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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その624~陽光③~

***


「やぁ、終わったの?」

「あなたは・・・」


 ティタニアの足元に倒れ、動かないベルゲイを見て中層の管理者は気軽に声をかけてきた。中層の管理者がひょいとベルゲイを除くと、へらりと笑う。


「殺しちゃったんだ?」

「それが彼の望みでした。死ぬならば戦士として死にたいと」

「そういう人種は常に一定数いるよね。死に方を決めるのは自由だけど、自殺をするのは人間だけだ。ボクだったら死ぬその瞬間まで足掻いてみたいと思うけど、自由意志ってやつは厄介だなぁ」

「それもまた、人間の性質です」

「素晴らしいと思うかどうかも自由か。なるほど、自由とは自由であるような不自由だと言ったのは誰だったかな。哲学だね」


 中層の管理者は笑ったが、ティタニアはその口調に違和感を覚えていた。


「さて、まずは礼を言わねばなりませんね」

「礼?」

「私の体を治療してもらい、さらにはチャスカなる戦姫が私の封印を元に戻す可能性まで示唆してもらいました」

「ああ、そのこと。まぁ持ちつ持たれつってやつさ。完全に封印が元に戻ったわけではないし、ペルパーギスの問題が解決したわけじゃない」

「それでも感謝はしています。さて、その上でこのような行動に出るわけですが――」


 ティタニアが大剣を中層の管理者に突きつけた。その事実をそれほど驚く様子もなく受け止める中層の管理者。その手には、蠢く心臓のような物体が握られていた。


「それはウッコの核ですね? 完全ではなく一部のようですが――他の者の目は騙せても、私はそうはいきません。アルフィリースの一撃の中、瞬間的に転移して核の一部を抜き取った。それほどの真似ができるのなら、そもそもウッコを仕留めることすらできたはずです。

 だがあなたはそうしなかった――そのような怪しげな人物を、このまま放置するわけにはいかないでしょう」

「いや~見逃してくれないかなぁ? 害はないよ? ほらほらぁ」

「その核をどうするおつもりで?」

「ただの研究対象だよ。ウッコが予想外の能力を発揮したのは事実なんだから」


 ウッコの核をお手玉のようにして遊びながら、中層の管理者は笑う。


「どうしてフェイズ進化までできたのか。あるいは保管されている生物は皆そのような潜在能力を持っているのか。試しに覚醒させるわけにもいかないから、こいつで研究するしかないわけさ」

「そのようなことが許されるとでも?」

「誰の許しも求めちゃいない。そもそも、ボク自身がもっとも許されない存在だろう。ボクとしては、自らの研究に身命を捧げるだけさ。そしてそれこそが、やがて人間に最も感謝されることになるだろうけどね」

「どういうことです?」


 中層の管理者がお手玉を止めて不敵に笑う。


「君さ、気にならないの? 北のバイクゼル、それにウッコ。誰がこんな強力な魔物を作ったのか。まさか自然発生したなんて思ってないよね? それに遺跡は? 誰がこれほど高度な建造物を作ったと? 明らかにこの大陸の現在の文化を逸脱している。いつの間にか、そういうものだと受け入れてしまっていないかい?」

「・・・だとして、どうしろと?」

「ボクは神に近づきたい。この遺跡の管理者になって、より神の存在を近くに感じる。神そのものなんて面倒だからまっぴらごめんだけど、神なる生物がいるのなら目指してみたいというのは、おかしいかい?」

「剣を持つ者なら強くなりたいと思うのなら必然、男であるなら肉体を鍛えたいと思うのは自然、女であるなら美しくなりたいと思うのは自明。しかし――」


 ティタニアが大剣を振るい、中層の管理者がひらりと躱した。ティタニアは既に殺気を隠そうともしていない。


「あなたの欲望からは邪な臭いしかしません。己が欲望を果たすためなら、何でも犠牲にしそうだ。やはり、そんな者を見逃すわけにはいきませんね」

「そっかぁ。やっぱり、君が剣を奉じられる側の方が似合っていたと思うけどね。今の勇者よりも勇者らしいよ、君は。本当にボクとやるつもり? さすがに死ぬよ?」

「黙りなさい、ここであなたを逃すほど愚行は犯しません。ここで見逃せばこの中層以下は封印され、二度と足を踏み入れることは適わぬでしょう。資格なき者には入り口すら見えぬのが遺跡――今があなたを倒す、千載一遇の好機です」

「さすがによくわかっているよ、大陸を巡って伝説の武器を集めた女の言うことは違うね。ラ・フォーゼが全員を引き連れて出てくれなかったらどうしようかと正直悩んでいたんだけど、一番厄介なのが残ったなぁ――君の牙ならボクにも届きうるからね。できれば君は殺したくない、もう一度考え直してくれないかな?」

「黙りなさい。借りがあるから不意打ちをやめましたが、それ以外の情けは持ちませんよ」

「そうか、残念だなぁ」


 中層の管理者がため息と共に魔力と殺気を解放する。その圧力にティタニアの額に汗が一筋流れると、予想外の影がその場に出現し、目にも留まらぬ勢いで彼らの方に走って来た。



続く

次回投稿は、12/1(火)14:00です。

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