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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その627~陽光⑥~

***


「よーう。そっちの首尾はどうだ、ハムネット?」

「かた、いけど、終わ、った。リアシェッドは?」

「こちらも終わりましたわ。お姉さまはお喜びになるかしら?」

「味は保障できねぇよ。素材は極上だけどな」


 スピアーズの姉妹達は遺跡中層にて素材の採集に勤しんでいた。ウッコなどと戦う気は彼女たちにはさらさらない。だが他に保存されている魔獣たちを見て、彼女たちには自然と涎が沸き上がった。この素材は極上だ、きっと姉のためになる。そう直感した彼女達は、ウッコの強大な気配や魔力などどこ吹く風で解体作業を開始した。中層の床が抜けようが、魔法が発動しようがお構いなしだった。

 だがウッコが討伐され、その気配が消えるとさすがに彼女たちも我に返った。それまで返り血すら気にかけず、肉が飛び散ろうがどうしようが無我夢中で解体作業を続けていた三姉妹は、気配を殺して解体した肉を集める作業に出ていた。


「あれだけ手間ぁかけて、収穫はこれだけか」

「それでも多すぎますわ。武器やその他の素材も集めましたし、全て持ち帰るのは無理かも」

「厳選、する?」

「余った奴は俺らで食っちまおうぜ。もったいなさすぎらぁ」

「悔しいですが、賛成しますわ」

「調理、する?」


 ハムネットが料理用の包丁を取り出したが、セローグレイスがそれをとどめた。


「んな暇あるか。生だ、生」

「人間世界の放浪が長いせいで、つい人間文化に毒されますわね。不覚にも、調理した方がおいしいと思ってしまいました」

「事、実。人、間の出店、おいしか、った」

「ああ、そうだな。祭りってのはいいもんだ。人間自体はたいていまずいが、あいつらは旨い料理を作りやがる」

「ここは素直に同意しますわ。人間とはもう少し仲良くしてもいいかもしれないと思いました」

「で、も食欲が、優先?」

「たりめーだ、そのための俺らだからよ。あんまり余計なことを考えると、後が辛ぇぞ?」

「セロー・・・」


 リアシェッドはその先を口にしなかったが、ハムネットは彼女が言わんとしたことがわかったようだった。セローが手をぱんと叩いて、話を中断させる。


「ここまでだ! 飯だ、飯」

「灯り、ない。暗い、おいしそうじゃ、ない」

「わかっていますわ。ですが私たちの人生に彩りなど不要。彩られる程に、後が苦しくなる。だって私たちは――もがっ」


 物憂げなリアシェッドの口に、血の滴る肉を突っ込むセローグレイス。かかか、と剛毅に笑う無神経な姉妹に腹を立てるが、その味は極上だった。


「あら、おいしい!」

「だろ? 調理してなくてこれなら、調理したらさぞかしうめぇだろうなぁ。イェーガーとのこの料理人にでも持ち込んで、調理法を考えるか?」

「そ、の余裕があ、れば」

「しかし、漲りますわ!」

「だな、これならお姉さまも全盛期の力を取り戻すだろ。俺たちも――ん?」


 その瞬間、3人がいた場所に突然光の雨が降り注いだ。空中にも地上にも、彼女たちを取り巻く50体以上のマリオネットビースト。一斉攻撃を終了し、もうもうと舞い上がる土煙で視界がきかないため、一度攻撃を終了して様子を見ている。

 だが――


「――よう、リアシェッド。無事かよ?」

「――ええ、もちろんですわ。あの程度の攻撃でやられると思いまして?」

「――さっ、きまでなら、危なか、った」

「だな。マジでスゲェわ、この食い物。これならお姉さまは全盛期以上になるだろうな。もう盟約なんたらを守る必要もなくなるんじゃねぇの?」

「ええ、そうかもしれませんわね。持ち帰ったらお姉さまに相談しましょう? アルネリアも他の大魔王も、ぶっ飛ばして差し上げませんかって」

「2人とも、武器を」


 ハムネットが取り出した武器を2人に放り投げる。その武器を見て、セローグレイスとリアシェッドが笑った。


「これが出せるようになるたぁ、てめーも相当だなハムネット?」

「うん、僕も全盛期以上さ」

「口調まで戻りましたわね。さて、人形さんに教えて差し上げましょうか。かつて大魔王として活動した、我々の恐ろしさというものを!」


 リアシェッドが土煙の中から大刀2本と共に出てきた。体は成人女性へと成長し、青のショートドレスにロングブーツがより似合う成熟した体が、毬のように跳ねて一蹴りで敵の中心部に飛びこむ。


「大刀二本は、剣帝だけの専売特許じゃございませんのことよ!?」


 リアシェッドがくるりと回転すると、周囲のマリオネットビーストの胴体と足が泣き別れた。だが痛みを感じぬ彼らは怯むことなく反撃するが、至近距離でその攻撃を見て躱すリアシェッド。


「凄い、凄いわ! ここまで体が動くものなの?」

「はしゃぎすぎだ、リアシェッド。ちゃんととどめを刺しやがれ」


 緑のロングドレスにスリットを自ら入れ調節し、ツインテールをほどいたセローグレイスが、拘束で槍を繰り出しとどめを刺した。


「あなたの槍、久しぶりね、セロー」

「おうよ、絶好調だ。今ならアルフィリースがやりあってたあの棒術使いとも、良い勝負ができるかもな」

「あら、謙虚なこと。圧倒するとは言わないのね」

「虚勢を張る意味がねぇってことだよ。不死身なんだから負けやしねぇ。勝てなけりゃ修行すればいいんだよ」

「あなたのそういう熱くて冷静なところ、好きよ。セロー」

「ぎゃああ、気持ち悪い! 力なんて取り戻すんじゃなかったぜ」

「2人とも、油断しない」


 ハムネットが遅れて出てきたが、2人は余裕で彼女を出迎えた。彼女は赤のニットのロングドレスに下着のような恰好は変わらなかったが、それが似合うだけの豊満な女性に成長していた。手には、鞭の様な剣がある。


「油断はしてねぇさ。もう終わったろ?」

「もちろん。僕の相手じゃないね」


 伸びた剣がカチン、カチンと音を鳴らしてひゅるりと元に戻る。全ての剣が戻ると同時に、空中にいたビーストも地上にいたビーストも、一斉に首が落ちていた。

 三姉妹は互いに向き合うと、ニッと笑った。


「さて、とはいえ管理者が出てきたら厄介だ。すぐに去ろうぜ」

「転移魔術で一度外に出て、それから連続で転移するわ。いいかしら?」

「いいよ。さすがにこの姿じゃあ目立つだろうし、アルネリアに見られるのも厄介でしょ?」

「割と良いところだったんだけどな、アルネリア。次に会う時は殺し合いになるかもなぁ」

「お姉さま次第ね。さて、行きましょうか」

「さらばアルネリア、とか言っておく?」


 ハムネットの冗談にセローグレイスとリアシェッドは笑い、高笑いとともに姿を消した。後には彼女たちの笑い声が反響し、しばし遺跡中層に響いていた。



続く

次回投稿は、12/7(月)13:00です。

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