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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その616~解ける封印㊱~


「確かに、私は基本的にグレーストーンからは動けぬよ。だが物事には優先順位というものがある。尻の下にいる蛇が危険だからといって、目の前に迫る蜂の群れを避けぬ者はおるまい?」

「少しの時間なら離れてもよいと?」

「仕方あるまい。もし私が離れてグレーストーンに変化が起きれば――」


 エンデロードは握った拳をぱっと開いて見せた。それが何を意味するか、わからぬ白の二位ではない。

 深いため息とともに、白の二位は首を振った。


「なんと危うい均衡なのか」

「かつての戦いの余波が続いていることを知っている者など、ほとんどおるまい。だが我々が起こした禍根を、後の世代には伝えたくなかったのだ。だからイグナージも何も言わずに眠り続けているし、ダレンロキアも真実を真竜たちに伝えず眠りについた。

 お前たちは我々と共に戦った者の末裔だから知っているだろうが、そうでなければ誰を責めることもできまい。そう結論付けたのだ。どのみち――な?」

「確かにそうかもしれませんが。しかしオーランゼブルは――」

「納得がいかぬ者もいるだろう。それらがどう活動しようと知ったことではないよ。だがウッコの一件はさすがに見過ごせぬ。それにこの波動はウッコのものとは少し違うようだ。何か、私ですら知らないことが彼方の地で起きているのかもしれぬ」

「あなたでも知らぬこと――そんなことがあるのですか?」


 白の二位が眉をひそめたが、エンデロードは少し暗い表情で答えた。


「当然だ、私とて万能でもなければ、神でもないのだから。あたかもそうであるように振る舞っているだけだ」

「・・・ということは、神なるものをご存じで?」

「神、か。確かに遥か昔、それに近しい者がいたということは聞いている。ダレンロキアでさえも記憶が曖昧な程幼少の頃、確かに神なる者に触れたと奴は言っていたかもしれない」

「それこそが、崇め奉るべき存在ですか?」

「さて、どうかな。ただ、神が良き者とは限るまい。少なくとも神が良き者であれば、我々はこんなに苦労はしていない。そうは思わぬか?」

「神が与えたもうた試練では?」

「私はそうは思わんな。これは試練ではなく、ただの苦境だよ。だがその中でも光り輝く者が出現することを願ってやまない――私の願いは贅沢かね?」


 白の二位はエンデロードの問いに答えることはできず、エンデロードは神殿から去っていった。白の二位はエンデロードの姿と気配が完全に消えるとラ・ミリシャーの遺骸を光の柱にくべるべく、神殿の奥へと姿を消していった。


***


「お前たちは――」

「ふふ、ぴったりだわ。一度も来たことがなくても、波動を正確にたどれば転移はできるものね」


 ふわりと出現した全身白の薄絹に身を包んだ少女。髪も肌も色素が薄く、人間味を感じさせない。その少女はこれまた人間離れした尋常ではない量のオドを纏い、冷笑とともに周囲を見渡し、アルフィリースを見つけると裾を掴んで挨拶した。


「直接おめもじするのは初めてですわ、黒のお姉さま。ご挨拶申し上げます」

「あなたは――オリュンパスのラ・フォーゼ」

「覚えてくださり光栄ですわ」


 ラ・フォーゼは薄く笑ったが、その笑みはその場の者を凍てつかせるのに十分な威圧感を持っていた。

 ラ・フォーゼはしげしげとアルフィリースを観察していたが、アルフィリースはラ・フォーゼを見るなり言葉を放った。


「あなた、雰囲気が変わったわ。何があったの?」

「ふふ、あんなにちょっとしか話したことしかないのに、お分かりになるのね。やはりあなたは私にとって特別な存在だわ」

巫山戯ふざけないで。何をした――いえ、誰を『取り込んだ』の?」


 その言葉にラ・フォーゼは大きく笑った。


「あははははっ! さすがお姉さま、今すぐ殺して差し上げたいくらいだわ! でもまだだめ、その時が来ていませんもの! 今はこの醜い鳥をなんとかしないと」

天牢ヘブンズフォール


 ラ・フォーゼはぱちんと指を鳴らすと、地面や天井から光の鎖が無数に飛び出てウッコを拘束した。ウッコはその一つ一つをちぎり始めるが、ちぎった端から端から光の鎖がウッコを拘束する。ウッコは締め上げられて身動きがとれなくなり、苦しみに吠えた。


「キィアアアア!」

「五月蠅い鳥だわ、大人しくこの世の終わりだけ告げていればよかったのに」

「質問に答えていないわ、ラ・フォーゼ!」


 アルフィリースの言葉に、ふふっと笑ったラ・フォーゼ。


「お察しの通り、母上を殺して力を頂戴しましたわ。本来そこまでする予定ではなかったのですが、ウッコの覚醒は予定外でしたので――他の者を片端から取り込むより、母上を取り込むのがもっとも効率的かつ迅速でしたもので」

「な――」

「驚く暇はないぞ、お前たち。オリュンパスの異常性は元々そのようなものだ」


 全員が愕然とし、アルフィリースの表情が怒りに染まるその前に、もう一つの転移魔術が起動した。そこからはテトラスティンが出現し、牽制するようにラ・フォーゼを睨み据えた。



続く

次回投稿は11/15(日)15:00です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラフォーゼにテトラまできましたか すごい、、 さらに盛り上がってきた! [一言] テトラの精霊に対する行為を知ったらアルフィー激怒しそう
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