戦争と平和、その619~解ける封印㊴~
「ええい、しぶとい奴め!」
「だが一つわかったな。光や闇だけしか効かぬのではなく、一定の法則で属性攻撃をすれば通る。逃げの一手しか取れぬのであれば、倒すのは時間の問題だ」
「弱点を看破するのも結構だが、奴に策がないわけではない。サードフェイズに入ればさらに能力が上昇する。それまでの時間稼ぎに逃げているのだと思うぞ」
浄儀白楽の言葉に安堵仕掛けた一行に、ユグドラシルが水を差す。同時に、ウッコがさらに逃走の速度を上げた。
「ユグドラシル、サードフェイズって?」
「・・・ここにいる電池――実験生物どもは脅威的な性能を持つが、それだけだ。やつらは知性をもたない。だがセカンドフェイズで高度な知性を獲得すると、知性に応じた個体に進化する。ウッコが人間の姿を取ったのは、目の前の敵が主に人間だったからだろう。
サードフェイズは遺跡への接続権を獲得する。いうなれば、準管理者への昇格だな。ここにある他の休眠中の生物共の支配権、人形共の使用権、そして遺跡の叡智を一部獲得する。今はただ膨大なオドを持て余すだけの実験生物が魔術や魔法の使用方法を知り、この遺跡を出ればマナを使用することもできる。さて、どうなると思う?」
ユグドラシルの言葉が聞こえた者はアルフィリースを始めとして顔面蒼白となり、それより前にラ・フォーゼが動いていた。《天牢》でウッコを絡めとらんとするが、その間を人間よりも少々大きい程度となったウッコがするするとすり抜ける。
「すばしこい!」
「細かい魔術制御がまだまだだな、白いの」
「やかましくてよ! なら、あなたがなんとかなさい!」
「ふん、魔術を借りるぞ?」
テトラスティンが印を組むと、ラ・フォーゼの天牢がより複雑な動きをした。鎖が絡まるようにウッコに回り込み、その場で編みこまれて捕縛網に変形した。これにはさすがに抜ける隙間のないウッコは、一度足を止めざるをえなかった。
「魔術奪取! 私の魔術になんて下劣な!」
「私に品を求めていたのか? お門違いだ」
「何を!」
「キィアアアア!」
テトラスティンを罵倒するラ・フォーゼに向けて、ウッコが劫火を放つ。魔術で大きな盾を作り防御するラ・フォーゼとは対照的に、テトラスティンは最小限の魔術を指先に纏わせて、手を前で回して炎をいなす。
「大仰な魔術だな、オドの無駄遣いだ。それこそ雅に欠けるのではないか」
テトラスティンの嫌味に、ラ・フォーゼがくぅ、と悔しそうな声を上げた。さらにテトラスティンは浄儀白楽の方をちらりと見た。
「おい、次の有効な攻撃属性はなんだ?」
「・・・水、風、火だ」
「ふむ、ならばこんなところか」
テトラスティンが高速で三つの魔法陣を宙に描く。ほとんど同時に編まれた魔術は、それぞれが波の刃、風の槍、炎の輪となってウッコに発射される
「無詠唱?」
「しかも早い!」
「しかし威力は――」
テトラスティンは波の刃に乗ると、ウッコの眼前で軌道を変化させてウッコを下から突き上げるように跳ね上げた。そこに追いついてきた風の槍を蹴飛ばし軌道を変え、さらに炎の輪をウッコにはめて拘束した。
ウッコは当然拘束を外そうともがき変形を始めるが、その時間を見逃す彼らではない。
「いいぞ、やれ」
「ハァアアア! 光舞の11形、大光断!」
ソールカの一撃で遺跡の天井や地面事、ウッコの体が斜めに真っ二つになる。同時にリサが叫んだ。
「右です!」
「どっちから見て右かわからないわ! ええい面倒よ、全部吹き飛びなさい!」
《極光》
ラ・フォーゼが特大の魔力を放つ。天井に向けて放たれた光は天井一面に広がり、空間を光で満たした。天井一面が光源となりウッコの影が足元に集約され点になるまで光が空間に満ちると、全員の姿が霞むほどの光が空間に満ちた。
その危険性に真っ先に気付いたのは、アルフィリース。
「ライフレス、ディオーレ! 全力で防御魔術を!」
「ちっ、なんという厄介な女だ」
「心得た!」
「お前はどうする、アルフィリース!」
ライフレスの問いかけに答える暇もなく、アルフィリースは隣にいたティタニアの肩を叩く。
「ティタニア、ついてきて! ここで確実に仕留めるわよ!」
「いけるのか?」
「無理でもなんでも、やるしかないでしょ! あいつ、進化するわよ!」
ウッコの変容に気付いたのはアルフィリースとユグドラシル。光に姿消えようとするウッコは最大限の生命の危機を感じ取り、生存本能を持って本来ならありえないはずの進化形態を取ろうとしていた。
ユグドラシルの計算では間に合わない。だが手を出すこともできない。ユグドラシルが一つ諦めかけた時、アルフィリースにはまだ力を貸すべく囁く者がいた。
続く
次回投稿は、11/21(土)14:00です。