戦争と平和、その617~解ける封印㊲~
意外な人物の登場にラ・フォーゼまでもが一瞬面喰ったようだが、テトラスティンのことを小馬鹿にしたように尊大に振る舞った。
「あら、黒の魔術士に寝返った元魔術協会会長ではありませんか。おつきのリシーも伴わずこんなところにいらっしゃっても、力不足もよいところですわ」
「さて、それはどうかな?」
テトラスティンの不敵な笑みにもう一度ラ・フォーゼがテトラスティンをじっと睨み据えると、彼女ははっとした。
「その魔力――あなた、上位精霊以外に何を得ましたの?」
「なんということはない、ただのきっかけをもらっただけだ。思えば最初から私が持っていた資格を存分に振るえるようになったでも言えばいいのか。この力があれば、貴様が実力行使に訴えようともそうそう引けは取らぬ。いかにラ・ミリシャーの力を得たところで、思い通りに事が進むと思うなよ?」
「ふん、私とお姉さまの間に割って入るおつもり?」
「そのようなつもりはないが、私のことをアルフィリースも御子も受け入れはすまい。望んでいなくても、三すくみになるだろうな」
「――どうやらそのようね。私の中の彼女が、あなたに嫌悪感と警戒心を全力で発しているわ」
その言葉のあと、アルフィリース、ラ・フォーゼ、テトラスティンの間に敵愾心という名の火花が散ったように見えた。ライフレスはテトラスティンのオドが変化したことに当然気付いていたが、それにしても奇妙な巡り合わせと思う。
「(人間の魔術士としては最強に分類される三人だろうに、性質も育ちも違い過ぎる。水と油のように決して彼らが交わることはあるまい。力を合わせれば歴史にないような偉業を達成することもできるだろに・・・ままならんな、人間というものは)」
ライフレスはかつて魔術に関して激論を交わした自分の魔術士時代のことを懐かしく思ったが、その考えが望郷に至る前にウッコが全力で暴れ始めた。
次々と湧きでる光の鎖を自らの肉を削ぎながら強引に振りほどき、アルフィリースたちに迫ろうとしている。
「まぁ、なんて強引な獣! 雅の欠片もございませんことね」
「なるほど、あれが――確かにかつて魔人と古竜を殲滅した時とはまるで違うようだな。進化の途中の様だが、目覚めたてかつある程度ここまで生命力も魔力も削られているようだ。加えてさきほど下層で起きた出来事でオドも減少している。叩くなら今だが、力を合わせるつもりはあるか、お前たち?」
「――ええ、言われずとも。感情に任せて優先順位を見誤るほど愚かではないつもりよ」
「私もですわ。私にここまで足を運ばせたのですもの、その責任はきっちりととっていただかねばなりませんわ。それに黒のお姉さまとの共闘なんて、最初で最後かもしれませんもの。心躍るこの時を堪能せねば損というもの」
ラ・フォーゼが長い髪をかき上げながら、ウッコを見下すような目つきで見た。テトラスティンは他の者を見て、静かに告げた。
「だ、そうだが? お前たちはいつまで這いつくばっているつもりだ? 既に下層の魔法は霧散している。お前たちのオドが吸収されるのは止まっているはずだ」
「そ、それそうだが」
「吸われた分が急に戻るわけでは――」
「情けない連中だ。そこのユグドラシルがお前たちの肩代わりをしていなければ、当に干からびているだろうに。根性を見せろ」
まだ立ち上がることもようやくできるかどうかという者が多い中、テトラスティンが魔力を解き放ち彼らにオドを供給した。テトラスティンが体内にくくりつけた上位精霊たちが怨嗟と慟哭の声を上げたが、その様子が以前とは少し異なっているのではないかとライフレスは感じた。
「テトラスティン。貴様、雰囲気が変わったな」
「少し考えることがあった、そして一つの結論と答え、それに役目を得た。今は前に勧める材料が手元にある。貴様はどうだ、英雄王。オーランゼブルの洗脳が解けて、まだ思い出せぬこともあるだろうが、やりたいことができたような顔をしているぞ?」
「・・・そうだな。確かに一つ俺にも目標ができた」
「ならば、こんなところで死んでいる場合ではあるまい。あの魔獣を倒す、力を貸せ」
「言われずとも。ブラディマリア、いつまで大人しくしているつもりだ、そろそろ怯えるのを止めたらどうだ」
「・・・誰が怯えているですって?」
今まで浄儀白楽と共にウッコの分体や首を叩くことに力を入れていたブラディマリアだが、ライフレスに促されるように前に出てきた。わかりやすい挑発だったが、それでも痛い部分を抉られたのか、ブラディマリアは憤怒の形相に彩られていた。
続く
次回投稿は、11/17(火)15:00です。