戦争と平和、その628~陽光⑦~
***
「ふぅ、ようやく外ね」
ラ・フォーゼの転移魔術で外に出た一行は、山間から射す日の出を見ることになった。戦いは一晩に及んだことを誰もが気付いたが、随分と長い一夜だったと、誰もがしばし呆として陽光に身を任せた。
彼らの憔悴した姿に、さしもの唯我独尊であるラ・フォーゼもしばし言葉なく共に陽光を眺めていた。
「・・・さて、各自言いたいことはあると思うけど、帰りましょうか。まさか二晩経った、なんてオチはないわよね?」
「さすがにそれはないわ、お姉さま。ウッコ覚醒の波動は大陸の西にまで届きましたから。丸一日放置できるような案件ではなくてよ」
「それもそうか。さて、それぞれどうする? 一緒に戦った仲なんだし、仲良くしようとまでは言わなくても、今後のことくらい一言教えてくれないかしら? 大陸平和会議も統一武術大会もまだ続くのだし」
「ふぅ、すぐにそれが言えるあたりが若い証拠だな」
真っ先に答えたのはディオーレ。彼女は呆れたように腰に手をやると、既に傍に控えるイブランは距離を置こうとしているところだった。
「別に変わらんさ。こんなことがあったことを公表する気もないし、多くの者は少々大地が揺れた、で終わったことだろう。仮眠が取れればよいのだが、おそらくそれは無理だろうな・・・このまま陣営の動揺を治めて、統一武術大会の女性部門に焦点を絞るとしようか」
「げっ・・・女性部門もあったことを忘れてた。私、今日は何回戦だっけ?」
「覚えてねぇのか? 今日は本戦三回戦、エルシアが相手だろうが。勝ったらそのまま準々決勝まで消化されるぞ」
ラインが呆れたように答えた。女性部門のシード選手の多くが総合部門本戦でも勝ち抜いているせいで、女性部門の進行は遅れていた。本来なら三回戦などはとうに終了しているはずなのだが、アルフィリースがレイファンの護衛も兼ねているせいで、大会側も無理を言えないでいた。
女性部門は本来、小さい会場で行われてきた。だが今回はミランダの以降で、天覧試合と同様の会場で行われることになっている。女性が多いイェーガーの活躍をお披露目するためのミランダの配慮だったが、アルフィリース個人にとっては逆境となったようだ。
「徹夜で何試合もやるのはキツイ!」
「わかりきったことを・・・だから女性部門は辞退しろと言ったんだ」
「だけど団長がいないんじゃ、締まらない!」
「わあってるよ。行ってこい、骨は拾ってやる!」
ラインがアルフィリースの尻を景気づけに引っ張たいたので、アルフィリースがラインに殴りかかった。そのアルフィリースの右腕の動きが悪いことを、ルイは見逃さない。
その様子を見ながら、浄儀白楽とブラディマリアは静かに去ろうとする。そこに目ざとくアルフィリースは声をかけた。
「討魔協会の会長さんはどうするの?」
「どうもせん、帰って寝る。俺も若くはないのでな、徹夜はこたえる」
「またまたぁ、悪だくみするんでしょ?」
堂々と質問するアルフィリースに、浄儀白楽も少し相好を崩した。
「それを面と向かって聞けるのは、お主の美点よな」
「褒めてる?」
「褒めておる、東の大陸では俺の顔色を窺う連中ばかりだ。所詮は一団体の頭領に過ぎぬと言うのに、名家も権力者も豪商も、俺の顔色を伺うばかりでつまらぬ」
「好敵手を求めているの?」
「それもよいな」
「旦那殿」
普段より饒舌な浄儀白楽を見て、ブラディマリアが眉をひそめた。それに気付いた浄儀白楽はふっと笑う。
「俺も少々興奮していたようだ。許せ、マリア」
「いや、それはよいのじゃが・・・」
「ブラディマリアも、地下の様子だとオーランゼブルの洗脳が解けたんでしょう? なら私と協力しない?」
アルフィリースの申し出に、呆れた顔をするブラディマリア。
「飽きれた娘じゃ、節操のない。今日は心地よく疲れておるゆえ見逃すが、馬鹿なことを申すでない。誰が人間なぞと――」
「人間を伴侶にしていると説得力がないわよ?」
「ぬぅ」
「やめておけ、マリア。この女と舌戦をすると、さしものお前でも分が悪いぞ? アルフィリースよ、その辺で勘弁しておけ。オーランゼブルに関する情報提供は、俺から知りうる限りを話してやる。だが、全て無駄かもしれんぞ?」
「無駄?」
浄儀白楽の言葉に、アルフィリースは意外そうな顔をしなかった。そのことで、浄儀白楽はアルフィリースのことを逆に認めたようだ。
「オーランゼブルの計画が発動後、奴はその後のことには興味がないのだ。そしてオーランゼブルの計画はもはや止まることはない。そしてお前も、奴の計画の全貌に気付きつつあるはずだ。お前は俺と対等に物を言える立場だと考えたからこそ告げておく。アルネリア教とはほどよく距離を取っておけ。仲の良い者が中にいるとしても、組織で物を考える時には私心は押し殺さざるを得ないことが多々ある。親友であるならなおさら――同じところで同じ目標を目指して働くのでなければ、ほどよく距離を取るのが重要だ」
「――貴方はそうしてきたのね? そうした結果、心から信用できる人間が何人いるのかしら?」
「・・・その言葉、若さゆえのこととして流しておいてやる。あまり勘繰りが過ぎると、見逃せなくなるぞ? 忠告はした、もう我々に深入りするな。心配するな、ブラディマリアのことも含めて悪いようにはせん」
浄儀白楽の言葉にアルフィリースは肩を竦め、彼らは式獣を出してその上に乗ると、その場を去っていった。
彼らがいなくなると、今度は銀の一族が騒ぎ出した。
続く
次回投稿は、12/9(水)13:00です。