戦争と平和、その603~解ける封印㉓~
「なるほど、今のうちに仕留めろってことか」
「他人の策に乗るのはあまり好きではないが、楽に仕留められるにこしたことはない」
「あら、戦いが好きじゃなかったのかしら?」
「戦いこそ我が伴侶であることを否定はせんが、それは俺が責任を負える範囲での出来事だ。大陸の命運がかかるとなれば、少々事情は違うだろうよ。大陸の命運を天秤にかけて楽しむほど、俺は傲慢ではない」
アルフィリースの指摘に、ややむっとした表情で反論するライフレス。
「いちおう、英雄王なわけか」
「貴様、俺のことを勘違いしていないか? 俺が英雄王と呼ばれたのは――」
「2人とも、お話はそこまでです。光の戦姫が仕掛けますよ、乗り遅れないように」
ティタニアの先を行くのはソールカ。両手で円を描くようにして、光を前面に集め、それを膝で蹴りだした。
「光舞の五形、光連弾」
光の弾が伸びて槍のように別れ、一直線にウッコに向かった。ウッコはまだ恍惚とした表情のままだったが、防御本能が危機の襲来を察知する。毛が逆立ち、自らを攻撃する光の槍を迎撃すべく発射された。
「そんな単純な防御じゃあ、私の攻撃は防げないぞ?」
光の槍は迎撃を察知したかのようにかくん、と急角度で曲がってウッコに再度向かう。光の槍がウッコの肉を深く裂くと、ウッコが盛大な悲鳴を上げた。
「ケェエエエエ!」
「うん、通るね。確かに昔とは違う」
「では二の手は私か、呪印全開放!」
ティタニアが黄金の大剣と黒い大剣を抜き放つ。同時に凄まじい闘気が放たれ、大剣二本が輝いた。
「ハァアアアア!」
呪印を解放したティタニアが大剣を軽々と扱い、大剣はそれぞれ黄金と暗黒の気を十分に発揮し、刀身から溢れるように放たれた。まるで伸びる黄金と漆黒の鞭のように放たれた二本の剣気は、ウッコに当たる箇所で交差し、爆ぜた。
「うわぁ、相反する属性をぶつけて小さな対消滅を起こしているの? えげつなぁ」
「褒め言葉として受け取りましょう」
ソールカが小さく呆れ、ティタニアは微笑む。そしてライフレスとアルフィリースが同時に魔術を展開した。
ライフレスの掌には、いつかの《死せる太陽の顕現》がある。アルフィリースがそれを見て首をかしげていた。
「ライフレス。それ、相手に吸収されないよね?」
「心配するな、これは火系統というよりは、ほとんど無属性に近い魔法だ。詠唱を略して威力を小規模化しても、魔術吸収の類は一切無効化する。既に実験済みだ」
「吸収されたら《活かす太陽の顕現》になるものね」
「何を上手いことを言おうとしている。それよりも貴様は何の魔術を――」
ライフレスが聞こうとして、アルフィリースの周りに膨大な闇の精霊が集まっていることに気付いたライフレス。ライフレスも闇属性の魔術は扱うが、アルフィリースが扱う魔術は聞いたことがなかった。
自分が使う魔法を予測し、その影響が周囲に及ばないように魔術を選択するとは思っていたが、想像以上の魔術に思わず息を呑みかけたライフレス。驚きを押さえるので、精一杯だった。
「――貴様、腕を上げたな」
「お褒めに預かりどうも。借り物の魔術だけどね」
「貴様の中にいる奴か」
「そう。あまりに威力が強いし魔法一歩手前の魔術、かつ召喚魔術も合わせた複合魔術だから怖くてろくに使ったことがなかったらしいんだけど、マナの少ない土地だから遠慮なくぶっ放せだってさ。だけど本当に怖いのは――」
「ああ、わかっている」
この規模の魔術を同時に仕えるだけのマナを供給した中層の管理者の方を、2人はちらりと見た。中層の管理者は2人の視線に気付くと、笑顔で手を振った。おそらく彼が展開した防御魔術は、ライフレスの魔法すらも防ぐのだろう。
「――遠慮なくやってよさそうだな?」
「私が先に発動するわ。魔術の発動に時間差がありそうだから」
「よかろう」
ライフレスの合意を得て、アルフィリースが特大の魔術を放った。
続く
次回投稿は、10/20(火)17:00です。