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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その612~解ける封印㉜~

 その姿を見て、リサとアルフィリースが安堵のため息を大きく漏らした。


「間に合ったか」

「危なかった~」

「もうちょっと急ぎ足できやがれです、死んだかと思ったじゃないですか」

「そうは言っても、派手に動けば気取られただろう。戦いが一度止んだせいで、逆に急げなくなってしまった。戦っていてくれれば、それに紛れて接近できたのだが」

「こちとらソナーで場所を報せるのが精一杯ですよ、ちきしょうめ」


 リサは先ほど戦いながら、この中層に他に誰かがいないかとソナーを飛ばしていた。そしてユグドラシル、シュテルヴェーゼ、ジャバウォックがいることに気付いた。

 彼らを呼び寄せることが、リサにとっての奥の手。先ほどの戦いに間に合えと思っていたのだが、道が入り組んでいたせいで、到着前にウッコを仕留めてしまった。その結末にはリサも、実はユグドラシルでさえも驚いていたのだが、次の事態が勃発したせいで、うまく虚を突く格好になってしまったというわけだ。

 そしてアルフィリースだけが、リサの思惑に気付いていた。戦場で傭兵団全体に指示を出す時、リサがアルフィリースの傍にいなければ手信号を使ったり、ソナーで暗号を飛ばしたりすることで彼女たちは意志疎通を図る。ラインも何かをアルフィリースが狙っていることまでは気付いたが、具体的な内容までは気付かなかった。

 それにしても、救援が裏拳でウッコを殴り飛ばしたのにはアルフィリース以外の全員が目を丸くしていた。それはシュテルヴェーゼも、ジャバウォックやソールカでさえ、救援を呼んだリサまでも同じだった。

 動じていないのはアルフィリースとユグドラシルだけ。そしてアルフィリースはユグドラシルに一つの確認をしていた。


「ねぇ、ユグド。あいつが相手なら、戦える?」

「ふむ――問題なかろう。全力は出せんがな」

「どのくらいの力でやれそう?」

「問題なく倒せるが、困るか?」


 ユグドラシルの返答に、それこそその場にいた全員が目を丸くしていた。ユグドラシルを知るライフレスやティタニアでさえ、一瞬彼が何を言っているのか理解に苦しんでいた。


「全力でなくとも問題なく倒せる、だと? 貴様、冗談もほどほどにしろ!」

「そうだ。力を合わせて戦うならともかく、一人でなど――」

「力を合わせるのは結構だが、ちゃんと戦いのレベルについてこい。出来ぬのなら、防衛に回れ。中途半端は巻き込まれて死ぬだけだからな、自殺志願者は止めんぞ」


 ユグドラシルから魔力がじわりと沁み出してきた。まるで海がから静かな大津波が押し寄せたかのように、強大なオド。それすらもまだ全力ではないことを感じさせるだけの余裕がユグドラシルにはあった。

 ライフレスの魔力で構成された体が震える。中層の管理者を見た時にも化け物がいるとは思ったが、ここまで桁違いではなかった。今までやれ精霊を御するほどの魔力よ、人間離れしているなどと呼ばれて得意になったのは何だったのかと、一笑に付したくなるほどの差だった。

 当のユグドラシルは、静かな表情のまま魔力を確かめるように手を握ったり開いたりしている。


「ふむ、戦闘自体が久しぶりだから。上手くやれるかどうか」

「それで何割?」

「割にもならん。せいぜい二分だ」

「二分・・・はーはっはっは、そうかそうか」


 ライフレスが盛大に笑った。そしてその場にどっかりと座り込んだ。


「特等席で貴様の戦いを見ることくらいは、許可してもらえるだろうな?」

「死なないで済むのなら好きにしろ」

「ありがたい」

「オウサマ、ヒナンして!」

「馬鹿を言うなブランシェ。これからがいいところだ」


 止めに入るブランシェを制して、ライフレスはその場に居座ろうとする。そして唸って悩んだブランシェだが、覚悟を決めたようにその場に正座ですとんと座りこんだ。


「ジャア、ワタシも!」

「貴様が付き合う必要はない」

「シモベはオウにツクスもの。ガイコツもソウイッテた!」

「まぁそうだが。従者として契約したつもりはないぞ?」

「ジャア、アイショウ?」


 目を輝かせたブランシェに、ライフレスが呆れたように目に手を当てた。そしてエルリッチを睨む。


「貴様・・・何を教えた?」

「ええ、私のせいですか?」

「ガイコツがアツメたホンにカイテた!」

「だ、そうだが?」

「それは貴様が勝手に選んだやつだ!」

「王よ、それまでです。ウッコが本気になります。再び分体が来ますよ」


 ドルトムントの指摘通り、燃え上がるような魔力とともにウッコが立ち上がって来た。その周囲には雷と炎を纏った人面鳥の群れが続く。

 再度全員が剣を取ったが、その表情はやや悲痛だった。


「またあれの相手か」

「さっきより明らかに強そうだな」

「ユグドラシル、あれも相手にできるのか?」

「・・・いや、無理だな。制約に抵触する。なるほど、そう来たか。偶然だろうが、厄介だな」

「どんな制約だ、それは」

「一定以下の魔力の者と戦うことは禁じられている。自ら手を出すのも禁止、反撃に限定される。回数制限があり、戦う間隔も決まっている」

「なんと面倒な」

「だから大人しくしていたのだ。当然、ウッコに対しても取れる手段は限られる。できれば攻撃はお前たちに任せたいが、手数がやや足りんな。なんとかなるのはドルトムント、ティタニア、アルフィリースくらいか。レーヴァンティンの所持者が上がってきてくれればいいのだが」

「レーヴァンティンの所持者?」

「こちらの話だ。さて、俺はウッコの本体を抑えるから残りはお前たちで何とかしろ。さきほど名を呼んだ連中はこちらの戦いに加われ。隙を見て私ごとで構わない、攻撃しろ」


 そう告げて飛び出すユグドラシル。そしてウッコと交戦が始まると、周囲の分体がこちらに向かってきた。だがその群れを前に、ブランシェが立ちあがったのだ。



続く

次回投稿は、11/7(土)15:00です。

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