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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その614~解ける封印㉞~

 ユグドラシルとしてもあまり良い状況ではないのか、表情に焦りが見えた。


「魔法のせいで出力が落ちているのはウッコも同じだ。だが物理的に相手の方が圧倒的にお前たちより強い。今でこそお前達が吸い取られる分を私が代行しているが、魔術や魔法が使いにくい状況ではお前たちに勝ち目は――待て、アルフィリース。お前、なぜ魔力を吸い取られていない?」

「え?」


 アルフィリースは自らの体を見たが、何ら異変はなかった。だが回りの全員はティタニアやライフレスだけでなく、ユグドラシルやウッコまでもが一様に気怠そうにしていた。

 その中でただひとり、アルフィリースだけがけろりとしてその場に立っていた。


「どうして・・・」

「アルフィリース、お前は一体――」

「・・・なるほど、かつて抱いた俺の違和感は間違いではなかったのか。アルフィリースよ、魔術が使えるのではないか?」


 ライフレスが薄く笑っている中、アルフィリースは魔術の使用に問題がないことを確認した。それを見たライフレスが笑い、アルフィリースもユグドラシルも驚きの表情となった。


「普通に・・・使えるね」

「なぜだ? 御子の力があったとして、そんなことができるとは限らんぞ」

「やはりそうか・・・ユグドラシル、理由がわからないのか?」

「む」


 ユグドラシルは自らが理解できない状況が不愉快なのか顔をしかめたが、すぐに思い当ることがあったようだ。


「・・・なるほど、そういう可能性があるのか。だが理由はわかったが、理屈が通らん」

「理屈など知ったことか、万理に通じようと、理解できぬ事象は世の中に溢れているだろう。この女は世界のたった一人の魔術士かもしれぬ。あるいはそれこそが特性かもな」

「な、何? 何なわけ?」

「理由はわからん。だがアルフィリース、お前はその気になればオドがなくてもマナを使った魔術を行使することが可能だ。だからオドすらすわれるこの状況でも、マナを使った魔術を使用することができるのだ。

 オドが0になっても魔術を使える――つまりはマナさえあるのなら、貴様の魔力は無尽蔵だ。魔術士の夢を意図せず実践できるとは、なんとも腹立たしい女だよ。今までにも無意識で使用していたことがあるはずだ。かつて俺と戦った時のようにな」

「オドが尽きても魔術を行使――」


 アルフィリースが呟き呆然としたが、それがいかなることか理解はできていなかっただろう。ユグドラシルですら驚愕する事実。そしてもう一つの可能性にユグドラシルは到達する。


「(いかに離れているとはいえ、使徒が魔法を行使しようとしているのだぞ? その中で魔術を完成させる――それがいかに小規模なものだとしても、どれほどの労力を要することか。魔術とは、つまるところ限定空間のマナの奪い合い。それにおいて使徒をも上回る人間アルフィリース。いや、本当に人間なのか? だが確かに彼女は――いや、今はそれどころではないな。

 私は直接的にウッコを仕留めることができない。魔術がろくに使えない状態でウッコを押し切るのに、アルフィリース以外にもう一手、いや二手が必要だ。一瞬でいい、誰かがオドを供給してくれればウッコを仕留めることができる。誰がそれを――む?)」


 ユグドラシルが想い悩んでいると、そこに転移魔術が二つ同時に起動し、二人の人影が出現した。


***


「邪魔するぞ」

「貴様、何物!」


 オリュンパスの神殿に突如として現れた、紅蓮のドレスに身を纏ったふくよかな女性。結界を強引に破り足早に神殿内を進む女性を位階を持つ神官たちが止めようとするが、その歩みは一瞬たりとも止まることがない。


「馬鹿な、金と銀の神官が総出で止まらぬだと!?」

「貴様たちが金と銀だと? ふん、随分とオリュンパスも質が落ちたものよな。緩やかに過ぎゆく時の中では、人の能力も劣化するのみか」

「何を!」

「今の巫女に伝えよ、炎姫が参ったとな。それすらもわからぬようなら、今この場で神殿ごと溶岩の海に沈めてくれよう」

「やめていただけないか」


 奥から響く声に、その場にいた者が全て平伏した。肌の白い神官たちの中でも一層純白の肌をもつ青年が足早に歩いてきた。

 青年はエンデロードの前で膝を折ると、恭しく挨拶をした。


「古き時代の支配者の一人、炎姫エンデロード様とお見受けいたす。末席の者どもがとんだご無礼をしたもよう。平にご容赦を」

「ふん、私のことがわかる者もいたか。官位は?」

「白の二位にございます」

「小生意気そうなガキだ。平伏したその下で、拳を握るのをやめろ。力試しがしたければあとで相手になってやるが、今は急ぐ。今の巫女の元に案内せよ」

「これは・・・」


 白の二位がへらりと笑うとエンデロードは明らかに不快そうに鼻を鳴らしたが、大人しく白の二位が案内を始めたので黙ってついていった。

 白の二位はゆっくりと歩いているようで、エンデロードが足早に歩かねばいかぬほどの速度で歩んでいく。魔術で補ってるのは速度か、時間か。それなり以上の使い手であることは明らかだった。


「白の二位ともなればまぁまぁだな」

「恐れ入ります。全体の質を底上げするより、使い物なる強者が数名いればよい。それが現在の育成方針でございますゆえ」

「今の巫女がそう言ったのか?」

「次世代の巫女様が主に推奨されています」

「ふむ」


 白の二位の案内で神殿の最奥に入ったエンデロードだが、そこに至って白の二位の顔つきが少し険しくなった。その理由はエンデロードにもわかる。血の匂いが漂ってきたからだ。



続く

次回投稿は、11/11(水)15:00です。

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