戦争と平和、その642~統一武術大会準々決勝③~
「致命的か。それはどうかな?」
「スウェンドル王よ、お主は意外と余興が好きなのか? これは人となりを見誤ったか」
「そうでもない、俺もほんの昨日まで想像もしなかったことよ。だが物事には息抜きと遊び心が必要だ。特に俺たちのような立場なら余計にそうだ。わかるだろう?」
「それは・・・うむ、そうだな」
「お主は若い頃に諸国遊興でうっぷん晴らしをしたかもしれないが、俺にはそんな機会はなくてな。女で紛らわせていたが、その女も頭数が減ってしまって持て余していたところだ。少し付き合え」
そう言って木製の槍を構えたスウェンドルから、凄まじい殺気が立ち上る。その殺気たるや、木製の槍などよりよほど鋭く、常人ならその殺気に当てられただけで気絶しただろう。
冗談事ではない殺気を見て、ドライアンが思わず一歩下がって構えていた。
「俺に構えを取らせるとは・・・どこが息抜きだ?」
「息抜きさ。ただし、手を抜くとは言っていないがな!」
スウェンドルが突然動き、槍がドライアンの眼前に迫る。その速度に驚いたドライアンだが、すんでのところで一撃を躱す。最初は余裕のない躱し方だったが、徐々にその軌道に目が慣れる。
「(速いが、単純)」
これなら一撃を合わせることも容易い――そう考えた矢先、スウェンドルの槍の軌道が変わった。突き主体から、薙ぎ払いを含めた変化へ。そして横の軌道から縦の変化も加わり、ドライアンを攻め立てた。
その攻撃を避けながら、ドライアンは一つ気付く。
「(これは・・・なるほど、そういう腹積もりか)」
「演武だわ」
スウェンドルとドライアンの攻防を見ていたアルフィリースが呟いた。その場にいたレイファンとミューゼが、アルフィリースの呟きに反応した。
「演武?」
「ええ、スウェンドル王があそこまでの使い手とは思わなかったけど。これは予定調和の攻防の応酬を見せる演武よ。普通は打ち合わせをしておくものだけど、即興で合わせられるのはドライアン王の凄さかしらね」
「・・・かつてスウェンドル王が王太子だった頃、文武に優れた次代の王として称賛されていました。そこまではよくある話ですが、その文武の才は誇張ではなく並々ならぬものだったそうです。
王族とはいえローマンズランドでは一度軍部に属する決まりがありますが、スウェンドル王太子の腕前は全体で五指に入るほどだったとか」
「ローマンズランドの軍隊って、平民は兼業しているとはいえ軍全体で30万の総勢よね? その中で五指に数えられる?」
「だと聞いています」
「あるふぃ、イイカ?」
そこに突然音もなく現れたのはオルルゥだった。彼女はアルフィリースの言いつけを守り、昨晩夜通し働いていたのだった。
「あるふぃ、オマエのイッタトオリだ。うっこのメザメにオウジて、あるねりあシュウヘンは、マモノやマジュウがイッセイにワイテイタ。ワレワレのテゼイをスベテドウインシテシマツシタゾ」
「アルネリアの軍隊は?」
「スコシだけ。トテモキノウシテイナカッタ」
「そう・・・周辺への被害は?」
「ホボナイ」
「よかった、お疲れさま」
アルフィリースはオルルゥを労ったが、オルルゥはドライアンとスウェンドルの戦いが気になるようだった。
「アノフタリ、タタカッテイルのか」
「演武よ」
「エンブ?」
「打ち合わせどおりの戦いってことよ。武器を持った舞みたいなものね」
「フーム・・・イヤ、チガウ。アソンデハイルが、モウスグシンケンショウブにナル」
「え?」
オルルゥは興味深そうに身を乗り出した。遠慮のないオルルゥはレイファンやミューゼに忖度することはない。
「ブジュツタイカイにデテイタトキ、タカイバショにイタレンチュウにツヨイのが3ニン。フタリはアイツラ」
「それは・・・スウェンドル王がドライアン王と互角ってこと?」
「ゴカク・・・ドウダロウカ。どらいあんはジッセンをトオザカッテヒサシイ。モウヒトリのホウがツヨイカモシレナイ」
「は?」
「アノヤリ――マダハヤクナル」
オルルゥの言葉通り、ドライアンはまだ防戦を続けていた。心なしか、その表情に余裕がなくなっているように見えたのだ。
続く
次回投稿は、1/8(金)12:00です。