって言ってるぜ?」

「マジかよ」


 ベッツの読み通り、スウェンドルはドライアンを挑発していた。決め手に欠けるのはスウェンドルも同じ。だが優勢ながらも拮抗した攻防を継続することで、ドライアンを挑発していたのだ。

 ドライアンもそれを感じていたが、本当に撃つかどうかを悩んでいた。スウェンドルが波の武芸者でないのは明らか。だが耐久力はどうか。しかし自分にもグルーザルド王であり最強の武人でもある矜持がある。ここには獣将もいれば、グルーザルドから来ている獣人や流浪の獣人もいるのだ。みっともない姿を見せるわけにはいかない。


「――ええい、アルネリアの医療班を信じるしかあるまい! 即死はするなよ?」

「そのような心配は無用だ、存分に撃ってこい!」


 両手を体の前面に上げた防御の姿勢から、ほぼ予備動作なく体の捻りだけで放たれる遠当て。その一連の動作は流れるように美しく、見ていた者が気付いた時には既に遠当てが放たれたところだった。


「――美しい」


 対峙するスウェンドルですらそのような感想を抱くほど、見事な一撃。スウェンドルが挑発しながらも、放たれたと気付いた時には既に直撃するところだった。

 躱す暇もなくスウェンドルに遠当てが直撃する。身を乗り出す者、目を背ける者など会場は様々な反応だったが、予想外の結果がそこにあった。



続く

次回投稿は、1/10(日)12:00です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] スウェンドルってこんなに強かったのか!ドライアンと張り合うとは、、
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