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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その622~陽光①~

***


「よっしゃあ、帰るぞ!」


 激戦の後、余韻や感慨にふける者が多い中、突然叫んだのはベッツ。ルイとレクサスが呆れるような表情をする中、ラインは静かにアルフィリースに語りかけた。


「大丈夫か?」

「ええ、怪我はないわ」

「そうじゃない、大会で右腕を痛めていただろう。さっきの最後の一撃でさらに痛めたはずだ、見せてみろ」

「気づいてたの?」


 アルフィリースはラインの観察眼に驚いたが、ラインは無言でアルフィリースの右腕をとって観察していてが、ある一点で強く握ると、アルフィリースが苦痛に顔を歪めた。


「折れちゃいねぇが、骨にひびがはいってるな」

「今日の本戦は無理かしら?」

「剣は握れるだろうが、戦いにゃならんよ。しかも相手はルイだろ? ただでさえ体格でもやや不利だ。棄権がいいだろうな」

「天覧試合で棄権すれば、傭兵団の名前に傷がつくわ」


 困り顔のアルフィリースに、ラインがため息をつく。


「大人しくアルネリアの施療を受けるか、添え木を小手で隠して試合をするかだな」

「こんなので回復魔術を使うのも違う気がするし、ラーナやクローゼス、ミュスカデにやれる範囲で治療してもらうわ」

「そうしろ。で、どうする?」

「どうする、とは?」

「撤退だよ。ベッツの言う通り、ウッコは死んだが管理者を名乗る野郎はまだ健在だ。時間的にも夜が明ける頃だろう。撤退するなら早い方がいい。遺跡は広いからな。自力で歩いても試合までに地上につくかどうか」

「お望みなら、地上までお送りしますわ。黒のお姉さま」


 ラ・フォーゼが慇懃に申し出た。アルフィリースは困惑していたが、ラインは明らかに嫌悪感を出しながらラ・フォーゼを見据えた。


「オリュンパスの教主様だったか? 突然現れて恩でも着せようってか?」

「あら、嫌な人ね。そんなつもりはなくってよ」

「なら、さっきの無謀な魔術の弁償ってことにしな。あの魔術、下手したら俺たちも巻き込んで死んでいた。どちらにせよ、お前に借りは作りたくない」

「純粋な好意でしたのに。気になるのでしたら、そういうことにしますわ。ささ、外に行きたい方はお集まりになって。すぐに外に行きますわよ」


 ラ・フォーゼがぱんぱん、と手と叩くと、他の者も怪訝な表情をしながらもラ・フォーゼの元に集まって来た。その中でテトラスティンがぐいとアルフィリースの腕を引く。


「アルフィリースだな? 少し話がある」

「魔術協会長のテトラスティンさんだったかしら? 黒の魔術士に入ったと聞いたけど」

「元魔術協会長で、元黒の魔術士だ。そして魔術協会には復帰する予定だ」

「え?」


 意外な言葉にアルフィリースが戸惑うが、テトラスティンは関係なく話し続けた。


「多くは話せないが、二つ言っておきたいことがある。一つはいずれお前の前に現れるであろう、強大な敵のことだ」

「抽象的ね、オーランゼブルじゃないっていうの?」

「オーランゼブルなど小物だ、お前の敵にすらならんだろう。だからこそあいつは占星術を駆使してお前の存在を魔術協会や魔女からも秘匿し、孤立させた。それでもお前が御子としての力を振るうことを恐れたオーランゼブルは、精神体の使い魔をお前に宿らせて恐怖感を植え付け、お前を操り運命を捻じ曲げようとした。結果として失敗に終わったが、お前は自らオーランゼブルに剣を向けたことで、恐怖に打ち勝った。もう私が何もしなくても大丈夫だろうが、一応これは抜いておく」


 テトラスティンがアルフィリースの背中に手を伸ばすと、すっと四角錘のようなものを抜いていた。それはライフレスやブラディマリア、ティタニアに仕込まれていたものと同じだった。


「ドゥームのやつ、お前にもこれがあることを知っておきながらわざと抜かなかった。油断するなよ? どんな甘言を弄しても、あいつはお前に害しかなさない」

「・・・わかっているつもりよ」

「仕掛けて来るならお前が一番油断している時か、疲弊して動けない時だ。奴は常にお前を見ている、忘れるな。

 そして魔術協会にもオーランゼブルと繋がっている奴がいたが、ようやくそいつを炙り出すことに成功した。俺がいなくなってようやく気が抜けたんだろうな、尻尾を掴んだ。これからそいつを粛清に行く。何かあれば俺を頼るといい。お前にはその権利があるし、本来は魔術協会が行うべきだったことだ。ようやく、本来の役目を果たしてやれる」

「待って、強大な敵って?」


 その質問に、テトラスティンは言い澱んだ。


「・・・詳しくは言えない。だがお前が黒なら、敵は白だ。精霊はお前の味方をするだろうが、それ以外は敵になる。どんな絶望的な状況になっても、自らを見失うな、自棄やけになるな。どれほど追い詰められても、お前の味方は多い。それはお前の行いによるものだ。人生で積み重ねたものは決して裏切らない。なんでも敵とみなすのはよくないが、疑う時には一番疑いたくないものまで疑え」

「・・・よくわからないけど、心得ておくわ」

「もう一つ。ラムフォート大森林の遺跡を攻略しろ。遺跡の主はカレヴァン。かつてアルドリュースも挑戦し、叡智を授かった。お前ならそれ以上のものが手に入るはずだ」

「遺跡? ここみたいな?」

「ここも遺跡だが、ありようを捻じ曲げられている。今はこれ以上のことはいえないが、この遺跡はこの大陸で最後に訪れるといい。この大陸の本当の遺跡は7つ。自然迷宮ダンジョンは数多くあるが、本当の遺跡は7つだけだ。そして稼働しているのは、ここを含めて3つだけ。ラムフォート大森林、大草原の遺跡はお前の力になってくれるだろう」

「お姉様、参りますわよ!?」


 ラ・フォーゼがやや苛立つ声にテトラスティンは手を離し、距離を置いた。


「俺の言葉、忘れるなよ? いと健やかに過ごせ、アルフィリース」

「ええ、あなたも・・・というのは少し違うのかしら?」

「不死者の俺にとって、本当の意味でも健やかは無縁だな」


 それだけ告げると、テトラスティンは掻き消えるように姿を消した。転移魔術で飛んだようにも見えたが、魔術士としての彼はアルフィリースの知らない領域にいるようだった。

 そしてライフレス一行やブラディマリアまでもが思考のラ・フォーゼの提案に乗る中で、辞退した者がいる。ティタニアとベルゲイだった。



続く

次回投稿は、11/27(金)14:00です。

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