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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その635~陽光⑭~


「ライフリング、あなた正気? ゼムスに殺されるわよ?」

「エネーマ、言いたいことはわかるわ。あなたが今の立場でいることの半分の責任は、私にあることもわかっている。だけどゼムスを利用するのもここまでよ。私は私のすべきことをしにいくわ。ゼムスになんと言われようと関係ない」

「・・・あの光景を見たから?」


 エネーマの言葉に、ライフリングは何も答えなかった。そして改めてアルフィリースに向き直ったのだ。


「アルフィリース、貴女にだけ伝えておきたいことがあります。このことは大陸でただ二人、私とエネーマしか知らないこと。貴女が信用に足ると確信して話すことです」

「えーと、この場では言えないこと?」

「ええ」

「他の誰にも?」

「そう、貴女が一番信用している人間でもだめです。私は貴女にだけ伝えたい」


 ライフリングの視線は冷ややかだったが、その言葉には熱があった。そして目の奥には強い意志があることを確信し、アルフィリースは頷いた。


「いいわ。もう夜は明けてしまったから、今晩にでも私の部屋に呼びます。それまではイェーガーの中でくつろいで。報酬や待遇云々は、後日の話し合いでもいいかしら?」

「ええ、当然よ。恩に着るわ」

「そちらのエネーマさんはどうするの?」

「私はゼムスの元に戻るわ。でもこれでゼムスの仲間も壊滅状態ね。後は軍団と、重騎士、それに策士だけか。寂しくなったものだわ」

「そう? せいせいしたのではなくて?」


 ライフリングの素っ気ない言い方に、さしものエネーマも苦笑する。


「一応クズばかりでも仲間だったのよ、言い方ってものがあるわ。それにシェキナのことは不幸だったとしか言いようがない」

「使命があるわけでもなく、金や名誉、あるいは快感欲しさにわが身と相手を傷つける連中よ。シェキナも含めて何ら同情できないわ。甘いわよ、エネーマは」

「・・・私に甘いと言えるのはあなたくらいのものよ、ライフリング」

「血の代わりに氷が流れている、だったっけ? 奴らにそう言われたわ。馬鹿ね、氷が流れていたら死んでしまうのにね。これだから無学な連中は」

「そんなことを言うから氷が流れていると言われるのよ」

「?」


 意味が分からないというようにライフリングが首を傾げたので、エネーマはもう放っておくことにした。ライフリングがゼムスを捨ててアルフィリースの元に走るとは思っていなかったが、あながちハズレでもないと思う。


「(まぁ、誰が頼りになるかはわからないものね・・・盤石に見えたゼムスの仲間たちでさえ、ここ一年でほとんど姿を消した。最初はよくもまぁ実力者のクズばかりで、誰が彼らを始末するのだろうと思っていたけど、人生とはわからないものだわ・・・私だって例外じゃない。ヒドゥンがどれほど役に立つかわからないけど、動けるうちに動くか)」


 エネーマが自らの影を見ながら一つの決断をすると同時に、朝日が射して彼らを照らした。全員がまぶしそうに陽光を手で遮った。


「さぁ、それぞれの拠点に帰りましょう。これからのことに備えないと」


 アルフィリースの言葉に異を唱える者は一人もいなかった。ただ、これからという意味は、それぞれが胸のうちに違うことを抱えていた。


***


「ディオーレ様、仮眠を取られないので?」

「そのような暇があると思うか? まずは着替えて、それから皆の様子を確認する」


 イブランの提言を一蹴し、足早に自らの宿へと戻るディオーレ。使節長だったバロテリ公が殺されたことで、使節の責任者は暫定的にディオーレとなるだろう。もちろん役目を果たすことに意義はないが、ディオーレは長らく辺境で軍の指揮を執っていたのだ。諸国の重鎮ともつながりがないし、バロテリ公が知っていたつながりを把握するだけでも一苦労だろう。

 なんとか失礼がないようにだけは振る舞えるか――そう考えた矢先の出来事である。本戦ベスト16で敗北したのも集中できなかったとまでは言い訳したくはなかったが、ほっとしている自分がいたことも事実だった。

 宿に帰るとアレクサンドリアの使節たちがぎょっとした顔でディオーレを出迎えた。全員ディオーレが外に出ていることを知っていたが、おおよその者はディオーレがイェーガーを訪れていたこと、ましてや一晩中戦っていたことなど知り様もなかったからだ。

 象徴的なツインテールもやや乱れがちにしたまま憔悴した表情を見せるディオーレとイブランに対し、何人かが話しかけようとしてやめた。彼女の険しい表情がそうさせなかったからだ。ディオーレはまずは自らの無事な姿を見せ、それから着替えるために私室に向かおうとしたが、宿の様子がおかしいことに気付いて足を止めた。バロテリ公が殺害されたことで混乱はしているだろうが、使節団は無能ではない。

 ディオーレが足を止めて、目についた者を呼び留めた。


「カリオン、何があった? バロテリ公のことは聞いているが、他にも何かあったのか?」

「それが――」

「イヴァンザルドが無事だと聞いていたが、姿が見えぬ。まさか死んだのか?」

「いえ、今はアルネリアの治療を受けて安静にしておられます。ですが――その」

「ええい、はっきり申せ。煩わしいのは嫌いだ」

「は――それがレイドリンド家がこちらに逃げ込んでまいりました。いかがなされますか?」


 その報告に、さしものディオーレも冷静さを取り繕うことを忘れてしまった。



続く

次回投稿は、12/23(水)12:00です。

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