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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その605~解ける封印㉕~

「うんぎゃあ、うんぎゃあ!」

「・・・様子がおかしいな。何の鳴き声だ?」

「一旦結界内に退避した方がよさそうね?」

「その暇はない、来るぞ!」


 ソールカとティタニアがアルフィリースとライフレスの前に出るようにした瞬間、闇の檻が中からはじけ飛び、ティタニアとソールカが飛んできた破片を叩き落とした。

 さらに中にいた粘液生物がはじけ飛んで残骸を周囲にまき散らすと、その中心に一際大きくなったウッコがいた。その様子は先ほどとは変わっており、腹部が巨大に膨れ上がり、まるで岩の上にウッコが鎮座しているように見えた。


「どこから岩が?」

「岩じゃないわ、岩に血管は浮き出ないわよ」

「頭だとでもいうのか。だがしかし、この泣き声はまるで――」


 ライフレスが何事かを言わんとした時、岩が向くりと起き上がった。その岩が何であるかを理解すると、全員が「うっ」と言葉を詰まらせていた。

 岩には爛々と光る赤い眼が二つあった。岩だと思っていたのはひび割れた皮膚と浮き出た血管のせいで、鼻もあればぷっくりとした唇もあった。唇からは涎が垂れながらも、絶え間なく泣き声を上げている。それが巨大な赤子の頭部だと気付くのに、4人は一瞬の間を要した。


「赤子、だと?」

「えーと、ウッコとアッカが番だから、子どもを作ったのね、なるほど」

「ソールカ、そんな馬鹿な話がありますか?」

「よくわからないけど、古代の魔獣だからって何でもありなのかなぁ?」


 4人が一歩後ずさり間を取ろうとして、動いた瞬間に赤子が反応した。焦点の合わぬ二つの赤い瞳がぎょろぎょろと移動して4人を正面から見据える。その血走った瞳に睨まれ、思わず体を竦める4人。


「あ~、まずい予感」

「もしかしなくてもまずかろう。俺が蛙の気分を味わうとは思わなんだが、相手が赤子では攻撃も躊躇われるというものよ」

「驚きました、ライフレス。あなたにそのような憐憫の情が?」

「俺を何だと思っている。赤子はいつの時代も希望だ」

「だけどこれは違うわ。倒すに限ると思うけど?」

「ならば先陣を切るが良い、ソールカ。その隙に特大の魔法を叩きこんでやる」


 ライフレスの言葉に返答するまでもなく、ソールカが動く。その動きは音より速く、しかし赤子の反射がそれを上回る。

 逃した腕に捕まれるソールカ。


「なっ?」

「速いっ!」


 ソールカが振りほどこうと暴れるが、赤子の手はびくともしない。暴れるソールカがくすぐったいのか赤子はげきゃきゃ、と奇妙に笑ったが、両手を添えて力を込め始めた。


「うぁああ! ま、まずい!」

「ちいっ!」


 ティタニアの大剣が閃くが、一撃だけでは赤子の腕を落とすには至らない。その間にもめきめきと骨の軋む音が聞こえてくる。


「ぐぅううう!」

「姫様!」


 見かねたヴァイカが飛びこんで赤子の腕を落とした。そのまま座位をとろうとしていた頭部に突撃し、ウッコを転がすヴァイカ。


「姫様、ご無事で?」

「え、ええ。なんとかね。あの巨体でなんという速度。音速くらいならついてこれるというわけね」

「追撃します」

「よしなさい、ヴァイカ!」


 寝転ぶウッコを攻撃すべく巨大な剣を構えて突撃するヴァイカだが、その目の前にウッコの頭部だった首が伸びて来る。


「邪魔だ!」


 ヴァイカはそれらを斬り払いなおも進もうとするが、その眼前に新しい頭部が伸びてきた立ちはだかった。


「馬鹿な、三つ目の頭だと――?」


 ヴァイカの突撃を正面からとらえ、空中で押し合いになるヴァイカとウッコの頭。その横に、四つ目の頭がぬるりと伸びてきた。


「ぬうっ!」

光砲キャノン!」


 ソールカの一撃で四つ目の頭部は吹き飛び、衝撃波で隙ができたヴァイカが三つ目の頭部の口を横に斬り払って脱出する。


「すみません、姫様」

「いいのよ、それより――」


 赤子の背中からは次々と今までのウッコの頭部が生えていた。その数は既に20を超え、まだまだ増え続ける。そのどれもが小さく火を吹き、奇声を上げ始めていた。


「あの首が全て私たちをとらえうる速度を持つとすれば、近寄るのは事実上無理だわ。さて、核を一点集中で叩こうにも、どうしたものか」

「ヒヒイロカネで作った刃に刃こぼれが入りました。強度も想像以上。全開の一撃でないと、仕留めれないかと」

「困ったね、戦いの中で進化しようとしている」


 中層の管理者が思わず唸る。ウッコとアッカがそもそも一つの生物となりうることなどどこにも書いていなかったし、そこまでの能力を発揮するとは思ってもみなかった。知性はないかもしれないが、生物としての本能で有効な手段を見つけ、そして形態がそれに応じて進化する。

 研究対象としてはぞくぞくする興奮を覚えるが、それにかまける余裕も今はない。


「現存する最強の戦姫二人で前衛が務まらないとすると、時間稼ぎがなぁ。ボクが前衛をするかぁ? うーん、でもなぁ」

「よぅ、旦那。まだやる手段はあるんだろ?」


 声を上げたのはベッツ。その声に中層の管理者は独り言のように答えた。


「そりゃああるよ、核だけ一点攻撃すれば倒せるんだから。いまだ魔術は有効なはずだ」

「何呼吸あればいい?」

「詠唱と魔術の発動で40あれば十分すぎる」

「30は俺が稼いでやる。あとは誰かがなんとかしてくれや」


 ベッツが一人前に出た。その動きを見てレクサスとルイが驚く。



続く

次回投稿は、10/24(土)16:00です。

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